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No.647 なぜ解消されない医師の地域偏在、厚労省が「医師確保計画」による偏在解消策

2019年03月15日

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■医師偏在解消に向け、2020年度スタートする「医師確保計画」

 医師の地域偏在解消に向け、新たな「医師確保計画」による医師確保策(医師派遣の充実、医師少数地域での勤務の評価、大学医学部への地域枠・地元枠の設置要請など)が2020年度から始まる。各都道府県は、2019年度中に「医師確保計画」を作成することになるが、その根拠となる指針策定について、厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」の「医師需給分科会」で検討が進められている。

 厚労省は2月18日開かれた第28回医師需給分科会で、都道府県が4月から医師確保計画を作成する際に用いる、医師偏在指標の算出方法、医師少数区域の定め方、医師確保計画の方針や諸制度の設計の詳細を盛り込んだ「第4次中間取りまとめ(たたき台)」を提示した。

 

 医師需給分科会は2017年2月に第2次中間取りまとめを行い、それを基にした医療法・医師法改正案が2018年7月に成立した。この法改正により、都道府県は今年4月から医師確保計画を作成することが求められ、その基礎資料となるのが第4次中間取りまとめである。都道府県は2036年を目標に、医師確保計画を基に、都道府県は医師偏在対策に取り組むことになる。

 医師確保計画に基づく医師偏在対策は、①各都道府県・2次医療圏が、相対的に「医師多数」なのか「医師少数」なのかを、新たな医師偏在指標に用いて決定、②各都道府県で、「医師確保方針」「目標医師数」「具体的な施策」を盛り込んだ「医師確保計画」を定め(2019年度中)、施策を実行(2020年度以降)、③医師少数の都道府県では、「他地域からの医師確保」や「自地域に勤務する医師の養成」などを医師確保計画に盛り込む、④医師多数の都道府県では、「他地域からの医師確保」は計画に盛り込まず、必要に応じて「自地域に勤務する医師の養成」などを計画に盛り込む、⑤診療科間の医師偏在の解消に向けた検討を併行して進めるとともに、喫緊の課題とされる「産科」「小児科」については、特別の医師確保策を進める、⑥医師確保計画の成果を検証し、順次改善していく(2036年度に医師偏在の解消を目指す)-といった手順によって進められる(図1 医師確保計画を通じた医師偏在対策について)。

 

 

「医師少数区域」は全国335の2次医療圏の「下位33.3%」、111の2次医療圏に

 また、2月18日の医師需給分科会で厚労省は、3次医療圏(47都道府県別)、355の2次医療圏別の「医師偏在指標」(2036年に向けて医師偏在解消を目指すための指標。人口10万人当たりの医師数に加えて、5つの要素〔医療ニーズおよび将来(2036年)の人口・人口構成の変化、患者の流出入、へき地の地理的条件、医師の性別・年齢分布、医師偏在の単位(区域、診療科、入院/外来)〕を加味)を公表した(図2 医師偏在指標)。

 

 最も医師多数の東京都区中央部医療圏(医師偏在指標759.7)と、最も医師少数の秋田県北秋田医療圏(同69.6)との間には、10.9倍の格差がある。また、3次医療圏別では、医師が最も多い東京都(329.0)と、最も少ない岩手県(同169.3)では、1.9倍の格差があることが明らかになった。

 都道府県は今年4月から、医師偏在指標などを用いて、医師偏在対策などを盛り込んだ「医師確保計画」を策定し、2020年度から対策を本格化する。目標年度は2036年度で、3年ごとに進捗状況を確認し、医師の地域偏在解消を目指す。具体的な施策としては、「医師少数区域等」で勤務する医師を認定、評価する仕組みの導入や、大学医学部の地域枠の活用などが想定される。

 目標年度の2036年時点で、医師偏在解消が最も進んだ場合(上位推計)でも12道県では5323人分が不足、偏在解消が進まない場合(下位推計)では34道県で2万3739人分が不足することになる(他の都府県は、いずれも医師過剰)。このため、都道府県を越えた医師偏在対策に加え、2021年度で期限が切れる医学部の臨時定員増をどのように設定するかが、今後の重要課題となる。

