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No.636 「介護医療院」は21施設・1400床に!! 一方で老人保健施設からの悲鳴の声が<厚労省>
2018年09月15日
■転換前の病床で最も多いのは、介護療養型老人保健施設で629床
「医療」「介護」「住まい」の3機能を併せ持つ新たな介護保険施設として今年4月の診療・介護報酬同時改定で新設された介護医療院。2018年度の介護報酬改定で単位数が設定され、4月から各地で徐々に開設が進んでいる。厚生労働省が8月2日発表した「介護医療院の開設状況等(平成30年6月末)」では、21施設が開設され、総ベッド数は1400床となった。
介護医療院は、日常的な医学管理や看取り・ターミナルケアなど、これまで介護療養型施設(介護療養病床)が担ってきた医療機能に加え、要介護高齢者の住まいとしての機能を持つ長期療養と生活施設の両機能を兼ね備えた新たな施設体系。ただし、2018年度から3年間新設等は認められず、既存の介護療養や医療療養、かつて療養病床から転換した介護療養型老人保健施設(転換老健)からの移行が優先される。
前回4月末時点の調査に比べ、16施設1017床の増加。施設種類別の療養床数の内訳は、Ⅰ型が781床(517床増)、Ⅱ型が619床(500床増)。転換前の病床で最も多いのは、介護療養型老人保健施設で629床(前回比529床増)、次いで病院の介護療養病床の621床(416床増)と、ほとんどが介護療養と介護老人保健施設からの転換だった。また、都道府県別では、長崎県231床、北海道188床、富山県170床、石川県143床、香川県130床の一方で、東京都、大阪府などの大都市を抱える都府県はゼロと、地域差がある(図3 介護医療院開設状況)。
転換元では、医療療養からの転換が一定程度あるが、小規模な自治体(町村)では、「医療保険適用の医療療養」から「介護保険適用の介護医療院」へ転換が生じた場合、介護費が急増し、町村の財政悪化に大きな影響を及ぼすことから、医療療養から介護医療院への転換に一定の制限を設けるところもみられる。
■介護医療院の創設に伴い老健施設は病院からの在宅復帰先から外れ、経営悪化
介護医療院の最多の転換元である介護療養型老人保健施設の経営の行方に翳りがみられる。介護医療院の創設に伴い、老健施設は病院からの在宅復帰先から外れることになり、同時改定後、老健施設の病床稼働率が低下、経営収支が悪化している。
2018年度改定では、在宅復帰に係る指標について、急性期医療における「在宅復帰率」を「在宅復帰・病床機能連携率」とその名称を改め指標の内容が見直された。さらに、集中的なリハビリテーションの提供や自宅等への退院支援機能が求められる地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟は在宅復帰率が7割と統一。その指標の内容が見直され、介護老人保健施設が地域包括ケア病棟の在宅復帰率の指標から外れた(図4 地域包括ケア病棟入院料及び回復期リハビリ病棟入院料における在宅復帰率見直し)。これにより、「病院から老健施設へ」という患者の流れが変わる恐れがあり、老健施設側からは「病院から入所者(退院患者)が来なくなってしまった。一方で、在宅復帰には力をいれなければならず、病床稼働率が低下し経営がますます厳しくなる」などと悲鳴の声が聞かれるという。
日本慢性期医療協会(武久洋三会長)が8月9日発表した「平成30年度介護老人保健施設の運営状況に関するアンケート結果(7月下旬に実施:150施設が回答)」では、①2013年度と調査時点直近の決算期を比較した収支は、全てのタイプの老健施設で収支が悪化している、②2018年度の介護報酬単位に対する2012年度の報酬単位の比率は、超強化型の老健施設を除き全ての老健施設でマイナス報酬となった、③2013年度に満床稼働し、現在も満床稼働している同じ条件であっても減収になっている-ことが明らかになった(図5 平成25年度と調査日時点の直近の決算期を比較した収支の推移(%))。
事務局のひとりごと
今から約半年前、医療・介護業界は2018年の診療報酬・介護報酬同時改定の話題で持ちきりだった。3~4月頃はその点数の詳細を、そこそこの金額を払ってでも多くの参加者が参加する、診療報酬・介護報酬セミナーが開催され、人気講師は引っ張りだこで、何百ページにもわたる資料を、医療と介護それぞれを約1時間ずつ。という、駆け足の講義を思い出す。真剣に聞いていながらも「ちょっと!これ大事!」などといわれると「おっ!」と思って資料に見入ると、考える間もなく次の資料で「これは押さえておかないといけないわよね?」と、矢継ぎ早の講義であった。結局全部大事なのでは?みたいな感じで、講義終了後、頭から煙が吹き出しそうであった。
