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No.601 病床機能の区分けなど実現に向け具体的に動き出す「地域医療構想」。厚労省、地域医療構想調整会議のスケジュール案を提示

2017年04月15日

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■医療機関の機能分化・転換の調整で注目される「地域医療構想調整会議」

 団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年に向けて、医療・介護ニーズが飛躍的に高まっていく。このため病院・病床の機能分化・連携の推進が重要課題となっており、各都道府県で「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の必要病床数などを規定した「地域医療構想」の策定が進み、2016年度中に全都道府県で策定が終了した。

 2017年度から、「地域医療構想の実現」に向け、①病床機能報告制度の結果等を基に、現在の医療提供体制と将来の病床の必要量を比べ、どの機能の病床が不足しているのか等を検討し、②医療機関相互の協議により、病床機能の区分け、機能分化・連携について議論・調整する「地域医療構想調整会議」(医師会・歯科医師会・病院団体・医療保険者等が参加)の役割が注目される。

 厚生労働省は、2月17日に開かれた「医療計画の見直し等に関する検討会」で、地域医療構想実現に向けて「地域医療構想調整会議」を3カ月に1回程度開催、各医療機関の役割の明確化や、個別医療機関の機能分化や機能転換に関する議論を行う「地域医療構想調整会議の進め方(平成29年度)について(案)」を提示した(図1)。

 

 

 さらに、3月8日に開かれた会議では、同省から次のような具体案が提示された。4~6月に開催される地域医療構想調整会議の春の会合では、病床機能報告や医療計画データブックなどを踏まえた「役割分担の確認」。具体的には、救急医療に着目した場合、救急医療を担っている医療機関ごとの救急車受け入れ実績、救急医療管理加算の算定件数などを把握する。7~9月の会合では、「機能・事業などごとの不足を補うための具体策」についての議論がメインテーマとなり、医療機能・事業ごとの不足を補填するための具体的な議論を行う。10~12月には、医療機能ごとに「具体的な医療機関名」をあげた上で、機能分化・連携・転換について具体的に決定。1~3月には、具体的な医療機関名や進捗評価(指標も含めて)、地域医療介護総合確保基金の活用などを含めた「取りまとめ」を行う。

 厚労省の調整会議の進め方(案)に対して、検討会の構成員から、2017年10月~12月の間に「医療機能ごとに具体的な医療機関名をあげ、機能分化や連携・転換について具体的決定をするのは、性急すぎる。地域医療の混乱を招く」「実現の可能性があるのか」などの批判、疑問が出された。

■病床機能の区分けでポイントとなる医療計画データブック

 地域医療構想調整会議による各地域での病床機能の区分けのポイントとなるのが、医療計画データブックだ。2月の検討会で厚労省の地域医療課の担当者は、データブックの内容について、「構想区域ごと、二次医療圏ごとにどういった各病院の機能があるかについて、具体的には、レセプト等のナショナルデータベース(NDB)の結果を構想区域ごとに分けたデータとなる」と、診療報酬などのデータを活用していくと説明した。

 3月8日の検討会では、病床機能報告制度についても議論された。同制度は2014年度からスタートし、2016年度からは病棟単位で、医療機能(「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4区分)の「現状」と「今後の方向性」のほか、提供している医療の内容(手術件数など)、人員配置、構造などを報告する仕組みになった。特に、2016年度診療報酬改定に伴うシステム改修に併せて電子レセプトに「病棟コード」が付記され、毎年6月診療分のレセプトをもとに「病棟ごとの診療内容」が把握できるようになった(電子レセプトにより診療報酬請求を行っている病院のみを対象)。この病棟データをベースに2018年度分からの病床機能報告制度を見直される(図2)。

 さらなる病床機能の分析によって、医療関係者はもとより住民にとっても、自分が住む地域の医療機関の診療内容などの医療機能の「見える化」が進み、病院選択の情報手段として期待される。その一方で、2018年度には新たな医療費適正化計画が策定されることから、医療費適正化と医療機能の「見える化」と連動して、行政の医療費抑制の手段とされることに懸念を抱く声もあるようだ。

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関係者のコメント

 

<厚労省担当者:「青森県津軽構想区域では、公的病院の統合を行い、病床稼働率を踏まえた医療機能の転換で、地域医療調整会議の議論が進んでいる」>

 地域医療構想の策定を終えた青森県の津軽構想区域について厚労省の地域医療計画課の担当者は、「国立病院機能弘前病院と弘前市立病院を統合し新たな中核病院を整備し、救急医療等の政策的な医療機能を集約。それ以外の医療機関については、病床の稼働率を踏まえ、規模の見直しや機能の転換に向けて、地域医療調整会議の関係者の議論が進められている」と報告した。

 

<西澤全日病会長:「きちっとした病棟単位のデータがなく、『この病院は急性期の機能だ』と結論づけるのは行き過ぎ」>

 地域医療構想調整会議での病床機能の区分け議論の進め方について、全日本病院協会の西澤会長は検討会の議論の中で、「きちっとした病棟単位のデータがなく、『この病院は急性期の機能だ』と結論づけるのは行き過ぎだ。例えば、その病院の中に回復期病棟を持っているところもあるはず。病院単位ではなく、病棟単位できちっと報告してもらい、調整会議で議論すべきだ」と指摘した。

 