 

診療科別の必要医師数推計、最も増員が必要なのは内科

 さらに2月18日の医師需給分科会では、新専門医制度における18の基本領域(総合診療を除く)について、2036年の必要医師数と2016年の医師数などを比較した「診療科ごとの将来必要な医師数の見通し(たたき台)について」が示された(図3 診療科ごとの将来必要な医師数の見通し(たたき台))。

 

 診療科別の将来推計が示されたのは初めてであり、最も増員が必要なのは内科で1万4189人分、以下、外科4363人分、脳神経外科2523人分と続き、計10領域は必要医師数が増加する。その一方で、今よりも必要医師数が減少するのは、精神科1688人分、次いで皮膚科1414人分、耳鼻咽喉科1229人分など8領域だった。今年4月から策定する医師確保計画は、地域別の医師偏在解消が主たる目的だが、診療科別の偏在是正に今後取り組むための「たたき台」として提示したのが、今回の推計であり、皮膚科、精神科、眼科、耳鼻咽喉科の4科は現時点でも過剰という結果となった。

 

<関係者のコメント>

 

○厚労省医政局長:「医師偏在対策、地域医療構想、医師の働き方改革は“リンク”」

 1月18日の平成30年度全国厚生労働省関係部局長会議で、厚労省の吉田 学医政局長は、同局の主要施策である「医師偏在対策」「地域医療構想」「医師の働き方改革」は、「別個の施策であるが、それぞれが“リンク”している。どれか1つでも順調に進まなければ、他の施策も進まなくなる」と強調。「地域医療構想によって地域の医療の形が変り、医師の偏在対策で医師が存在する場所が変り、その結果として医師の働き方に規制がかかる。医師の働き方を規制に沿ったものにするには、個々の医療機関で労務管理をしていただくことは当然である」などとの認識を示した。

【事務局のひとりごと】

 

 中国の研究者がゲノム編集技術を使って双子が誕生したというニュースが報じられた時、つまり「デザイナーベビー」がこの世に誕生したことを、日本において経済を中心に取り上げる新聞も、このセンセーショナルなニュースを取り上げた。一面の“春秋”では、デザイナーベビーが主人公であったSFアニメ(※1)を引き合いにだして語られていた(2018年12月3日 日本経済新聞朝刊 春秋)。このアニメの大きなテーマは、自然に生まれた人間(ナチュラル)と、デザイナーベビー(コーディネーター)との戦争が軸になっていたという記憶がある。その対立がひとまず終結し、話がもっと進んでいくと、今度は職業選択の自由(大枠で言えば生き方の自由)がテーマとなり、生まれた時からその人の生き方(職業)が決まっている社会を作ろうとする為政者(決してカースト制ではない:定まった、安定した人生を皆が送れることで理想の社会を実現しようという考え方 だったような気がする)と、それを阻止しようとする主人公たち、という対立軸に変わっていったと記憶している(※2)。

 

 我が国は「民主主義」を標榜しており、当然のことではあるが、生きる自由職業選択の自由も、自然人の権利として、“法の下に平等に保障”されている。そういう日本人が作る物語であるので、前出のアニメでは、最後は自由を守ろうとする勢力が勝って大団円を迎えたのであるが、さてさて、現実の、しかも現在の医療を取り巻く環境の中ではどうだろう。

 今号では医師の地域偏在がテーマとなっているのだが、この問題の背景には医師の診療科の「自由標榜制」と「自由開業制」が大きく関わっていることは間違いないだろう。

 読者諸氏におかれても、職業や生き方、住む場所を自由に選択し、自由を謳歌されながら人生を楽しく生きておられることと考える。

 いや、“そのように生きたい”と考えてはいても、なかなか“思い通りにはならない”現実との闘いの日々ではないだろうか。自由を標榜している我が国だが、なんでも自由というわけにもいかない。これも理想と現実の差なのだろう。医療の地域偏在においても理想と現実の乖離があるようだ

