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No.614 アジアでは「積極的安楽死」について否定的。アジア大洋州医師会連合総会を総括、横倉会長がコメント
2017年10月15日
■「生命を終える時には尊厳ある死をもたらすべき」がアジアの医療職の考え
アジア大洋州医師会連合(CMAAO:加盟14ヶ国医師会)の第53回総会・理事会が9月13~15日まで都内のホテルで開かれ、日本医師会の横倉義武会長が第35代CMAAO会長に就任し、14日には「終末期医療」をテーマに各国の出席者によるシンポジウムが行われた。9月20日の定例記者会見で横倉会長はCMAAO東京総会を総括し、「シンポジウムを通じて、欧州を中心に安楽死が注目されているが、アジア諸国は積極的安楽死については極めて否定的であることが明らかになった」などとコメントした。
“ End-of Life Questions” 終末期医療」をテーマとしたシンポジウムでは、第15回武見太郎記念講演として日本医学会前会長の高久史麿氏が講演し、日本の終末期医療を巡る議論の歴史や現状について説明。今後の課題として「海外で増加しつつある『医師支援死亡』(PAS、PAD)などにどのように我が国で対応するか」などと指摘した。自身が座長を務めた日本医師会生命倫理懇談会の報告書などを踏まえ、日本の終末期医療の現状を紹介。依然として、「医療の目的は『キュア』だけだと考えていて、延命だけが目的と考えている医師がいる。亡くなる人の8割が病院で死亡するが、病院では何らかの措置をすることが役割となっていて、過剰な医療が行われる。患者の尊厳ある死、平穏な死を助ける『ケア』も医療だとする医学教育が不十分だった」との考えを示した。
シンポジウムの議論を通じて横倉日医会長は、「地域のつながりの大切さ」「家族のつながりの大切さ」「宗教」の3つが重要なことも分かったと指摘。横倉氏は「『生命を終える時には尊厳ある死をもたらすべき』というのが、アジアの医療職の考えだと集約することができたと思う」との考えを示した。
シンポジウムの開催に先立ち、日医では事前に「自国において安楽死は認められているか」等の設問をアンケート調査の形で行い、不参加国を含め19ヶ国医師会から回答を得た。終末期医療に対するアジア大洋州の意見は、世界医師会(WMA)シカゴ総会に提出するため現在日医で取りまとめを行っている。WMAでは各地域における終末期医療に関して、今年3月にラテンアメリカ、CMAAO総会でアジア大洋州、11月に欧州、来年2月にアフリカの意見をそれぞれ集約し、方針文書の検討を行う。
■「骨太の方針2017」でも終末期医療について明記、厚労省も検討会を開催
終末期医療を巡っては、今年6月9日閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太の方針2017)で、人生の最終段階の医療として、「人生の最終段階における医療について、国民全体で議論を深め、普段からの考える機会や本人の意思を表明する環境の整備、本人の意思の関係者間での共有等を進めるため、住民向けの普及啓発の推進や、関係者の連携、適切に相談できる人材の育成を図るとともに、参考となる先進事例の全国展開を進める」と明記された。
これを受け今年8月3日、厚生労働省の「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」の第1回会合が開かれ、10月に一般国民、医師、看護職員、介護老人福祉施設の介護職員、各施設長を対象に意識調査を行い、2018年3月に報告書を作成する予定だ。
「人生の最終段階における医療」は、かつて「末期医療」「終末期医療」と呼ばれていたが、2014年度に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(2007年作成)が「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に改称されるなど、厚労省も率先的に使用。ガイドラインでは、人生の最終段階における医療およびケアについては、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、 それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本として進めることが最も重要な原則であるとしている(図2)。
厚労省の検討会第1回会合では、構成員の自由意見のほか、神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科特命教授の木澤義之氏による「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」についての説明に多くの時間を割いた。木澤氏はACPの定義を「今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス」と説明した。検討会では、「国民に対する情報提供や普及啓発を進めるに当たって、配慮すべき点や工夫すべき点などについて、どのように考えるか」「また、本人の意思を共有するための仕組みについて、どのように考えるか」の2つの論点をもとに検討を進めていく予定だ。
関係者のコメント
アジア諸国の終末期医療事情(アジア大洋州医師会総会から)
<台湾では、アジアで初めての終末期患者が治療を選択できる『Patient Autonomy法』が来年施行>
