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No.591 かかりつけ医以外を受診した場合の外来定額負担   

2016年11月15日

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財政審「かかりつけ医の普及や外来機能の分化は不十分」と指摘

 財務省の財政制度等審議会財政制度分科会は10月4日、2017年度予算編成への建議に盛り込む社会保障分野の「改革の方向性」を大筋で合意。医療分野では高額薬剤の速やかな薬価改定やかかりつけ医以外を受診した場合の定額負担、「高額療養費制度」の高齢者優遇措置の見直しなどを求めた。

 

 このうち、かかりつけ医の普及について財務省当局が、「平成26年度診療報酬改定で創設された地域包括診療料の算定は広がらず、かかりつけ医の普及や外来の機能分化は十分に進展していない。諸外国と比較して、我が国の外来受診頻度は高く、多くは少額受診。限られた医療資源の中で医療保険制度を維持していく観点からも、比較的軽微な受診について一定の追加負担は必要なのではないか」と提案(図1 かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担の導入)。

 

 

 同分科会で事務局側が提案した「かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担制度」のイメージは、① 他の医療機関を含めた受診状況等の把握、必要に応じた専門医療機関の紹介・連携、継続的かつ全人的な医療の提供など、一定の要件を満たす診療所等について、患者が「かかりつけ医」として指定(保険者に登録)。②この「かかりつけ医」以外の医療機関を、紹介状なしで受診する場合には、定額を負担(高額療養費の対象)。その際、他の診療所を受診した場合には低額とし、病院を受診した場合には、病院の規模に応じて、より高額の負担を求める(外来患者が増えると病院の収入が増える「選定療養の義務化」の仕組みも、あわせて見直し)-というもの。

 ①については、総合診療医の養成・定着が進むまでの経過措置として、耳鼻科や眼科など特定の診療科については、あらかじめ「かかりつけ医」と相談の上、指定する他の医療機関での診療を可能とする(定額負担も免除)。 ②では、特定疾病の有無・年齢要件は問わず、24時間対応等も求めないなど、診療報酬で評価される地域包括診療料等とは異なり、「かかりつけ医の要件は緩やかに設定」と提案。かかりつけ以外を受診した場合の定額負担の金額についても、他の診療所を受診した場合は低額、病院はより高額で、規模に応じて金額を増やすことを求めている。

 

度々論議の的となってきた外来受診時の定額負担

 受診時定額負担については、民主党政権時代の2011年に、かかりつけ医か否かを問わず、医療機関を受診した場合の「受診時定額負担」が検討されたものの、日本医師会などが患者署名を集めるなどして反対、頓挫した経緯がある。また、「かかりつけ医以外」の定額負担については、2008年度診療報酬改定で75歳以上の高齢者を総合的・継続的に診る目的の包括点数「後期高齢者診療料」(高齢者自身が選択した「高齢者担当医」が心と体の全体を診て、他の医療機関での診療スケジュールも含めた治療計画を作成し、外来から入院先の紹介、在宅医療まで継続して関わる仕組みを評価した点数)が新設されたが、実際に算定した医療機関は1割程度にとどまり、2010年度診療報酬改定で廃止された。

 

 「かかりつけ医以外を受診した場合における定額負担の導入」については、今年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2016)」の検討事項として、「かかりつけ医の普及の観点からの診療報酬上の対応や外来時の定額負担について検討」があげられ、厚労省の社会保障審議会などで検討を進め、2016年末までに結論を出すことになっている(図2 経済財政再生計画と改革工程表のスケジュール(社会保障関係))。外来時定額負担は、2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に向けた論議の焦点となりそうだ。

 

関係者のコメント

 

 <横倉日医会長:かかりつけ医以外の定額負担は、日本の医療の外来アクセスの良さを阻害>

 横倉義武日本医師会長は10月8日、熊本市で開催された第58回全日本病院学会の特別講演で、「かかりつけ医以外」の定額負担は、日本の医療の特徴である外来のアクセスの良さを阻害し、受診抑制が働く懸念もあると指摘。「この手法は取るべきではない。まずは所得の多寡に応じた負担の在り方を検討すべきではないか」と、日医として反対の意思を明らかにした。