 

コメントを紹介したい。

 ○地域医療計画課:「外来医師多数区域の設定で、駆け込み開業を危惧」

 昨年12月26日の医師需給分科会で厚労省は、外来医療(診療所医師)の偏在対策として「外来医師多数区域」(二次医療圏単位)を設定、2020年度以降同区域で新規開業する場合には届け出を行う際に在宅医療、初期救急医療、公衆衛生など「地域で不足する医療機能」を担うことを合意する旨の記載欄を設ける方針を提示した。医政局の地域医療計画課の担当者は、「一種の駆け込み開業を危惧している」と述べ、「外来医師多数区域ではなく、それ以外での区域での開業を促す。多数区域で開業するのであれば、在宅医療などをやってもらいたいということだ。開業制限ではないという点に気を付けて議論してもらいたい」と求めた。

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 何か苦しいコメントである。決して強制してはいないがうまく棲み分けて欲しい。そのように聞こえてしまう。

 

 開業医からのコメントを紹介したい。

○「子弟の教育を考えると、僻地での開業はきつい」

 子弟の教育を考えると、僻地での開業はきつい。医学部同期で長崎県の離島で開業している友人がいるが、子供の教育のために、中学から長崎市内に下宿させ、ようやく医学部に入学し、今は大学病院の研修医になった。離島の開業医で報酬もそれほど多くはなく、経済的、家庭的負担は大きかったようだ。その息子も、親の姿をみて、開業医ではなく、脳神経外科専門医としてキャリアを積みたいと言っている。

 

○「へき地で働けば儲かるという分りやすい仕組みが必要」

 比喩的表現だが、医師の診療報酬や給与体系は“偏在”している。だから科の偏在、地域の偏在、時間の偏在が起きる。へき地で開業すれば診療報酬の単価を上げるとかいった「へき地で働けば儲かる」というわかりやすい仕組みも必要だ。医師の善意だけに頼るのでは、地域の医療は崩壊してしまう。

 

○「医師数を増やせばレベルの高い医師だけが生き残れる」

 極端な意見かもしれないが、昔から医師会は意図的に医師数に制限をかけて希少価値を高めてきた。その例が、今は独禁法違反となった開業規制である。医師数が少ないから、淘汰されず「お医者様」でいられる。医師数を増やせばレベルの高い医師だけが生き残れる。

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 医師も人間である。全国一律の診療報酬点数が偏在を引き起こしている要因の一つなのだろうか?

 

 開業医の対立軸、というわけではないが、勤務医からのコメントを紹介したい。

 

○大学病院外科勤務医:「診療科別の給与体系を」

 同じ大学病院でも勤務時間に差を感じる。内科に比べて外科系の診療科は常に時間に追われている気がする。診療科別の給与体系に変えるべきである。特に、訴訟リスクの高い産婦人科や外科は給与を高くし、一方、皮膚科・精神科・眼科・耳鼻咽喉科などは抑えたらどうか。

 

○産婦人科医を諦めた内科医:「産婦人科など訴訟リスクの高い診療科を

 選ぶ医師はますます減少」

 帝王切開手術後に妊婦が死亡、産婦人科医が業務上過失致死罪に問われ逮捕・起訴された「大野病院事件」(2008年)に象徴されるように、産婦人科医療のリスクは高い。当時医学生で産婦人科を目指していたが、訴訟リスクの高さに諦めた。産婦人科医療に対する訴訟リスク対策を十分進めないと、産婦人科や外科など訴訟リスクの高い診療科を選ぶ若手医師はますます減少してしまう。

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 こちらは診療科の偏在についてのコメントだ。

 

