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No.583 介護療養病床の「新たな移行先」として3類型をもとに論議  介護療養病床の「新たな移行先」として3類型をもとに論議

2016年07月15日

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■2018年3月で設置根拠切れる「介護療養病床と25対1医療療養病床」の経過措置

 介護療養病床と25対1医療療養病床(正確には看護配置4対1を満たさない医療療養)は2017年度末で設置根拠となる経過措置が切れる。このため、「新たな移行先」に関する制度設計論議が、6月1日に開かれた厚生労働省・社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」の初会合でスタートした。医療側からは経過措置の再延長を求める意見も出され、「新たな移行先」の制度設計には紆余曲折が予想される。

 

 新たな移行策については、既に厚労省の「療養病床の在り方等に関する検討会」が今年1月に、次の3類型を提案(図1 慢性期の医療・介護ニーズへ対応するためのサービス提供類型(イメージ))。

 

 

 この日の特別部会の会合でも、「新たな移行先」としてこの3類型をもとに、「法的位置づけをどう考えるのか」「人員配置や構造設備の基準をどうあるべきか」「低所得者に対する支援をどう行うべきか」などの議論を行い、具体的な制度設計を行っていくことになった。

 例えば、機能強化型の介護療養から【案1-1】に移行する。通常の介護療養から【案1-2】に移行する。25対1医療療養が病床削減を行って、【案2】に移行する」といったイメージだ。

 

【案1-1】:医療の必要性が「比較的」高く、容体が急変するリスクのある高齢者が入所する医療内包型の医療提供施設

【案1-2】:医療の必要性は多様だが、容体が比較的安定した高齢者が入所する「医療内包型の医療提供施設」

【案2】:医療の必要性は多様だが、容体が比較的安定した高齢者が入所する「医療外付け型」(病院・診療所と居住スペースの併設型

 

■医療現場のヒアリング~介護療養型医療施設の療養機能強化型A、介護療養病床で残すべき

 さらに6月22日に開かれた特別部会の会合では、医療現場から次の3参考人から意見をヒアリングした。有吉通泰氏(医療法人笠松会有吉病院院長、福岡県宮若市)/猿原孝行氏(医療法人社団和恵会理事長、静岡県浜松市)/矢野 諭氏(医療法人社団大和会多摩川病院理事長、東京都調布市)。

 このうち、有吉氏は、法令で定められた基準よりも手厚く医師や看護・介護職員を配置しているが、「加配しても現場は手一杯である」と指摘。介護療養型医療施設の療養機能強化型Aについて「介護療養病床として残してもらうのが最も良い」と述べた。その上で、特別部会などで議論されている慢性期サービスの新類型について、「新類型の報酬が現状と同じであれば、何とか自助努力で維持していけると思う。機能強化型A以下の報酬には絶対にしないでほしい」と訴えた。

 また、猿原氏は、自らの法人における「介護老人保健施設(従来型)」「介護老人保健施設(療養機能強化型、転換型)」「療養機能型Aの介護療養病床―を比較したとき、療養機能強化型Aでは、入所者の要介護度、寝たきり度、自立度(認知症高齢者)が際立って高いことを紹介。こうした点を踏まえて、「看取り機能を担保できる介護療養は貴重である」と述べ、経過措置の延期を求めた

 

 さらに、介護療養からの転換先について、「新たな医療施設」とすべきか「病院」とすべきかの論議が、特別部会委員と参考人との間で交わされた。

 有吉氏は、「24時間の医療・看護提供体制を確保すべきだが、介護療養単独で病院機能・医療機能を維持することは困難。同一法人の中で病院を持ち、医療機能を確保し、介護療養は新たな施設に転換してよいと思う。ただし、転換先の新たな施設について現在よりも医師や看護・介護職員配置を薄くし、報酬水準を下げるようなことがあってはいけない」との考えを示した。また、猿原氏は、「静岡県の慢性期医療協会では、『病院でなければならない』という意見が圧倒的。『病院の名称』を手放すことに抵抗を感じる人も多く、看取りを実施するために最低限「病院」機能が必要だからである。24時間・365日、入所者・入院患者の死に対してエビデンスを持って対応するために『病院』での形を維持すべきだ」と強調した。

関係者のコメント

 