アジア大洋州医師会総会の終末期医療を巡るシンポジウムで、台湾医師会を代表して発表した国立台湾大学病院のShao-Yi Cheng氏は、「恐らくアジアで初めてとなる『Patient Autonomy法』が、台湾では来年施行され、終末期患者が治療を選択する権利が保障されるようになる」と紹介。同法は、患者が昏睡状態などで意思表示できなくなった場合でも、事前指示書(advance directive)に示した治療選択を受けることを保障するもの。
<韓国では、延命治療に関する事前指示書が全国規模でデータベース化>
韓国の終末期医療の事情について、ソウル国立大学のYoon-seong Lee氏は、「韓国では2016年2月に『Hospice-Palliative Care and Dying Patient’s Decision on Life-Sustaining Treatment法』が制定され、延命治療に関する部分は2018年2月に施行される」と説明。延命治療に関する部分の施行によって、心肺蘇生や人工透析、抗がん剤治療、人工呼吸などの延命治療は、患者の事前指示に従い、差し控えや中止が可能になる。また、国内のどこの医療機関からも患者の延命治療に関する事前指示書(advance directive)の内容が閲覧できるよう全国規模のデータベースが整備される。医療機関はデータベースにアクセスすることで、患者の事前指示の内容を確認することができ、患者本人が望まない延命治療を中止することができるという。
<射水市民病院の人工呼吸器取り外し事件を契機に、厚労省検討会がガイドライン策定>
2006年3月に起きた富山県射水市民病院における人工呼吸器取り外し事件を契機に、「尊厳死」のルール化の論議が活発化した。この事件を受けて厚労省は2007年、「終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会」を設置。回復の見込みのない末期状態の患者に対する意思確認の方法や医療内容の決定手続などについての標準的な考え方を整理。2007年5月に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」をとりまとめた。
<厚労省の検討会設置の担当者:「普段から考える機会や本人の意思を共有する環境が整備されていない」>
厚労省の「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」の担当者は、「これまで主に患者に対する環境を整備してきたが、『人生の最終段階における医療』について、国民に対する十分な情報提供や具体的な手段が示されておらず、普段から考える機会や本人の意思を共有する環境が整備されていない。また、本人の意思が、家族や医療機関等で十分に共有されていないため、本人の意思に反した医療が行われる可能性がある」などと、検討会設置の理由について説明している。
事務局のひとりごと
「うるさいっっ!!おれは生きたいんだ!そんなことも分からずに・・・医者なんか辞めちまえー!!!」
2年前に放映された、NHK土曜ドラマ「破裂」(久坂部羊原作)での1シーン。老化した心筋を若返らせる「夢の医療法」を実の父に手術し、その強烈な副作用(確かに一時的には元気になるが、心臓破裂を引き起こしてしまう)について説明した際、仲代達也扮する倉木蓮太郎(国民的俳優である父)が息子である医師、香村鷹一郎(心臓外科医:演 椎名桔平)に言ったセリフだ。今でも鮮烈に覚えている。
一時は死期を悟り、死を受け入れたはずの国民的俳優が、手術が成功(一時的になのだが)して、再び「生」への執着心が前面に出てくるシーンだ。いくつになっても「誰が静かに死なんて受け入れるか!」という、強いメッセージであると、当時感じた(※3)。
今回のテーマは「積極的安楽死」。アジア太平洋医師会連合のシンポジウムで終末期医療をテーマにシンポジウムが行われた内容についてである。詳細は是非本文をご参照いただきたい。
大雑把にいうと、年間約100万人が生まれ、約130万人が亡くなる、そしてそのアンバランスがさらに拡大してゆくことで、これから我が国が迎える「多死社会」においては、その人口からくるライバルの多さゆえ、何においても競争から逃れられなかった団塊の世代である人生の諸先輩方が、看護師、ケアする介護スタッフ、お亡くなりになる際の場所(在宅?病院?)、そして葬儀場、火葬場、墓地に至るまで、なんでもかんでも最後まで獲りあいになるだろうことが予測される。
もちろん、増え続ける医療費を含めた社会保障費との兼ね合いも大きな背景の一つとしながらも、「人生の最終段階における医療」をどのように方針決定していくか?というテーマが国としても避けて通れなくなってきたわけだ。
医療従事者のコメントを紹介したい。
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○医師の声
「延命治療は家族の意向もある」
「終末期医療において最も尊重すべきは本人の意思であるが、それに加え、残される家族も納得し満足できる最後とすることが必要と考える。延命治療は家族の意向もあるので、一概に本人だけの希望で行うことにはまだ無理があると考えている」
<40代麻酔科勤務医>
○看護師の声
在宅医療専門のクリニックに勤務する訪問看護師
「月に2~3件の看取りの場に遭遇するが、意識なく、全身状態も悪く、寝たきりの患者に、昇圧剤などで短期的に生命の維持を図ることには非常に疑問を感じる。法的なあり方を含めた延命治療にたいする検討、またリビングウィルの義務や法的力など今後真剣に考える時期に来たと思う」。
療養病床の看護師
