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No.654 「人生100年時代」、70歳を超えても働くか?未来投資会議で「全世代型社会保障」論議
2019年06月15日
■70歳までの就業機会確保、政府の「成長戦略実行計画」に盛り込む
5月15日に開催された政府の未来投資会議(議長=安倍晋三首相)では、全世代型社会保障における高齢者雇用促進及び中途採用・経験者採用促進や、今年夏にまとめる成長戦略総論の論点について議論が行われた。
会議では、根本 匠厚生労働大臣から『人生100年時代を見据えた多様な就労・社会参加の実現に向けて』が提出され、「従来の65歳までの雇用確保措置に加え、様々な就業や社会参加の形態も含めて、70歳までの就業機会の確保を図る」との考えが示された(図3 70歳までの就業機会の確保)。
また、「人生100年時代に向けた年金制度改革」では、①より長く多様な形となる就労の変化を年金制度改革に取り込み、長期化する高齢期の経済基盤を充実、②就労期の長期化による年金水準の充実-を柱に改革を進めるとしたが、年金の受け取り年齢が先延ばしされ、受給額も減らされてしまうことが懸念され、今後、大きな議論を呼ぶことになりそうだ。
未来投資会議の議長である安倍首相は、「人生100年時代を迎えて、元気で意欲ある高齢者の方々にその経験や知恵を社会で発揮していただけるよう、70歳までの就業機会の確保に向けた法改正を目指す」とコメント。未来投資会議の内容は、今夏に政府が取りまとめる成長戦略実行計画に盛り込み、早期の法整備を目指すことになる。来年の通常国会には、これら内容を柱とした高年齢者雇用安定法の改正案が提出される見込みだ。
■現役世代が急減する2040年を見据えた70歳までの就業機会の確保
70歳までの就業機会の確保などを新たな成長戦略に盛り込む背景には、団塊の世代が全て75歳以上の後期高齢者になる2025年以降、2040年を展望すると、①高齢者の人口の伸びは落ち着き、その一方で社会保障制度を担う現役世代が急減、②より少ない人手でも回る医療・介護の現場の実現が必要となり、③何よりも給付と負担の見直しなどによる社会保障の持続可能性の確保に取り組みことが必要である。この点については、3月20日の未来投資会議で根本大臣が強調した(図4 2040年を展望し、誰もがより長く元気で活躍する社会の実現)。
65歳から70歳までの就業機会確保について具体的には、多様な選択肢を法制度上許容し、どのような選択肢を用意するか労使で話し合いの中で提示し、また、個人にどの選択肢を適用するか企業が個人と相談し、選択ができるような仕組みを検討する必要があると、会議で根本大臣は提案した。法制度上許容する選択肢のイメージとしては、①定年の廃止、②70歳までの定年延長、③継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)、④他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現、⑤個人とのフリーランス契約への資金提供、⑥個人の起業支援、⑦個人の社会貢献活動参加への資金提供-をあげている。
また、70歳までの就業機会の確保を円滑に進めるためには、法制についても、2段階に分けて、まず、第1段階の法制の整備を図ることが適切であるとし、第1段階の法制については、上記の①~⑦といった選択肢を明示した上で、70歳までの雇用確保の努力規定とするといった内容が示されている。その動向などを踏まえて、第2段階として、多様な選択肢のいずれかについて、現行法のような企業名公表による担保(いわゆる義務化)のための法改正を検討するとしている。
なお、「70歳までの就業機会の確保に伴い、年金支給開始年齢の引上げは行わない。他方、年金受給開始年齢を自分で選択できる範囲(現在は70歳まで選択可)は拡大する」との考えを示した。
【事務局のひとりごと】
「人生の 余暇はいつくる 再雇用」(年金未受給者)
「ゴール前 延びる定年 追い越せない」(チコちゃん55歳)
「趣味探し 定年前の 大仕事」(光男)
「やっと縁 切れた上司が 再雇用」(アカエタカ)
「定年が 手招きしつつ 遠ざかる」(マリちゃん)
第32回の『第一生命サラリーマン川柳コンクール』の優秀100句から。
たったの17文字に流行のフレーズを用いた表現力、さらにはネーミングに至るまでいずれ劣らぬセンスを感じる。
今回のテーマは政府の未来投資会議についてである。これまでW・M・Nでは折に触れて少子高齢化の問題を取り上げてきたが、とにもかくにも、社会保障制度を担う現役世代が急減することは、このまま行けばあと20年もすると間違いなくやってくる未来である。