<厚生労働省幹部のコメント:「介護療養病床で提供されているサービスを整理し、新しい介護保険法に位置づけるのが軟着陸の仕方」>

 厚労省の城 克文・医療介護連携政策課長は、「かつての介護療養病床はともかく、今の介護療養病床の役割をみると、大事なことが多い。今後ともサービス提供ができるようにするには、何らかの類型にはめなければならない。療養病床で提供されているサービスを整理して、その機能を満たすような類型を新しく介護保険法に位置づけることが、一番いい軟着陸の仕方ではないかと思う」(5月28日、東京都慢性期医療協会主催の講演会)と、介護療養病床存続の“ソフトランディング”の考えを示した。

 厚労省は平成29年(2017年)の通常国会に制度改正に必要な法案を提出する方針。このためには、特別部会で今年11月中にとりまとめを行うとともに、検討会の選択肢を踏まえた新類型を法案に盛り込むというスケジュールとなる。

 

<鈴木日医常任理事:「再延長がなぜいけないのか。再延長第1選択肢に考えるべき」>

 6月1日の初会合では、日本医師会の鈴木邦彦常任理事が、「再延長がなぜいけないのかが明確でない。再延長を第1選択肢に考えるべきである」と反論。全国抑制廃止研究会理事長の吉岡 充氏も、「介護療養は重介護・要医療の状態にある高齢者を受け入れ、老人医療の一部を担っており、なぜこの制度を変える必要があるのか」と、存続を訴えた。

 

<武久日慢期協会会長:「経過措置の再延長は好ましくない」>

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は6月30日の定例記者会見で、「現在、経過措置中の介護療養から医療療養へ移行できる。にもかかわらず移行しないのでは、『介護療養にはおいしいところがあるのではないか』と疑われてしまう」と述べ、経過措置の再延長は好ましくないとの見解を明らかにした。
 また、池端副会長は、「検討会で新類型の創設に賛成し、特別部会で制度化の議論に入っている中で、再延長を求めるのは『筋が違うのではないか』という意見が日慢協の理事会でも多数出ている」ことを紹介。その上で、「日慢協として再延長は求めない」との方針を明確にした。

 

<東老健施設協会会長:介護療養型老健施設への転換も十分な機能発揮できず>

 「療養病床の在り方等に関する検討会」にも参画していた田中 滋委員(慶應義塾大学名誉教授)は、「住まい・医療・介護という3つの機能を兼ね添える『新たな移行先』は、介護療養などからの転換だけでなく、新設も認めるべきではないか」と提案。これを受ける形で、全国老人保健施設協会会長の東 憲太郎氏は、「これまで介護療養から『介護療養型老人保健施設』への転換が進められてきたが、十分に機能を発揮できていない。介護療養型老人保健施設から『新たな移行先』への転換も認めるべきである」とコメントしている。

 

<医療区分1の患者(介護療養型病棟入院)の家族:「長く入院できるという話だったのに、診療報酬の関係で転院と言っても患者・家族には分からない」>

 身内が医療保険の療養病床に入院し、「入院は3ヶ月までという方針になったので転院してくれと言われている」という家族の声。「入院当初は長く入院できるという話だったのに、この病院の方針が変わったから出て行けと言うのです。ここは病院だから一生いることはできないといいます。長く入院すると病院経営に影響するのでしょうか? 診療報酬の関係があるのでしょうか? なぜそういう方針にするのか分かりません」。

 

<医療療養病床を持つ病院の声:「『医療区分1=社会的入院』ではない。次期診療報酬改定で見直しを」>

 2025年度における医療提供体制の姿を描く地域医療構想では、一般病床・療養病床を「高度急性期」「急性期」「回復期」慢性期」の4つに区分して必要病床数を算出する。このうち慢性期病床には、療養病棟入院基本料を算定する病床などが該当するが、地域医療構想策定ガイドラインでは「療養病床に入院する医療区分1の患者のうち、70%は在宅に移行する」という考え方が示されている。こうした点について、日本病院団体協議会(日本病院会や全日本病院協会、全国公私病院連盟など13の病院団体で構成)が7月1日に開いた定例記者会見で、原澤副議長が、「『医療区分1=社会的入院』と見られがちだ」とし、2018年度の次期診療報酬改定に向けて見直しの必要があるとの考えを強調した。また、神野議長は、「もともと診療報酬を設定するものであった医療区分・ADL区分が、制度改革論議に使われるなど、複雑になっている」と指摘。医療区分・ADL区分に関する見直し論議を中医協で早急に進めるよう求めていく考えをあきらかにした。

 