「高齢者の延命治療について考える時、頭によぎるのが、胃ろう設置についての判断だ。胃ろうを増設しないとすぐに亡くなってしまうような場合を除けば、例えば栄養状態を改善させたり、誤嚥性肺炎を予防したりと、その効果について肯定的に捉えて胃ろう増設に踏み切るケースも少なくない。ただ、本人の意思や尊厳は忘れられがちなことが多々あり、その傾向は、終末期になるほど顕著になると思う」。
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我が国の平均寿命が延伸したことは、本当は喜ぶべきことであるはずだ。しかしながらちょっとやそっとの病気では亡くなることがないゆえ、体の衰えや血管の老化にはじまり、健康寿命と平均寿命との差である数年間の医療費の高騰が問題となってくる。私見であるが、この先健康寿命がいくら延伸したとしても、現在の医療のあり方が変わらない限り、いつかはやってくる終末期医療で医療費が使用されることだろうから、健康寿命の延伸は医療費の伸びを抑制することとダイレクトにつながることはないと考える。
であるからこそタブー視されてきた「積極的安楽死」という議論の登場であるのだろう。ただ、患者本人と、その家族の思いは異なるのだろう。倉木蓮太郎のように、本人が生きたい、と強く主張される患者であればやはり延命治療はなされるべきなのだろうが、それとは違い、ご本人に意識のない状況時の“家族の思い”、これには強い感情が伴う。「先生、お願いです。少しでも長生きさせてあげてください!」この肉親の思いは、これは到底否定できるものではない(※4)。
日本をはじめ、まだアジア諸国においては、積極的安楽死についてはさすがに否定的であるというのもうなずけなくもない。
仮に積極的安楽死という概念が定着するとすれば、病院で行うのは現在の医療の主流である「延命治療」だろう。高齢者の家族からのコメントを紹介したい。
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○高齢患者の家族
「延命治療を断ったら病院にはいられないのか?」
脳梗塞で入院中の父は右手以外が動かない。認知症はなく今は鼻からチューブで栄養を取っている。会話は可能。本人は延命治療を受けたくないから自然に任せてくれと言う。他の患者さんは機械でチューブにつながれている方が多く、病院側からは延命治療を勧められると思う。遠回しに医師から病院は治療をするところだから治療が必要ない方は退院と言われている。ということは「延命治療を拒否したら退院しなければならないのか?」
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確かに、積極的安楽死には、あまり医療資源の投資が必要とされないであろうから、病院に入院する必要がなくなるわけだ。「在宅医療」と、言葉では簡単に表現できるが、その包括的なケア体制を地域ごとに構築するのは容易ではない。これまた考えさせられるコメントである。もともとのテーマが、人間の最も恐れる「死」をテーマにしているのだから、その重みは当然といえば当然なのかもしれない。
そんなことを書きつつも、こんな騒動もあったそうだ。
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○京都市配布の延命治療諾否のリーフレットが物議
今年4月京都市が、人生の終末期の医療に備えて自らの希望をあらかじめ書きとめておく「事前指示書」を市民が作成できるよう、関連リーフレット「終活~人生の終末期に向けての備え~」を市内区役所や支所、福祉事務所などで配布した。これに対し地元メディアなどから批判が出た。さらに、障害者団体が配布中止と回収を求める意見書を提出するなど、「事前指示書」に関する情報提供が問題となった。京都市の事前指示書はA4判1枚で、意識のない状態や重度認知機能低下の場合、「家族に延命治療の判断が求められる」とし、胃ろうや延命のための人工呼吸器、点滴による水分補給、最期に迎えたい場所など10項目について「希望する」「希望しない」などを選択式で記載するもの。
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いまだ終末期医療が国民的な議論がなされ、多くの国民が問題意識を持っている、という段階ではないということもいえるのかもしれない。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※3)・・・このドラマには悪役の役人が登場する。「夢の医療法」を不完全なまま世に出し、PPP(ピンピンポックリ)で逝く患者を大量に生み出して、人生の終末期に大量の財源が投入される状況をなくすことによる医療費の削減を目論んでいた(「プロジェクト天寿」)のだが、そこはドラマなのでやはり役人は失脚する。しかし最終回では、皮肉な結末を迎える。「夢の医療法」の副作用が判明した後、倉木蓮太郎のように早く何とかしてくれ!と治験者老人が病院に殺到。だがそれだけでなく、一人の老婆が香村医師の耳元でボソッとささやく。「死なせて」と。香村医師のドキッとした顔が印象的なラストであった。非常に考えさせられた。
<WMN事務局>
(※4)・・・この葛藤に遭遇しないのは、独居老人で最近増加傾向なのだという。つまり、誰の付き添いもない患者であれば、なんとしても延命治療を行おうというバイアスが医師に働かなくなるからだそうだ。今後の「多死社会」では、医師も獲りあいである。医師は超多忙だ。貴重な社会資源である。患者に対する家族の思いは、社会保障費の高騰をも招くのだろうか。またまた考えさせられる問題だ。
<WMN事務局>
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