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No.663 「財務省、介護保険の自己負担「原則2割」を改めて提言。ケアプラン有料化も」
2019年11月15日
■増加する介護保険費用を背景に、財務省が利用者負担引き上げを提言
かねてから介護保険サービス利用者の自己負担引き上げを主張していた財務省が改めて、自己負担「原則2割」を提言した。
財務省の財政制度等審議会(財政審)財政制度等分科会が10月9日開かれ、2020年度予算編成に向けて社会保障に関する議論をスタートした。この日は総論と年金、介護、子ども・子育てを取り上げ、同省は、介護保険総費用は2019年度の11.7兆円から2025年度には15.3兆円に増大するとの推計を示し、「介護保険の利用者負担のさらなる見直し」として、原則2割にすることや、2割に向けて対象範囲を拡大することなどを提言し、利用者負担を段階的に引き上げていく必要性を強調した。さらに、居宅介護支援(ケアマネジメント)への利用者負担の導入、軽度者への介護サービスの地域支援事業への移行、多床室の室料負担の見直しを求めた(図1 今後の主な改革の方向性)。
同分科会は11月末までをメドに財政審がまとめる「2020年度予算の編成等に関する建議」に議論の結果を盛り込む。
現行の利用者負担は所得に応じて1割、2割、3割とされているが、1割の利用者が全体の90%を占めている。介護保険費用は約11.7兆円で、そのうち利用者負担は1割に満たない7.6%の0.9兆円にとどまっており、同省はこうした現状を問題視していた(図2 利用者負担の更なる見直し)。今後、介護費用は経済の伸びを超えた大幅な増加が見込まれるため、若年者の保険料負担の伸びの抑制や、高齢者間での利用者負担と保険料負担の均衡を図ることが求められると財務省は指摘している。
■ケアプラン有料化、軽度者の介護サービスの地域支援事業への移行、多床室の室料負担の見直しなどを提案
居宅介護支援に関しては、介護保険制度スタート時から利用者が適切なサービスを積極的に利用できるよう10割給付が行われてきた。介護保険制度の創設から約20年が経ち制度が浸透していることを踏まえ、利用者自身がケアプランに関心を持ち、さらなるサービスの質向上につながるとし、利用者負担導入を提案した。
また、要介護1・2への訪問介護と通所介護は、軽度者への訪問介護は生活援助サービスの利用が多いといった現状を踏まえ、全国一律の基準ではなく多様な人材・資源を活用してサービスを提供する方が効果的・効率的ではないかと考え、区市町村が地域の実情に応じて運営する地域支援事業に移行させることを求めた(図3 軽度者へのサービスの地域支援事業への移行等)。
さらに、2015年度介護報酬改定で特別養護老人ホームの多床室の室料負担は介護保険給付の基本サービス費から除かれたが、介護老人保健施設や介護療養病床、介護医療院については室料相当分が依然として基本サービス費に含まれている点を指摘。次回の2021年度介護報酬改定で、これら施設の多床室の室料相当額も基本サービス費から除外するなど、多床室の室料負担の見直しを提案した。
介護保険の給付と負担の見直しについては、10月28日開かれた社会保障審議会介護保険部会でも議題(「制度の持続可能性の確保」)として取り上げられた。厚労省が8月29日の会合で示した「介護費用が膨張し続ける中では、支え手の拡大を目指し被保険者範囲の見直し(40歳以上から30歳以上に引き上げる)」という論点に対しては、保険者や経済界の委員から慎重な検討を求める意見が出された。また、軽度者(要介護1・2)サービスの「介護保険給付から地域支援事業への移行」は時期尚早という意見が大勢を占めた。その一方で、ケアプラン作成の利用者負担導入、介護医療院などの多床室の室料全額負担については賛否両論が出された。
社保審介護保険部会では年内の取りまとめに向けて論議が行われる。厚労省は介護保険法の改正案を来年の通常国会に提出する考えで、政府は年内に自己負担引き上げやケアプラン有料化などについて決断を下すが、与党内には慎重論も根強く曲折が予想される。
【事務局のひとりごと】
制度が生まれてからはや20年。すっかり世の中に定着した介護保険制度であるが、2025年問題、2040年問題を目前にし、多くの見直し項目が否応なく議論の遡上に上がってくる。そもそも、介護保険制度はどうやって生まれたのだろう?賢明なる読者諸氏におかれては、“何を今さら”だとは思うが振り返ってみたい。