 

<松原日医副会長:医療保険は7割給付、これ以上の負担は求めないのが筋>

 10月26日の社会保障審議会医療保険部会の論議の中で、日本医師会の松原謙二副会長は、これまで医療保険の保険給付割合を7割としてきたのは、「(3割以上の)負担は求めないという議論の結果である」と指摘。今回の定額負担の議論は、「筋が非常に悪く、ぜひ考え直してもらいたい」と、重ねて反対の意思を示した。

 

<新興住宅地の開業医:現場のことを知らない中央官庁の論議は、おかしい>

 東京郊外の新興住宅地で開業する内科医は、「私が開業する街は、住民の流入が著しい新興住宅地。この地域になじみのない新住民が、直ぐにかかりつけ医を見つけるのは、大変だ。かかりつけ医の定義もはっきりしていない。現場のことを知らない中央官庁の論議は、おかしい」と、財政審の論議に憤慨する。

 

<財政審分科会委員の意見:フランスのように自己負担割合を引き上げるなど思い切った方法も

 10月4日の財政制度等審議会財政制度分科会終了後の記者会見の中で吉川 洋分科会長は、名前を伏して次の2人の委員の意見を紹介した。「かかりつけ医の制度を定着させるためには、かかりつけ医の質の向上が当然望まれる。そのためには健全な競争が必要」。「かかりつけ医を持たない場合、フランスのように自己負担割合(3~4割といわれている)を引き上げるなど思い切った方法も考えられる」。

 

<年金生活の高齢者の声:軽い風邪では受診せず、家で寝てろということか>

 100円、200円とわずかな額の定額負担というが、内科、整形外科と何カ所もの診療所にかかる年金生活者にとっては、積もり積もれば大きな負担となる。これからは、軽い風邪では、受診せず、家で寝てろということか…。

 

<新興住宅地の主婦:かかりつけ医を見つけないとお金が余計にかかるの?>

 本当は、急病で頼りになるのが、かかりつけ医ですが、急な転勤で引っ越してきばかりの私たちは、かかりつけ医の先生がいません。これから、かかりつけ医を見つけないと、お金が余計にかかるの?

 

<ある医療ジャーナリスト:かかりつけ医の普及という名目での「定額負担」再挑戦は、戦略ミス>

 医療保険部会の論議をみると、個人に負担を求める不人気政策には及び腰だ。定額負担を巡っては、2011年に全ての病院を受診した際に100円程度の負担を求める案を検討したものの、反対が根強く断念した経緯がある。今回、かかりつけ医の普及という名目での再挑戦は、戦略ミスとなった可能性が高いのではないか。

 

事務局のひとりごと

 

 「二者択一」。人心を掌握するのが上手な政治家は、国民に分かり易いキャッチフレーズで対立軸の候補者や政党との立ち位置を明確にして問いかける(当選後は選挙の争点とは異なる問題で賛成もしていないことが色々決まっていくことになるのだが…)。

 外来の診察料に保険免責制導入の議論が開始されたのはいつだったか…。結局その議論は日本医師会等、関連する方々の多くの反対に遭い、あえなく「お蔵入り」になった。

 そしてまた今回の問題の登場だ

 現在、省庁間では人事交流が盛んに行われ、財務省官僚が厚生労働省に出向することも当然ある。社会保障の本丸で背景となる利害関係も含めてその仕組みを学び、財務省に戻ってからは、出向時代に裏の裏まで知り尽くした経験を最大限生かし、厚労省官僚も唸らざるを得ない、かなり子細な仕組みを提案してくる…。

 秋から冬にかけての予算編成のこの時期は、財務省と省庁間の駆け引き真っ只中だ

 話は変わるが、英国ではEUからの離脱を争点とした国民投票が行われ、ブックメーカーの予想を裏切り、「離脱」が選択されたのは記憶に新しいところだ。大国アメリカでは「トランプ大統領の誕生」という、常識的には考えづらいことも起きた。今や「普通」、「常識」、などの言葉は通用しない。あり得ないことだってあり得るのだ。考えてみれば、もう一方の候補者が勝ったとしても、「初の女性大統領」だったわけだ。オバマ大統領の時も大きな変化であった。時代は常に「変化」を求め続けているのだということを考えさせられる。

