◇「「電子カルテ情報共有サービス」モデル事業の藤田医科大学
生成AIで退院サマリー作成時間を90%短縮」から読みとれるもの
・藤田医大、モデル事業で関連3医療機関と電子カルテを共有
・「退院サマリー」の作成時間を90%と大幅に短縮
・生成AIは、医師の働き方改革の重要なツール
■厚労省「電子カルテ情報共有サービス」モデル事業を開始した藤田医科大学病院
患者同意の下で、全国の医療機関や薬局が患者の電子カルテ情報を共有できるようにする「電子カルテ情報共有サービス」が2025年4月から本格的に運用が開始される。このサービスは、診療情報提供書や健診結果、3文書(健診結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー)と6情報(傷病名や検査等)などを電子的に共有することで、医療の質を向上させ、効率的な診療を実現することが目的(図4 電子カルテ情報共有サービスの概要)。
本格運用を前に、厚労省は3月13日開かれた健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループで、2月3日から愛知県の藤田医科大学及び関連3医療機関(同大学ばんだね病院、同大学七栗記念病院、同大学岡崎医療センター)でモデル事業が開始されたことが報告された。北海道、山形県、茨城県、千葉県、静岡県、石川県、愛知県、三重県、奈良県、宮崎県の1道9県で、電子カルテ情報共有サービスに医療機関から必要な電子カルテ情報を登録することについて実施されるモデル事業では、全国展開を見据え、①医療機関と支払基金で委託契約を締結し、医療機関から支払基金に対して電子カルテ情報の共有について委託を行うことにより、医療機関から支払基金への情報登録に関する本人同意を不要とする。②情報の取り扱いに関する周知(院内またはHPでの掲示)を併せて行う-など、システムのみならず現場の運用等について検証を行う予定。(図5 モデル事業参加医療機関(予定含む))
■藤田医科大学病院、AIで退院サマリー作成時間を90%短縮
医師の働き方改革では、2024年4月から勤務医の労働時間に上限規制が適用され、業務効率化は喫緊の課題となっている。AI(人工知能)を活用して繰り返し行われる重要業務の自動化によって業務フローを改善し、医師の負担軽減が期待される。今回モデル事業に選定された藤田医科大学病院は、生成AIを活用して、3文書のうち、診療情報提供書に添付し入院患者の病歴や治療・看護などの情報を要約した書類「退院サマリー」の作成時間を90%と大幅に短縮することができた(図6 3 文書6 情報の概要)。
藤田医科大学病院は2023年9月、医師の業務効率化を目指し、アマゾン ウェブ サービス(AWS)の生成AIサービス「Amazon Bedrock」を用いた退院サマリーの自動作成に関する概念実証(PoC)を実施した。退院サマリーは入院患者の治療歴と診断を記録する重要な医療文書だが、作成に時間がかかるという課題があった。PoCでは、同病院の呼吸器内科医が実際に記載した電子カルテから生成AIサービス「Amazon Bedrock」を用いて退院サマリー生成を試みた。その結果、従来1件あたり10分かかっていた作成時間を約1分に短縮できると評価された。これは90%の時間削減に相当する。
生成AIは、医師の働き方改革において、大量の書類を扱う医療現場に生成AIは、効率化と負担軽減を実現するための重要なツールとして注目されている。
具体的には、①スケジュール管理の最適化: 生成AIを活用することで、複数の医療機関での勤務スケジュールを効率的に調整できる。移動時間や契約条件を考慮した最適な勤務スケジュールを自動生成することで、医師の負担を軽減する。②文書作成の効率化: 診療記録や報告書の作成を生成AIに任せることで、医師が患者と向き合う時間を増やすことができる。例えば、電子カルテシステムに生成AIを組み込むことで、診療情報提供書や退院サマリーの文章案を自動生成することが可能となる。③問診や受付対応の自動化: 生成AIを活用した問診の自動化や受付対応の効率化により、医療スタッフの負担を軽減し、患者対応の質を向上させることができる。④教育とノウハウ共有: 生成AIを活用して新人医師へのノウハウ共有を効率化することができ、必要な情報を学習し、最適なタイミングで共有することで、教育の質向上が期待される-ことなどである。