ところで、当時の資料を読み返してみる。今回のテーマ、介護医療院が在宅として扱われるようになる、という内容は診療報酬パートの比較的早い段階で出てきた。当然といえば当然か。注目の地域包括ケア病棟の在宅復帰率に関わる部分でとり上げられたからだ。確かに老人保健施設は“在宅”の位置付けからは外されていた。よくよく考えてみれば今回のテーマで紹介のあった、医療機関から老人保健施設に患者の来る流れが大いに変わるという想像は容易にできたかもしれない。
しかし、まだまだ「診療報酬改定セミナー」は、医療機関関連の方が参加されるのがほとんどで、つまり、地域包括ケア病棟の在宅復帰率70%を如何に維持するか?という視点での講義であり、さらに、いくら厚労省が“医療と介護のシームレスな連携”を点数に落とし込んでルールを作っていたとしても、まだまだ“医療は医療”。“介護は介護”という風潮はなくなっていないと感じた。もし、ここで講師が「これじゃあ、老健は死活問題だよね?」などと一言発していれば、勉強の足らない筆者にでも「あっ!」と理解できたのかもしれないが・・・。介護報酬側の講義では、講師は同一人物だったが、聞く側のメンバーはほとんど医療機関なので、“連携”“リハビリ”などの用語は当然出てくるし、新設の介護医療院に関する内容ははじめの方であったが、老人保健施設の超強化型以外の話題は、「少しお気の毒ね」的な内容に終始し、しかも講義の終わりかけの数分間で流された感じがする。
今回のテーマに目を通すと、介護医療院はその考え方は当然期待が集まっているが、自治体の財政問題との板挟みで、ものすごいスピードで増えるかと思っていたらそうでもなく、老人保健施設は超強化型以外の施設に関しては、一体どこから利用者を集めることになるのだろうか?と、少し首をかしげざるを得ない、という現状も見えてきた。
コメントを紹介したい。
まずはコンサルタントのコメントから。
○医業経営コンサルタント:「老健施設は介護報酬高い超強化型として生き残るべき」
全国老人保健施設協会が今年6月実施した会員調査では、介護報酬上の届出は、超強化型11.9%、在宅強化型6.9%、加算型31.7%、基本型42.5%、その他型5.3%だった。介護報酬の高い「超強化型」「在宅強化型」が少ないのが現状。4月の同時改定で老健施設が在宅復帰率の計算から除外されたことから、老健施設として生き残るには、在宅復帰施設としての機能を高めていかなければこの先の運営は厳しいと思う。
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なかなか厳しいコメントだ。
全国老人保健施設協会のコメントである。
○東 憲太郎 全国老人保健施設協会会長:「老健施設は、在宅支援・在宅復帰のための地域拠点」
これまで運営基準(厚生省令第40号)で、老健施設の「在宅復帰」が義務づけられていたが、2017年6月の介護保険法改正により、運営基準より上位概念である介護保険法によって、老健施設の役割が「在宅支援」であることが明示された。老健施設は、在宅支援・在宅復帰のための地域拠点となり、リハビリテーションを提供し、機能維持・回復の役割を担う施設であることが、より明確に示された。この改正に基づき、2018年度の介護報酬改定が行われたことは言うまでもない(協会ホームページより)。
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協会ホームページのコメントを引用させていただいたのだが、してみると、今回の診療報酬・介護報酬同時改定の在宅復帰率の議論の流れは当に承知の上で、協会としては「在宅支援」「在宅復帰」のための取組みに重点が絞られることを明確に意識されたコメントである。
ある老人保健施設からのコメントを紹介したい。
○過疎地の老健施設:「リハビリ専門職の確保が困難で、報酬高い在宅強化型に移行できない」
当施設は、在宅復帰・在宅療養支援等指標の点数要件は満たしている。しかし、過疎地にあるため、リハビリ専門職の確保が難しく、「週3回以上のリハビリテーションの実施」を満たすことができず、介護報酬の高い在宅強化型に移行できないのが現状である。そのため、介護医療院への転換を検討しているが、過疎地で経営が成り立つのか情報が欲しい。