 地域偏在についても勤務医からコメントをいただいている。

○地方の公的病院病院長:「新専門医制度が医師の地域偏在に拍車」

 以前は医局人事で、研修医でも指導医であっても、半ば強制的に大学病院か関連病院に派遣されるのが当たり前だった。特に地方の基幹病院は、このやり方で診療体制を維持してきた。しかし、新専門医制度の導入によって、3~5年目医師は多岐にわたる症例を集めるため都市部の大規模病院で働かざるを得なくなっており、新専門医制度が医師の地域偏在に拍車をかけているように感じる。

 

○「家庭医を目指し、医局に入らない選択」

 学生の頃から初志貫徹、家庭医を目指している。現在、政令指定都市にある二次救急病院の後期研修1年目。「家庭医は大学より民間病院のほうが学びやすい」ということで、自ずと大学病院の医局には入局しない選択をした。同世代の医師の中には、“寄らば大樹の陰”ではないが、医局派の医師は自力で考えることより、自動的にキャリアが決まることを良しとする傾向がある。一方、将来やりたいことがはっきりしている医師は非医局派が多いようだ。キャリア形成がはっきりしている医師が増えれば、医師の偏在は少なくなると期待したい。

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 医師を目指す以上、やりたいことは医療なのだろうが、医療の枝分かれも大きい。最初から“家庭医”を目指して自らのキャリアプランを描くのは、そう簡単にできることではない。自由がいいとはいいながら、“寄らば大樹の陰”を選ぶ勤務医が多いのは何故なのだろうか?

 

 患者の方からのコメントを紹介したい。

医師充足地域の患者

 医師が過剰と言われる町に住んでいるが、整形外科ではお年寄りが多くて、「3分間診療」で十分にお医者さんと話すことができない。医師過剰地域でも診療科によっては、医師と患者との信頼関係が十分にできない環境にあるようだ。

 

医師不足地域の患者:「へき地に派遣される勤務医の勤務期間が短い」

 山間部の市立病院に受診している。大学病院から2~3年ごとに医師がやってくるようだが、派遣される医師の勤務期間が短く感じる。ようやく主治医として気軽に話ができる関係になったところで、大学病院に戻ってしまう医師が多い。地域に根づいた医師が欲しい。

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 “3時間待ちの3分診療”という、皮肉めいた表現があるが、大きな病院であろうと、開業医であろうと、整形外科の患者はひっきりなしだ。整形外科を受診する患者は、移動にもご苦労されることだろう。今回は偏在がテーマであるが、“待ち時間”もとり上げてみたいテーマの一つだ。

 

 以下はコンサルタントからのコメントだ。

 ○医業コンサルタント:「地方や中小病院こそ、研修等を充実させる『人材投資』を」

 条件の悪い地方の病院や中小病院が医療を継続するために何が必要かと考えると、「人材投資」である。医療人材の集まる病院、地域をつくるには「特色のある医療」「地方や中小病院でも研修体制が充実している」「働きがいのある病院」が必要である。医療は高度な対人サービスを提供する知的労働者の側面があるので、研修・研究の機会が与えられる場所に優秀な人材が集まる。地方や中小病院こそ、研修等を充実させ、魅力を高める必要がある。

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 まさに“マーケティング”である。たとえ非営利事業であっても、医療もマーケティングを行う必要性があるだろうことは、誰しも考えていることではないのだろうか。昨今話題の町おこしのような動きが、地方の医療と一体になって一役買うことはできないのだろうか。

 

 今の医療行政で課題となっているテーマを考えるにつけ、冒頭に出て来た、悪役であったはずの為政者の政策は、果たして本当に間違いだったのか、とふと思う。誰もが自らの人生を、自らで考え、切り拓き、自己実現することが可能な社会、聞こえは良いが、一体どれほどの現代日本人が、医師も含めてそんなことができているのだろうか?10年以上も前にあった虚構のSFアニメは、こんな日本の将来も予測していたのだろうか。

 

 

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 (※1)・・・機動戦士ガンダムSEED (2002~2003 TBS系)
 (※2)・・・機動戦士ガンダムSEED DESTINY (2004~2005 TBS系)

<筆者>

 

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