<厚労省:「約40件の地域医療連携推進法人が設立を検討」>

 医療法改正で「地域包括ケアシステムを構築する、また病院・病床の機能分化・連携を推進するためのツール」の1つとして創設されることなった新法人「地域医療連携推進法人」制度が、2017年4月2日施行された。厚労省は3月9日開いた全国医政関係主管課長会議の中で、4月2日に施行される地域医療連携推進法人制度について、「把握しているだけで40件程度の事例が検討されている」ことを明らかにした。2017年は、「地域医療連携推進法人制度元年」と言えるかもしれない。

 

<横倉日医会長:地域医療連携推進法人設立で「大病院が集約する形で大きな法人をつくろうという動きは、望ましくない」と懸念>

 日本医師会の横倉義武会長は2月15日の定例記者会見の中で、地域医療構想の実現のツールとして各地で設立が検討されている「地域医療連携推進法人」について、「大病院が集約する形で大きな法人をつくろうという動きもある。そういうのは望ましくない」などと、懸念を示した。また、日本医師会のシンクタンク日医総研は、地域医療連携推進法人の概要をまとめた『日医総研リサーチエッセイ№62』の中で、「大規模法人による地域医療機関の囲込みや系列化が進み、金融機関等からの融資やコンサルティング等を通じた支配につながるおそれがある」などと指摘している。

 

事務局のひとりごと

 

関係各位のコメントを集めさせて頂いた。

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〇邊見全自病会長「地域医療構想調整会議では、公的医療機関が病床削減等の矢面に立つのではないか」

 厚労省の「医療計画の見直し等に関する検討会・地域医療構想に関するワーキンググループ」の論議の中で、邊見公雄・全国自治体病院協議会会長は、「公的医療機関が、(病床削減等の)矢面に立つように見える」と、地域医療構想調整会議における病床調整で、公的病院が割を食うとの見通しを明らかにした。これは、会議で厚労省が、「将来の医療提供体制を構築していくための方向性を共有するため、まずは病床規模が比較的大きい200床以上の病院であって、地域における救急医療や災害医療等を担う医療機関がどのような役割を担うか明確にすることが必要」との提案を示したことを受けての意見。

 

〇民間病院経営者のコメント「地域医療構想調整会議でもめるのは、公的病院と民間病院の病床調整」

 県医師会幹部で病院団体幹部でもある民間病院の経営者は、「地域医療構想調整会議でもめるのが、公的病院と民間病院との病床削減を巡る調整だ。地域医療構想策定の結果、私どもの県では2025年には、急性期と慢性期の病床は過剰となる一方、回復期の病床が不足する予測が出た。これを受け県内のある公的病院が、急性期と慢性期をつなぐ地域包括ケア病棟の増床に真っ先に手をあげた。これには民間病院の経営者が反対し、調整会議の議論が紛糾した」などと地域医療構想調整会議の内幕を明らかにしてくれた。結局、民間病院から地域包括ケア病棟の設置の動きはなく、その公的病院の地域包括ケア病床の増床が認められたようだ。

 

〇地域住民の声「地域医療構想調整会議に参画する住民代表は、真の住民代表か」

 今年1月、都内で開催された住民団体主催の地域医療構想に関する勉強会で、「地域医療構想調整会議」について、患者・住民がどの程度参画しているか、都道府県を対象に実施したアンケート調査結果が公表された。委員の人数や内訳について回答のあった39道府県のうち、患者・住民委員が参画していたのは18道府県にとどまり、平均人数も5.2人から0.1人までバラつきの多い実態が明らかになった。この調査をもとにした議論では、「慢性期医療の重要性が増すほど、ステークホルダーも多様化するから、住民への啓発が重要になる」「地方の各種協議会では既成組織の代表が代表になっている例が多く、真の住民代表かどうか疑わしい」「将来的には医療と介護の融合が必至であり、介護関係者も協議の場に加えるべきだ」などの意見が出され、調整会議の住民参画のあり方に疑問を抱く声が多く出された。

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 医療提供体制の問題は、日本の厚生労働省が関与する財政問題の本質だ。筆者はそう考えている。

 平成26年度国民医療費の構造(厚生労働省)によれば、国民医療費総額が40兆8,071億円とされる中、入院関連費用は入院時食事・生活に関連する費用も加えると、16兆662億円あり、それは国民医療費総額の約39%に相当することになる。さらに患者が入院されることをベースに、検査、手術、投薬、処置などの点数につながっていくのだから、「入院基本料」とは、財政も含めた医療提供体制(ベッド数)問題の本質であり、厚労省の医療制度改革の本丸はまさにそこにあるのではないか?というのが理由である。が、そんなことは賢明な読者におかれては「当然のことだろう。何をいまさら」というところかもしれない。

 高齢者世代の年齢が毎年上がっていくにつれて自然増となってしまう医療費の伸びを、少しでも抑制するためには(※1)、病床を削減するか、1床あたりの単価(点数)を下げるか、はたまた入院患者自体に抑制をかけるか、いずれかの方法をとれば理屈としては抑制が可能である。

 これまで何度か「地域医療構想」の問題をテーマとして取り上げたが、協議の場、「地域医療構想調整会議」のスケジュールが打ち出され、すんなり行けば、来年にはいよいよその姿が本格的に現れようとしている。「地域医療連携推進法人」の問題も含め、厚労省の描いたシナリオの行方はどうなっていくのだろうか。

 お役人の声が聞こえる。「国が決めるのではありませんよ。関係者の皆さん方自らが決める計画ですよぉ。皆ができるだけ納得感を得られるようお願いします。」空耳なのかもしれないが・・・。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

※1・・・決して支払いを減らしたいからではなく、“持続可能な医療提供体制のための財政健全化のための方策として”であるのだろうと信じたい。

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