 

 翻って、枕詞に「世界に冠たる」と付く日本の医療保険制度の特徴として挙げられるのは、「皆保険」、「フリーアクセス」、「現物給付」にあると言って良いだろう。今後ますます負担が増えていく社会保障給付の伸びを抑えるために、あらゆる手だてが講じられ実行されていくのは間違いないのだろうが、それでも支払い側の賛成論と診療側の反対論が相容れることはない。

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 先日、右足首を捻挫した。道路と側道の数センチの段差に、不注意でバランスを崩し、右足かかとが大きく外にグネッとなり、こけてしまった。痛かった。横にいた家内には涙を流してゲラゲラ笑われ、情けないやら恥ずかしいやら…。

 

 今を遡ること約20年前。お葬式の際に焼香を上げるタイミングを図りかね、正座でとてもしびれた状態から急に立ち上がり、両足の感覚がない状態で歩き、バランスを崩し、全体重が左足首にかかってしまった。近くにいた筆者の親戚から、あとで「ブチっ」という音がしたと聞かされた。足首なので、変な曲げ方をしさえしなければ歩けるものの、くるぶしは真っ赤に腫れ上がり、激痛の夜を過ごした。その翌日、近所の整形外科病院を受診すると、靭帯が損傷(捻挫のこと)しているが、足首の曲がり具合からすると、完全に断裂している可能性が高い、とのこと。このまま放っておいても、激しいスポーツをせずに日常生活を送るだけなら特に問題はないが、足を使いすぎると軟骨を損傷し、痛みが出るだろう、という見立てだ。断裂後2週間以内でないとくっ付かないので、手術をするなら近々にした方が良いとのアドバイスも頂いた。手術をすれば、恐らく当時で2週間は入院生活、その後松葉杖での生活が約3週間と、1か月半に渡り、諸々が不自由になる上にいろいろな方に迷惑がかかってしまう…。営業職で数字を抱えている身としては、とても悩んだことを思い出す。結局は手術をするという選択をしたのだが、先日こけた時、その時の記憶がフラッシュバックした。また、1か月半も不自由な生活か…。この先の予定をどうしようか。靭帯が断裂してさえいなければよいのだが…。この号が更新されているころにははっきりしているのだろうが、この筆を執っている現在、小職はひとまず、ギプス固定の不自由な生活を余儀なくされている…。

 

 そんな訳で、業務が終わってすぐに空いている診療所を探し、早期に診てもらうことができたのも、当時の経験を思い出しながら早い段階での診断をしてもらうために、近所の整形外科を探し、ぎりぎりセーフで夕方に駆け込むことができたからだ。フリーアクセスの最大の恩恵だ。診察後、うんもすんもなく、すぐギプス固定であった。

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 もし、いま議論されている制度が導入されたら、かかりつけ医でない診療所を受診したので、別途料金が加算されていたわけだ。いざ我が身に降りかかってくるとなるとなかなか考えものである。

 

 「自分さえよければそれで良い」のか、このまま手を打てずに日本の財政が破綻し、「結局あなたの住んでいる国に大混乱が待ち受けることになり、あなたの身に降りかかってくる」のとどちらが良いか?官僚が示す「二者択一」は我々にそう語りかけているのだろうか?

 一般論としては、大抵の人は後者を選択することだろう。自分の乗っている船が沈没されたら元も子もないからだ。しかし、なぜかそうなっていかないのもこの議論だ。社会保障に関する議論は有識者で行われ(もちろんその殆どが公開の場で議論されているが)、方向性が示されるわけだが、もしもこの論点で国民投票を行ったならば、有識者が導き出した答えと必ずや同じになるのだろうか。財務省に煽られ続けるこの議論、結局今回もお蔵入りになるのか?それとも日本の医療保険制度にも「変化」が訪れるのか…?


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

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