<マスメディアの論調:「転換が進まないのは、経営者にとって収益が減るから」>

 大手メディアの中には、介護療養病床と医療療養病床の存続を望む経営者に対して、「介護施設への転換の進まないのは、経営側にとって収益が減るから」「患者のことより金儲け」という論調が目立つようだ。

 

事務局のひとりごと

 

 厚労省官僚がよく使われる、「病院(療養型)は約50万/月、特養、老健は約30万/月の単価がかかる…」というフレーズがある。

 この、医療と介護の差である20万/月の単価差が、もともと療養型病床(介護)をなくす、という方向性の発端であったと思う。療養病床があるから、あまり医療を必要としない容体の患者であっても病院に入院させている現状があり、本来かからないでよい医療費が給付されているので、医療ほどの単価がかからなくて良い、利用者の容態にあったベッドに移ってもらうべき、という論法だ。その結果、介護療養型病床は2011年度末をもって廃止と法律で決定したものの、民主党政権に「政権(だけ)交替」があり、その廃止が2017年度末まで経過措置的に延期となったわけだが、今、新たな類型に関する議論が開始された。

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 賢明なる読者の方々にはすでにご案内のことだと思うが、少し「おさらい」として医療施設と病床の機能分化の歴史を紐解いてみたい。

 1948年(昭和23年)の医療法制定以降、病院の病床は「結核病床」、「伝染病床」、「精神病床」と「その他の病床」に区分された。

 その区分は1985年(昭和60年)の第1次医療法改正を経て、1992年(平成4年)の第2次医療法改正では「その他の病床」が「特定機能病院(の病床)」、「病院(の病床)」、「療養型病床群」に区分された。

 1997年(平成9年)の第3次医療法改正では「伝染病床」が「感染症病床」に変わり、「病院」が「地域医療支援病院(の病床)」と「病院」に区分され、2000年(平成12年)の介護保険施行時には「療養型病床群」は「(医療)療養型病床群」と「介護療養型医療施設」に区分され、同2000年の第4次医療法改正において「病院(の病床)」は「一般病床」と「療養型病床」に区分され、「療養型病床」はさらに「医療型」か「介護型」を選択することとなった。この時に「特定機能病院」と「地域医療支援病院」の病床は、病床区分としては「一般病床」と同様の区分となっている。

 2006年(平成18年)の第5次医療法改正では「一般病床」は「急性期病院」、「療養型病床」は「慢性期病院」として区分され、2014年(平成26年)の第6次医療法改正では病床の機能分化を狙いとして、「病床機能報告制度」が開始され、改正の本丸ともいえる「一般病床」再編が始まった。さらに、医療計画について、構想区域における病床機能区分ごとの将来の病床必要量等に基づく将来の医療提供体制に関する構想(地域医療構想)に関する事項等を定めることとなった。この頃から「地域包括ケア病棟」という新たな病棟の考え方も生まれた。

 この間の医療法改正の歴史で「結核病床」、「精神病床」の区分は全く変化しておらず、「結核病床」は別として、「精神病床」についても障害者自立支援法によって、退院可能な精神患者(7万人)の解消を目指すべく、何らかの動きがあるとも考えられる。

 厚生労働省病院報告(平成28年4月分概数)によると、療養病床数は約33万床あるとされている(うち診療所の病床が約1万床)。うち介護療養病床は別の厚労省による資料によれば、平成18年の約12万床から減ってきているとはいえ、6万床を切った状態だ。療養病床群の約18%に相当している。

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 WMN本文中の関係者のコメントにもあったように、運営側の意見としては『「病院」の看板は外してほしくない』、報酬は現行の一番高い設定より下げてもらっては困る、という、最低でも「収入上の現状維持」を求めているものと思われる。

 何度もこの場でつぶやいて自分でも辟易するのだが、この議論は結局「財源論」が前提としてあるので、どこまで行っても相容れないものなのだろう。現在約30万円とされる介護施設の単価だが、厚労省が2025年(平成37年)の医療・介護に係る長期推計における改革シナリオで想定している、在宅介護なら月17万円の単価、在宅医療なら約32万円の単価とされている。一方で長期療養の医療単価は約62万だ(手厚い看護体制、アウトカムを求めてのことだろう)。とにもかくにも、医療と介護の差の約30万円を削りに行こうという方針なのだろう。

 いくらエビデンスに基づいた議論、現場の声がしっかり反映された議論であっても、「財源論」の名のもとに、答えだけが決まっているのではあまりに空しい。議論の行く末から目が離せない。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

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