安倍首相自らが議長となり、本気で人生100年時代に向けた議論がなされているわけだ。以前、WMN559号「日本の高齢者は若返った!?」(https://www.watakyu.jp/medicalnews/3179)や、WMN 597号「高齢者」は75歳から、65~74歳は「准高齢者」。制度改革に影響及ぼす?老年学会・老年医学会の提言(https://www.watakyu.jp/medicalnews/3085)でも取り上げられたように、とにかく70代中盤までの方は「現役」なのだという考え方を定説にしようとする動きがあるので(もちろん根拠もあるのでそのような議論になっているのだが)、未来投資会議においてもそれをベースとした戦略が練られているわけだ。
ちなみに、2040年に現在の定義で高齢者(75歳)を迎える方とは一体誰のことなのだろうか?2040-75=1965、つまり1965年生まれの方であり、それ以降に生まれた方は、社会保障制度を担う現役世代の急減、つまり生産年齢人口の急減を目の当たりにしているのだ。実は筆者もそんな未来に高齢者の仲間入りをすることになっているのだ。考えれば当たり前のことなのだが、この文章を書いている今、具体的に考えることでゾクッとしてしまった。2040年代にはもしかすると、“80歳までは現役”などという議論すら起こっているかもしれない。
「人生の 余暇はいつくる 再雇用」
「ゴール前 延びる定年 追い越せない」
が現実となる可能性は非常に高い。
コメントを紹介したい。
○経済再生担当大臣:全世代型社会保障へと改革していくというのが政権の基本的な方針
5月15日の未来投資会議後の記者会見で茂木敏充経済再生担当大臣は、「元気なお年寄り、高齢者が増えているという中で、誰もがいくつになっても、安心し、活躍できる全世代型社会保障へと改革していくというのが政権の基本的な方針。その中で高齢者雇用は重要な柱になる。その高齢者の経験や知恵を社会で発揮していただくことで、日本の成長につなげていきたい」とコメントした。
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未来投資会議委員からのコメントである。
○連合会長:公的年金支給開始年齢の引き上げない前提の議論を歓迎
5月15日の未来投資会議で発言した日本労働組合総連合会(連合)の神津里季生会長は、「意欲ある高齢者が年齢に関わりなく働き続けることのできる環境整備は非常に重要。公的年金の支給開始年齢の引き上げは行わないことを前提とした今回の議論を歓迎したい」と述べた。
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科学的にも根拠の出ている70歳現役論だが、今、すでに現役を引退し、第二の人生を歩んでいる諸先輩はどうお考えだろうか。
コメントを紹介したい。
○定年後は仕事をしないと決め、40歳前に老後の資金計画を立てた
現役時代の40歳になる前に、定年後のライフプランを描き、仕事しないと決めていた。40歳から個人年金保険に加入、不動産投資、株式投資を積極的にした。当時は、今のようなゼロ金利ではなく金利も良く、株式も右肩上がりで推移した。バブル当時に友人は派手に遊んでいたが、「アリとキリギリス」の寓話のように、自分は「アリ」に徹した。
○公務員の老後は恵まれていると思う
2014年に公務員として60歳定年を迎え、老後は働いていない。2015年の厚生年金、共済年金の一元化前は、公務員が加入する共済年金は厚生年金と比べ、保険料率は低く、その一方で受け取る年金額は高かった。まさに私はその世代に当たる。2018年には公務員と一般企業の社員の保険料率は同一になった。地元の市役所で2014年に定年を迎えたが、まさにラッキーと言わざるを得ない。市役所の同僚で夫婦とも公務員は、毎年クルーズ旅行に出かけている。
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何とも、誰もが夢見た老後を謳歌されている先輩のコメントは、羨ましくもあるが、憎らしくも感じてしまう。
こんなコメントも。
○年金月20万円を切った生活では、到底、人生100年時代を送れない
日本年金機構のモデル世帯(夫が厚生年金に40年加入し、妻が第3号被保険者を含め国民年金を40年納めた場合)の年金月額は約22万1000円(2018年4月現在)といわれるが、モデル世帯のような条件の良い世帯は現実には少数派で、実際は20万円を切る人が多いのではないか。夫婦2人で月20万円を切った生活では、到底、人生100年時代を送れない。アルバイトなどをしないと、満足な生活は出来ない。
○かつて「高福祉高負担」「中福祉中負担」「低福祉低負担」という論争があった
かつて日本の社会保障制度を巡り、北欧のような「高福祉高負担」社会がいいか、それとも「中福祉中負担」、「低福祉低負担」がいいのかという論争があったことを思い出す。「高福祉高負担社会」は、社会の活力がなくなると批判があったが、いざ自分が年金生活者になると、税金50%でも「高福祉高負担社会」が絶対良いと身をもって感じる。
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筆者もつねに感じていたが、仰るようにモデル世帯とは、はたして実際は“モデル”といえるほどのマジョリティではないのかもしれない。さらにマクロ経済スライドが導入され、年金生活者の受け取り月額は下がることが予想されているわけだ。「働き方改革」が叫ばれているが、夫婦二人でアルバイト生活(というご夫婦ばかりではないのだろうが)というのは、果たして全世代型社会保障が目指すこれからの社会といえるのだろうか。