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「超強化型」を意識した運営を目指すも、地域特性もあるが人の確保で苦しんでおられる現状がある。
参考になるかどうかは分からないが、介護医療院に転換された施設からのコメントを紹介したい。
○介護療養病床から転換した病院長:「周囲の高齢者施設間の競争が激しくなったから」
当院は介護療養病床を有する民間病院。介護医療院に転換したのは、周囲の高齢者施設間の競争が激しくなったから。周辺の有料老人ホームなどが質を上げて来て、競合先が増え、以前は入所待ちの特別養護老人ホームも3カ月待って入所できるようになったと聞く。新しい施設形態である介護医療院に転換して地域住民にアピールしたい。
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2018年9月4日(火)付のメディファクス7863号 6/8頁の記事(介護医療院で「機能の幅」拡充、適正な受け入れ可能に 札幌西円山病院)によれば、札幌西円山病院では、7月1日付で、グループ内の定山渓病院から移転した医療療養病床60床を介護医療院に転換したという。基本報酬はⅠ型サービス費(Ⅰ)を算定、平均要介護度は4.7程度。これまで国の方針に沿って介護療養病床540床の減床や転換を進め、集約することで病棟機能を上げて医療体制を強化したものの、介護療養病床がなくなったことで「医療と介護の溝が大きく」なり、在宅や施設では療養が難しい医療ニーズのある医療区分1の患者の行き場がなくなってしまい、こうした患者を障害者一般病棟で受け入れた結果、入院患者の「ミスマッチが起きてしまっていた」というのが介護医療院導入の背景なのだそうだ。
転換には療養転換助成事業を活用。利用者は、もともと長期入院していた患者が多く、介護医療院でQOL中心のケアを受けることで、声掛けや食事の際の反応が良くなるなどの変化が現れ、それが介護職員側のモチベーション向上にもつながっているそうだ。
収入面も当初の想定より入所者の要介護度が高く、「計画より多かった」そうで、9月末頃にも満床となる見通しなのだそうだ。
すでに介護医療院を利用している方のご家族のコメントである。
○介護医療院に入所させた家族:「介護施設というよりは、病院。医療職が多いという印象を受けた」
介護医療院は、介護施設というよりは、病院という感じ。今まで入所していた老健施設よりも医療職が多いという印象を受けた。今後、このよう施設が増えることを強く望んでいる。
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やや結論を誘導しているようなコメントの並べ方であるが、これまでもW・M・Nで何度かとり上げてきたように、介護医療院への転換は、収入の優遇措置がある段階(まさに今!!)で、早急に検討していただく必要がありそうだ。
とはいえ、自治体の財政面の問題から、介護医療院への転換に抑制がかかっている現実もあるという。
最後にこのコメントで締め括りとしたい。
○厚労省老健局総務課長:「介護保険制度の本質を踏まえた上での財政運営を検討すべき」
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は、7月26日開かれた厚労省の介護保険部会で、「小さな市町村で人口が数千人程度の所では、1つの施設が医療療養から介護医療院に行くと、その町の保険料がボンと上がり、各地で介護医療院の移行が滞っている」と現状を指摘した上で、「介護保険の実務は市町村が行うけれども、財政規模は少なくとも国保と同じ都道府県にすべき」と主張した。これに対し、厚労省老健局総務課の北波孝課長は「介護保険制度の本質、これまでの経緯、機能をよく踏まえた上で財政運営はどうあるべきかが検討されるべき」との考えを示し、理解を求めた。
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「仏作って魂入れず」、これは法律改定時にお役人が好んで使う言い回しだが、長年の紆余曲折の上、廃止される介護療養病床の新たな受け皿としてようやくできた「介護医療院」という類型である。厚労省には是非とも“成功だった”という未来に導くための道筋を示していただきたいものだ。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
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