藤田医科大学病院以外にも生成AIの活用により、①石川県の恵寿総合病院では、医師の退院時サマリー作成業務を最大1/3にまで短縮、②北海道の谷田病院では、生成AIを活用することで、退院サマリーの作成時間を平均で67%削減、③愛知県の小林記念病院では、AIマニュアル自動作成サービスの導入により作業時間を3分の1に削減する、④愛媛県のHITO病院では、高額な診療報酬請求時などに医師が記入する症状詳記に生成AIを活用するなど、業務の効率化と負担軽減が図られている。
人間が他の生物と異なり、地球上でここまでの進化を遂げた立役者として、「言語」の存在がある。
さらにその言語を「言葉」として記録に残し、多くの人間に共有の情報を展開する…。
歴史と共に、その知見は一層の高まりを見せ、人類はさらなる進化を遂げた。
現代文明の発展の背景として、言語と記録は切っても切り離せない。
現在、一般企業や組織においても先の人類同様に、なのかは分からないが(習性?)、知の共有のために、「議事録」「報告書」などが多く作成される。
議事録作成は大変だが、正しくできていて当然と思われているフシがあるので、作成者は発言者の意図を正しく汲み取り、簡潔に要点を書かなければならない。仮に完成したと思って発信したら、「こんな発言はしていない」などと返され、修正、再送信なんてことを繰り返す。「一応仮配信時に確認をお願いしたのになぁ…」なんてことを口に出せるものでもなく、会議の前は議事録作成に向けて憂鬱な日々を過ごす…。
概してそんな作業に当たるのは、当該部署の若手社員だ、なんてことはどんな組織でも似たようなものなのかもしれない。
昨今はAIの登場やその能力の活用により、文字起こしの時間が大幅に短縮できるとか、果てはAIが議事録を作成してくれ、人間はそれを修正して完成させる、といった芸当も可能になってきた。各企業の議事録ご担当者の業務は飛躍的に進化しているのではないか。
翻って病院。
カルテ記載は医師・オーダーも医師・処方も医師・退院時サマリも医師…と、医療上で重要なデータは、殆どが医師発信でなければことが始まらない。
一般企業であれば先輩社員から「これやっておいて」などと仕事を振られた若手社員が「何で僕が…」と思いつつ「お前の勉強(成長)のためだろ!」などとある意味逃げられない正論をぶつけられ、しぶしぶ作成、後輩ができれば、てぐすねひいて、うまい具合に後輩に担当を引き継ぐ、なんてことは日常茶飯事か。
ただ、最近の(就職活動真只中の)就活生は、そんな仕事(必要かもしれないが、もしかしたら非生産的な仕事:雑用)をまさか自分がさせられるなんて、到底考えていないかもしれない。
「そんな会社は『ブラックだ、もっと自分の(生産的な)能力を引き出し、生かしてくれる会社があるはずだ』」
そういった(自分の)理想と現実のギャップの狭間の中で、新社会人はもまれていくのかもしれない。
売り手市場とされる時代ではあるが、数々の試練を乗り越えて自らが選び、入社した会社だ。是非ともその会社で「自己実現」を果たしていただくことを心より願っている(※3)。
今回のテーマは「生成AIで退院サマリー作成時間を90%短縮」という、驚異的な数字をたたき出した藤田医科大学院の「電子カルテ情報共有サービス」モデル事業 についてである。
コメントを紹介したい。
〇医政局参事官:システム関連費用の高騰にクラウド型電子カルテで対処
厚生労働省医政局参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)の田中彰子氏は3月9日、2024年度日本医師会医療情報システム協議会の講演「災害かつ再生に役立つ医療DX ―DX推進の現状・課題・展望」で、標準型電子カルテα版をこのほどリリース、2026年度の全国展開に向けて準備を進めるほか、病院向けにもシステム関連経費の高騰を踏まえ、クラウド型の電子カルテ標準仕様の作成を進める方針を示した。標準型電子カルテα版は、電子カルテ未導入の医科診療所向け。価格は未定だが、「医科診療所の電子カルテ導入率は約55%。たくさんの人に使ってもらえば当然費用は下がる」と述べ、導入を呼び掛けた。
集約化と標準化。まさにその通り。良い取り組みだと思う。しかしなんでもっと前からしなかったのか。あるいはできなかったのか。