企業が定年を60歳から延長する動きも目立ってきている中、こんなコメントを紹介したい。
○週2~3日の勤務形態ではかえって「職場のお荷物」に
60歳定年後の再雇用で65歳まで会社に残ろうと考えたが、「週2日勤務」や「週3日勤務」のような休みが多い勤務形態では、かえってお荷物になってしまった。「老害」「職場のお荷物」と陰口をたたかれ、結局、63歳で辞めた。
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何とも皮肉な話である。
辞められた方のコメントの次は、まだ現役続行を選択された先輩のコメントである。
○「ロストジェネレーション」の息子のために働かざるを得ない
空前の売り手市場が続く中で大卒者の就職率はバブル期レベルにまで回復したといわれる。しかし、かつて1999~2004年では7割を切る「就職氷河期」という時代があった。この時期の大卒がいわゆる「ロストジェネレーション」で、新卒時の正規就職がかなわず非正規雇用を繰り返し、一度も正社員になれず、40代を迎えた世代だ。実は、私の息子も一度は正社員となったものの、30歳前に転職に失敗し、非正規雇用を繰り返してきた。不安定な収入では結婚もできずに、パートに出ている妻と3人で同居している。私は40代の頃は、悠々自適の老後を描いていたが、家のローンも残っており、今の厳しい経済状況を考えると、70歳を超えても働かざるを得ない。人生100年時代と言うが、70歳を超えても家計のために、働かざるを得ない高齢者が多いのが現実だ。
○お金のためでなく、自分の健康のために働く
自分の親はお金には困っていなかったけど、60代後半まで働いていた。でも辞めた途端一気に足腰が弱って介護生活に陥ってしまった。お金のために働くのではなく、自分の健康のために働いている。
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実のところ、日本が抱えているのは高齢者の問題だけでなく、日本の将来を担ってくれる青少年の問題も深刻である。今や6人に1人の子どもが「貧困」水準にあるといわれている(1/6→16.7%)。いつから日本はこのような社会になったのだろうか(※3)。他人事のような疑問を投げかけるな!とお叱りを受けそうだが、日本の病巣は結構深刻である。
少し暗い話になってしまったが、こんなコメントも紹介したい。
○ボランティアで地域の子供の見守り活動に従事
ボランティアで地域の子供の見守り活動に従事している。自分が小学生の頃の1960年前後は、交通事故死者数が日清戦争の戦死者数を上回り「交通戦争」と言われ、子供の交通事故も多かった。それでも、近所の大人が何やかんやと面倒をみてくれる昭和の良き時代だった。川崎市の無差別殺傷事件を契機に、少子高齢化が進む中、改めて地域で子供を見守り育てることの大切さを感じている。お金をもらう、もらわないといったことではないと思う。
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暗い現実もあるが、こういったご意見もある、ということは日本の良さ(と思いたい)であるだろう。ただ、無差別殺傷という事件が起こってしまったのもまた、日本なのだ。
最後に若い世代からいただいた、こんなコメントを紹介して締め括りとしたい。
○若者が将来に希望が持てる「ギラギラ」したフレーズを
日本は、私の祖父の現役時代のように、「右肩上がり」の時代ではなくなってから、既に四半世紀以上となった。政府や政治家、財界人は、これからの社会保障制度の見直しを進め、「自助努力」が尊重される社会だと強調している。若者にも高齢者にも「自助努力」を強いている。「右肩上がり」は望めないが、アジアの若者が抱くような、将来に何か希望が持てるような「ギラギラ」したフレーズが必要ではないか。「人生100年時代」という言葉に空虚さを感じてならない。
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「夢を持て そういう上司も 夢見せて」(よみ人知らず)
サラリーマン川柳優秀100句の“よみ人知らず”さんの川柳は、日本に対する大いなる皮肉なのかもしれない。ふとこの句が頭をよぎった。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※3)・・・もしかすると、筆者が「1億総中流社会」というフレーズに踊らされ、それを長い間信じ込んでしまっていただけで、現実の日本の姿は、信じたくはないが実はあまりそうではなかったのかもしれない。真相というのは、それぞれの人の主観如何でいくらでも変わるものだ。
<筆者>
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