介護保険制度施行以前は、福祉援助が必要な高齢者に対して行政が税金を使い必要なサービスを提供する「措置制度」であった。しかし、社会全体の高齢化傾向に加え、社会福祉費用や老人医療費の増大、社会的入院などの問題がサービスを提供する自治体財源を圧迫し、財源不足が大きな問題となっていた。
そのような中、超高齢社会を迎えようとしている日本社会において(※1)、高齢者を家族などの個人ではなく社会全体で支えるという理念のもと、2000年(平成12)4月に誕生したのが介護保険制度だ。一方で、先の問題を受け、増大する医療費から介護部分を切り離し誕生したのが介護保険制度であるともいえる。
介護保険制度では、介護を必要とする人に対し自治体が必要なサービスを選定する制度から、介護を必要とする人が必要なサービスを自由に選択できる制度となったところに特徴がある。また、医療保険制度のような仕組みを導入しようとした背景から、財源のあり方など、医療保険制度と似通った部分がある。施行当初は要介護度1~5までの段階で、要介護ごとに使える金額のテーブルが異なり、それを居宅介護支援事業所にいるケアマネジャーが作成するケアプランにより、利用者に応じた介護サービスを原則個人負担が1割で受けられた(要介護度の上限を超えない限り)。
「措置」から「サービス」へと移行したことが何よりも変わったことだろう。介護に関わる社会的な問題は今に始まったことでもなく、サービスを受ける側にとっては、格段にサービスが向上してきたはずである。国民皆保険を基本とする医療保険制度が(ドイツに倣って作った制度とはいえ)世界に誇れる制度であるとすれば、それに倣って作られた介護保険制度も、世界に誇れる制度だといってよいのではないか。歴史を振り返るとそんな思いにもなる。
コメントを紹介したい。
〇麻生大臣:「社会保障を持続可能にするには、大胆な発想に基づく施策が必要」
財政制度分科会の会合で、共に政府の「全世代型社会保障検討会議」のメンバーも務めている麻生太郎財務大臣と財政制度等審議会・財政制度分科会の増田寛也会長代理は、「制度の支え手が減っていく中で、今の方法では社会保障を持続可能とすることはできない。大胆な発想に基づく施策が必要」(麻生大臣)、「制度の支え手を増やしていくこと、給付と負担を見直すこと、この2つのバランスをどう考えるかが大事」(増田会長代理)との認識を示した。
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生物の食物連鎖のように、一定のバランスが図られた世界であれば(いわゆるピラミッド型:その生態系ですら環境汚染で崩れている可能性も否めないが)、つまり高齢者を支える若い世代の人口が多ければ、今のような状態になるにはまだしばらくかかったのかもしれない。
〇厚労省官僚:補足給付のあり方、保有不動産の勘案などの論議を要請
10月28日開かれた社保審・介護保険部会で、厚生労働省老健局の山口高志介護保険計画課長は、次期介護保険制度改正に向け、①所得に応じた自己負担割合を導入するなど、応能負担の性格が強くなっている介護保険制度では「低所得者対策である補足給付は堅持すべき」とする従前より続く根本的論議、②「公平性を確保するために必要であるとする意見がある一方で、地価の変動、経年劣化による価値の減少などがあり価値の把握は難しい。研究を続ける必要がある」とする「保有不動産の勘案」―の2点を議論してほしいと介護保険部会に要請した。
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応能負担とはいっても、一体何割負担までの議論になるのか。常にこんな議論になっているので、2040年を過ぎるまでは時代の流れは“負担増”がテーマとなるのだろうか。
今度は原則2割負担推進派と反対派の双方からのコメントだ。
【推進派】
〇「制度創設から20年が経ちサービスは定着。一定の自己負担の導入はやむを得ない」
社保審・介護保険部会で、日本経団連の井上隆常務理事は、「次世代にこの制度をどう引き継ぐか、という視点も大事。制度創設から20年が経ちサービスは定着した。一定の自己負担の導入はやむを得ない」と持論を展開。健康保険組合連合会の河本滋史常務理事も同じ主張の上で、「(利用者が自分でケアプランを作成する)セルフケアプランによるサービスを給付の対象とすべきか否か、という議論も必要」と述べた。
【反対派】
〇「介護保険制度の後退が非常に心配。生活の苦しさや不安は募る」