これまで電子カルテが「未導入」だった診療所には、コスト面もさることながら、他にも、未導入の理由があるだろう。こういった厚労省の取り組みを見越し、満を持しての導入。…などということではあるまい。
これだけ電子カルテが群雄割拠の状態を、どう終結させていくのか。あくまで診療所向けの標準化に向けた一歩が踏み出されようとしている。
最近、筆者も活用しだした生成AIについて、医師のコメントだ。
〇研修等で使用する文章の作成や、データの裏付けの手助け等に活用
研修等で使用する文章の作成や、データの裏付けの手助け等に活用。言い回しの確認や、討議したい内容や議題を深めたい事柄に対しAIを相手に論理破綻していないかの確認を行ったりもする。
〇オンコール表の作成
オンコール表の作成、学会抄録の添削などに活用。
〇退院サマリーに生成AIの導入後は定期での経過を拾って手短にまとめることができる
情報提供書は受傷時からの経過や変化を記載することが多く、過去の記録を確認しながらまとめることに時間を費やす傾向があったが、退院サマリーに生成AIの導入後は定期での経過を拾ってきてくれるので、文章をつなげる修正することで手短にまとめることができる。
結構便利にご活用いただいているようだ。さすが理系の最高峰の方々は、地頭が良いのだろう。まだまだ筆者が生成AIに与えている情報では、これら先生の思惑の足元にも及ばないような文章しか作成してくれない。
〇文章の精度があまり良くなく、手直しが必要
会話シミュレーションに利用しているが、文章等は精度があまり良くなく、情報の確認はもちろん、作成後に手直しが必ず必要なので自分で資料検索および文章構築できる場合はそこまで有用ではないと感じる。
実はこちらも医師からの生成AIに対する希望(不満)だ。筆者の生成AIに対する感想は、この先生に近い。
今度は看護師から。
〇看護サマリーの作成時間を大幅に短縮し、心理的な負担感が軽減
生成AIを導入することで、看護サマリーの作成時間を大幅に短縮し、心理的な負担感が軽減していることを体感している。その分患者さんのベッドサイドに行く時間が増え、患者さんと向き合う時間を増やすことができた。
〇音声入力ソフトとAIが連動した退院サマリー
入退院サマリーの作成や、日々のバイタルサイン、食事、排泄などの記録をカルテに入力するのにかかる時間もAIのほうが圧倒的に速い。当院は音声入力ソフトとAIが連動した退院サマリーを導入している。
おお。サマリと生成AIは、どうやら相性が良いらしい。それとも使い方(ラーニングのさせ方?)なのか?
「患者さんと向き合う時間が増えた」
というのが何よりではないか。
今度はこんなコメントを。
〇神野理事長補佐:「VUCAの時代」に生成AI活用は不可欠
第65回全日本病院学会で「退院時看護サマリー作成業務に生成AIを適用した業務効率化の有用性」について発表した恵寿総合病院のIT戦略を担う理事長補佐の神野正隆氏は、「2024年度診療報酬改定では、人材確保・働き方改革の推進が重点課題であり、タスクシェア/シフトやICT活用による業務効率化が求められている。少子高齢社会、生産年齢人口の減少、人手不足の深刻化など今後の医療提供体制は課題が山積みであり、変化に対応できない病院は淘汰されるVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性):物事の不確実性が高く、将来の予測が困難な状態)の時代になると思われる。その中で生成AIの活用による業務効率化は今後、医師や看護師のみならず全てのメディカルスタッフにとって必要不可欠なことと考える」などとコメントした。
21世紀の現代、科学万能とさえ言われるようになったこの時代、生成AIの登場によって、人類はより生産性の高い仕事に(だけ?)従事すれば豊かな暮らしが訪れる、なんてことが本当に来るのか分からないが、それにしても、昔からすれば多くのことが判明してきたはずで、例えば、我々人類は真っ暗な暗闇の中を歩いているとして、その足元だけが光って見えるとしたら、それこそ現代はその光の円の直径は紀元前よりも、明治時代よりも、昭和よりも、平成よりも、相当大きくなっているはずで、人類はかなりの範囲を見通すことが出来ているはずだ。
なのに「VUCA」。
不確実で先が読めない時代、と、これからしばらくは流行語のようにこの言葉が出てくるだろう。
「VUCA」か。
逆説的にだが、これまでの時代は、先が(確実に)読めた時代だっただろうか?