社保審・介護保険部会で、連合・総合政策推進局の伊藤彰久生活福祉局長は、「2割負担の対象範囲の拡大は極めて慎重に検討すべき」と指摘。また、認知症の人と家族の会の花俣ふみ代常任理事は、「自己負担の引き上げは、介護保険制度の後退を非常に心配している。生活の苦しさや不安は募る一方だ」と訴えた。
〇「財務省が考えることは、『保険金サギ』だ」
所得水準に応じて高い保険料を払い続けてきた人が、要介護と認定されたにもかかわらず、保険給付にもとづくサービスが使えないというのは、「保険」という仕組みのあり方の根幹に関わる大問題である。財務省が考えることは、「保険金サギ」だ。
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財務省のお役人も人の子だ。自らが要介護者となる可能性もあれば、要介護者をご家族に抱えているかもしれない。そのような中でのこの主張は、自分には全く関係ない他人事と思ってのことなのか、いやいや、やはり日本という国の財政を守らんがために、心を鬼にしての主張なのか、このあたりが分からないところである。
今回のテーマでは、個人負担の割合の問題とともに、これまで10割給付が行われてきたケアプラン(利用者個人負担はゼロ)も、今度は有料化しようという議論の流れもある。というわけで、ケアマネジャーからのコメントもいただいた。
〇「ケアプラン有料化は、介護保険制度全体の基盤が揺らぐ」
社保審・介護保険部会で、ケアマネジャーの専門団体である日本介護支援専門員協会の濱田和則副会長は、「現在はほぼ全ての利用者がケアマネジメントを使っている。これが損なわれれば(ケアプランが有料化されれば)介護保険制度全体の基盤が揺らぐ」と批判。「ケアマネジメントを徹底して適切なサービスを提供していくために現状を維持すべき」と訴えた。
〇「全員の負担割合を重くした上で、低所得者への負担軽減策を拡充する方がいい」
高所得だから3割負担ということではなく、全員の負担割合を引き上げるべきではないかと思う。ケアプランに関わる立場から見ると、中には身体の状態から見て、高さを変えたり、身体を起こしたりできる介護ベッドを使う必要はない利用者もいるなど無駄なサービス利用が多すぎる。負担が大きくなれば、本当に必要なサービスかどうかを、利用者がもっと真剣に考えるようになるはず。全員の負担割合を重くした上で、低所得者への負担軽減策を拡充する方がいいと思う。
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常に現場を見てきたケアマネジャーの言葉は実に重いと思う。自己負担が多ければ、当然無駄遣いをしない、という意識が働くからだ。“無駄”なのか“必要”なのか、ここが悩ましい。
肝心の利用者からのコメントだ。
【要介護度3以上の利用者(の家族)】
〇「要介護1、2が外されていたら、生活は立ち行かなくなり破綻する」
認知症の父を10年にわたって介護した。認知症はゆっくり進行したので、要介護1から2に進むのに8年かかり、最後の2年で要介護5まで一気に進んだ。私の場合は自宅で仕事をしており、介護のために一般のサラリーマンより時間の調整はつきやすいが、政府が考えるように要介護1、2が外されていたら、生活は立ち行かなくなり破綻しただろう。
【要介護度1~2の利用者】
〇「ボランティアを中心とする総合事業への移行は、人口減少社会でボランティア不足で可能か心配」
国は、介護保険で実施しているサービスを各自治体がボランティアを中心とする総合事業に任せようとしているが、介護のプロではないため、利用者が満足なサービスが受けられるかどうか不安である。今後、人口減少が深刻化する日本では、ボランティアの人材も不足する。介護サービスの3割を占める要介護度1~2の利用者の受け皿になるか心配だ。洗濯や買い物などの家事は専門職でなくてもできるが、認知症の人に受け入れられ、介助をするとなると、専門的な知識をもった介護職員でないと難しいのではないか。
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総合事業とは、公定価格である介護報酬に基づかずに、自治体で予算を設定してよいものになる。地域包括ケアにおけるこの“総合事業”の役割は結構重いだろうと筆者は考える。予算の潤沢な自治体など、数えるほどしかないわけで、殆どの自治体は総合事業に振り分ける予算がないことは自明の理だ(もし間違っていたら申し訳ありません)。総合事業には民間事業者、NPO法人、ボランティアなどあらゆる組織の参画が可能だが、ここに民間事業者が参入するには、かなりの工夫が必要だろう。つまり先の要介護度1~2の利用者のコメントは、近い将来の現実に懸念を示しているものと思って良いのではないか。