「変化に対応できない病院は淘汰」
これもまた、ダーウィンの名言、
「最も強い者が生き残るのではない、最も賢い者が残るのでもない、
唯一生き残るのは変化できる者である」
こういうことなのだろう。チャールズ・ダーウィンの生きていた時代、17世紀は、今よりももっと「VUCA」ではなかったか。
見えすぎるが故に先が読めない。何とも皮肉なことではないか…。
本文中で紹介された生成AIを活用している各病院のコメントだ。
〇谷田病院:退院サマリーに対するストレスがほとんどなくなった
カルテのコピペや簡略な記載になりがちな退院サマリーだが、医療文書の自動生成・電子カルテの情報検索AIアシスタントの導入により、過不足なく綺麗な形で作成できるようになった。アプリを開いてから保存終了まで、患者IDを入れて数回クリックするだけで、ほぼ完成形のものが出来上がるので、退院サマリーに対するストレスがほとんどなくなった。時間も、これまでは10〜15分程度かかりきりだったが、今は別の作業を並行しながら数分で済んでしまう。
〇小林記念病院:画面コピーと貼り付けを繰り返す手作業が1/3に削減
生成AIを活用したマニュアル自動作成・共有サービス「ManualForce」を導入により、ニュアル作成業務が大幅に効率化。従来、画面コピーと貼り付けを繰り返す手作業が必要だった工程が、実務中に自動でマニュアルが生成される仕組みにより、作業時間を従来比で1/3に削減。マニュアル作成の負担が軽減されたことで、円滑に院内システムのマニュアルが整備された。
〇HITO病院:生成AI活用の基盤として全職員にiPhoneを支給
生成AI活用の基盤として、まず全職員にiPhoneを支給した。業務用のチャットツールの導入により、コミュニケーションが自然と浸透。iPhoneにCopilotアプリをプリインストールしている。ただし、Copilotアプリの使い方などを説明する機会は設けず、利用するかどうかはスタッフに任せた。
画面コピーと貼り付けを繰り返す手作業。
そんなことを何度も何度も繰り返す、まさに「作業」になってしまっている業務、誰か代わりにやってくれたら…
それが現実のものになっている。
「とてもうちには無理だ」なんて言う前に、是非取り組むべきなのかもしれない。
だからと言って、安易な導入に警鐘。医業系コンサルタントからのご忠告だ。
〇個々の職員のAIリテラシーを踏まえた対応
生成AI導入に当たって、病院経営層が注意したいことは、個々の職員のAIリテラシーを踏まえた対応である。ほかの病院の成功事例に慌てることなく、自然とAIに親しむ環境づくりが必要だ。
先述のHITO病院のコメントにも、利用するかどうかは「スタッフ任せ」だったしなあ。AIやハイテク全盛の時代であるものの、1億2千万人全てがそうでは決してないのだ。このあたりが難しいところだ。
最後にこんなコメントを。
〇「退院サマリー」作成時間を最大1/3にカットした事例も
生成AIの活用でわかりやすい例の一つが、患者の病歴や入院時の所見、入院中の医療内容などをまとめた「退院サマリー」の作成支援機能である。幅広い医療機関で導入が進んでいる「ユビー生成AI」では、作成時間を最大1/3にカットした事例も。NECが開発した「cotomi(コトミ)」の場合、電子カルテから退院サマリーの下書きを作成。医師の確認・修正のもと、ほかの医療機関や患者へ共有するフローになっている。セキュリティに強みを持つ「ALYアシスタント」は、退院サマリーなどの医療文書ドラフトを自動生成。つい簡略化しがちな記載内容を、わずか数分で過不足なく作成できるようになったとの声があがっている。
大手IT企業も生成AIの現場導入に向けた研究開発に余念がないようだ。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※3)…
何にしても、何か行動を起こしたのちに記録や報告をするのは、時間の経過とともにとても億劫になってしまうものだ。筆者も、どこかに出張を命ぜられた時、「報告書」作る時間がないかも…なんて帰った後のことばかり考えてしまうのは貧乏性故か。数年後には報告書のひな型(出張先基本情報は事前にリサーチ&作成)を事前に作っておき、出張中にエッセンスのみワードパッドに記録し、報告書のどこに使うかを考えながらカメラのシャッターを切り、帰国後すぐにそれらを組み合わせ、1日で完成だ。これも生成AIならもっと簡略化してくれるかもしれない。
<筆者>