今度は負担割合別にコメントを紹介したい。
【現在1割負担の利用者】
〇「高齢者のセーフティーネットである介護保険が安心して使えなければ、『人生100年』は絵空事
介護保険自己負担の1割と2割のボーダーラインを決めるのは、その人の収入だ。収入減となる高齢者の生活にとって、1割と2割負担の差は大きい。その一方で、国は、「人生100年」と謳い、後期高齢者にも就労拡大を求めようとしている。75歳を過ぎて働き収入が増えたら、介護保険の自己負担も増えてしまう。高齢者のセーフティーネットである介護保険が安心して使えなければ、「人生100年」は絵空事だ。
【現在2割負担の利用者】
〇「どこまで増えるのか?介護保険の自己負担。老後の生活を支える医療・介護が自己負担増の無限のループに入ってきた」
介護保険制度開始以来、一律1割負担だった利用者の負担割合は、2015年8月から一定以上の所得がある人は2割負担となり、さらに2018年8月からは、2割負担となった人のうち現役並みの所得のある人は3割に引き上げられた。この5年間で小刻みに着実に自己負担は増えてきている。老後の生活を支える医療・介護が自己負担増の無限のループに入ってきた。
【現在3割負担の利用者】
〇「退職金での一時的な所得増で3割負担になってしまった。国民に優しい介護保険制度ではない」
65歳になり、退職金を一括で支給されて所得が多くなったために、介護保険を利用する場合に3割負担の対象になってしまった。退職金での一時的な所得増で3割負担になるのは、理不尽だ。今から考えると、会社側に退職金を分割支給する手続を取ってもらい、負担を軽減する選択もあったが、後の祭り。自分の無知に腹立たしくなった。国民に優しい介護保険制度ではない。
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どの負担割合の層にも賛成派はいないようだ。ただし、退職一時金については、今後税制優遇が若干厳しめになるとの見方で、年金型での給付に向かわせようとする国の狙いがあるようだ(これも1億総活躍社会、人生100年時代を乗り切るための方策と目されている)。ただし、年金で受け取る際は、その金額は毎年収入とみなされるので、年金をいただくことによって年収が上がれば、所得税も上がるということも忘れてはならないだろう。
最後にこんなコメントを紹介したい。
〇「介護医療院は『治療を行う病室』。国は介護医療院への転換を推奨してきたのに、またもや『梯子を外された』」
介護医療院は、『居室』であるとともに『治療を行う病室』である。そのことを踏まえ、国は医療・介護療養病床から介護医療院への転換を“奨励”してきた。そこに、室料負担を求めるのはいかがなものか。当院では、国の介護医療院への転換策に応じて、今年4月に医療療養型病床から介護医療院への転換をしたばかりだ。国の慢性期の医療・介護の施策は一貫していない。またもや「梯子を外された」と、怒りを越して情けない。
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そういえば、介護療養病床の問題も、介護医療院という類型が生まれ、それまでの議論からすれば結構魅力的な点数設定がなされたはずだと記憶しており、一定の決着が見られたと思っていたが、今度はそこの“保険外し”か。もうそこまで目をつけるとは財務省官僚の頭の良さ(?)には、ある意味感服だ。まだ順調に進んでいるとはいい難い介護医療院への移行が滞らないことを願うばかりだ。
とにもかくにも、要介護状態にならぬよう、健康管理と予防に努め、健康寿命と寿命に殆ど差が生まれないような生き方(生涯現役)、“1億総活躍”を目指すしかないのか。総理肝煎りの社会になるまで、まだ段階を踏んでいく必要は当然あるのだろうが・・・。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※1) 65歳以上の人が全人口の 7%を超えると「高齢化社会」
65歳以上の人が全人口の14%を超えると「高齢社会」
65歳以上の人が全人口の21%を超えると「超高齢社会」
日本は2007頃から超高齢社会に入ったとされている。
<ヘルスケアNOW>
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