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No.666 後発医薬品使用の促進につながるか?フォーミュラリー(採用医薬品リスト)導入

2019年12月15日

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■中医協調査でフォーミュラリー導入病院は8.2%

 中医協の診療報酬改定結果検証部会が11月15日開かれ、「後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査」結果を報告した。このうち、病院でフォーミュラリー(有効性や安全性、費用対効果などを踏まえて作成された採用医薬品リスト)を導入状況について調査し、306病院から回答を得た。フォーミュラリーを導入している病院は8.2%で、病床規模では500床以上が最も多く(18.8%)、次いで200~299床が14.3%だった(図5 施設調査(医療機関)の結果⑪病院におけるフォーミュラリーの状況)。

 

 フォーミュラリーを薬剤種類別でみると、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の経口剤が30.4%で、「今後定める予定」の41.1%と合わせると7割を超えることが分かった。このほかHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は19.6%がすでにフォーミュラリー化されており、「予定あり」の35.7%を合わせると5割強に及ぶ。H2遮断薬も23.2%がフォーミュラリー化されており、こちらも同様に「予定あり」の21.4%を加えると4割強がリスト化される可能性が示唆された。

 

 また、同調査ではバイオ後続品についても調べた。病院の59.8%でバイオ後続品を備蓄しており、備蓄品目数は平均3.1品目、「DPC対象病院+DPC準備病院」で3.7品目、出来高算定病院で2.2品目。バイオ後続品の採用理由について、「薬の種類によって積極的に採用」が42.5%と最も多く、「バイオ後続品が発売されているものは積極的に採用」と合わせると55.9%だった。一方で、バイオ後続品を積極的に採用しない理由としては、「診療科からの要望がないから」が 56.3%と最も高かった。このほか保険薬局の45.7%でバイオ後続品を備蓄しており、備蓄品目数は平均1.3品目だった。

 

「地域フォーミュラリー」を導入し、薬剤費を削減した地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」

 フォーミュラリーとは、「医学的妥当性や経済性等を踏まえて作成された医薬品の使用方針」。医療機関単位、あるいは地域単位で作成されるのが一般的で、医療機関単位で作成されたものを「院内フォーミュラリー」、地域単位で作成されたものを「地域フォーミュラリー」と呼ぶ(図6  フォーミュラリーについて)。

 

 地域フォーミュラリーの例として、2018年4月に設立・認可された山形県酒田市の地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」がある。日本海総合病院をはじめとする病医院、医師会や薬剤師会など9法人が参加し、採用医薬品の標準化、後発医薬品への置き換えを進め、地域の薬剤費削減に成功している。6種類の薬剤で導入しているが(図7  日本海ヘルスケアネットでの地域フォーミュラリーについて②(実績等))、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 (ARB)だけで42調剤薬局において2割近い薬剤費削減につながっている。また、フォーミュラリー導入によって、日本海総合病院の医薬品費の単月削減効果はPPI(プロトンポンプ阻害薬)が35%、ARBが21%、スタチンが3%、合計で月額304万円(26%)削減されたという。

 

 11月15日の中医協総会では、「2020年9月の後発医薬品の使用割合80%」という政府目標図8 後発医薬品の使用割合の推移と目標の達成に向け、ペナルティーとインセンティブ、どちらの方法で推進していくか、支払側と診療側の間で意見は真っ向から対立した。支払側の幸野庄司健保連理事は、「後発医薬品の使用割合80%未満の加算については適正化していくべき。非常に低い医療機関には何らかのペナルティーを講じていくべきだ」と主張。これに対して今村 聡日医副会長は、「使用割合が低い要因がはっきりしない中で、ペナルティーを科すのは反対。現場が前向きに取り組めるような施策で進めるべきだ」と反論した。

 

 フォーミュラリーの目的は、最適な薬物治療を安価に提供することにある。エビデンスに基づく質の高い薬物治療を行うのはもちろん、後発品を優先的に使用することで医療費削減効果も期待される。フォーミュラリーの導入が、後発医薬品の使用促進につながるかどうか注目される。

【事務局のひとりごと】

 

 筆者が20代、食品メーカーの営業として勤務していた頃、取引先は大手量販店、卸問屋、CVSチェーン(コンビニエンスストア)、独立系チェーン量販店、単独量販店、パチンコ店(専門卸)、袋詰問屋、卸売市場内の問屋など、いろいろな販売チャネルがあった。

 一般消費者におかれては、CMが流れるような新商品に出会う場は、現在ならばCVS、もしくは大手量販店といったところだろうか。

 四季に富む我が国日本、とはいえだんだんと季節感が(季節の変わり目)なくなってきたことを実感する今日この頃であるが、やはり食品メーカーが新商品を投入しようとするのは秋(9、10月)、春(3、4月)であるだろう。それぞれのメーカーが自信(が本当にあるかは不明だが)の新商品を市場に投入するが、全ての新商品が店に採用されるわけでは決してない。頻繁に新旧商品の改廃が行われるとはいえ、おそらく現在も量販店、CVSともに季節ごとの商品レイアウト(棚割り)を季節ごとに行っていることだろう。筆者が営業の時代は年に2回(春・秋に向けての夏のおわり・冬のはじめ)であった。まだ現物さえ完成していないダミーサンプルを、本社の企画にお願いして作成してもらい、商談に赴き、他社との決戦である棚割りの現場で、メーカー同士、普段は仲良くしてはいるものの、顔で笑いながら定番アイテム数を少しでも増やそうと、あらゆる手段を使って自社商品を棚に滑り込ませようと熾烈な戦いに明け暮れる。やはり大手メーカーの牙城は高く、それでも中小メーカーである自社商品をどうやって売り込むか、他社新商品の情報もくまなくチェックし、どの商品を撃破して自社商品と入替を行ってもらうか作戦を練る。あまり自己主張しすぎても(周りからもバイヤーからも)反感を買うし、かといっておとなしくしていれば馬群にのまれアイテム減は必至だ。棚の位置が確定するまで、おちおちその場を抜けられない。老獪な他社営業は棚が決まってからも、あとでねじ込んでくる。翌日棚割り現場に行ったら、あれだけ苦労して確保したはずの商品が、いとも簡単にひっくり返されている、などという、何ともいえない時期を何度も過ごした。何度悔しい思いをしただろう(※2)。

 

 今回のテーマフォーミュラリー、採用医薬品リストの導入についてである。

 

 処方薬においても、一般市場のような、リスト(棚に相当)に乗らんがための熾烈な戦いが始まるのだろうか。コメントを紹介したい。

 

○保険局薬剤管理官:「フォーミュラリー導入で、薬剤師の積極的関与を強調」

 2019年7月の日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会で講演した厚生労働省保険局の田宮憲一薬剤管理官は、地域包括ケアシステム時代の今後の薬剤師像として、ポリファーマシーへの積極的な取組や、入退院時の薬物療法における患者の薬物療法に関する情報提供に加え、フォーミュラリーをあげた。院内では診療科と薬剤部の連携による取り組みの積み重ねが院内フォーミュラリーの策定につながるとし、一方、地域医師会や薬剤師会、保険者が中心となって地域フォーミュラリーを策定した場合に薬剤師の積極的な関与も求めた。

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 全ては膨れ上がる医療費の中で、効果的に薬剤費を使うための手法としての一つとして、厚労省はフォーミュラリーを認識したということだろう。

 

 中医協からのコメントを紹介したい。

 

○健保連:「フォーミュラリー導入により生活習慣病の治療薬だけで数千億円単位の薬剤費抑制」

 フォーミュラリー導入を巡る中医協の論議で、健保連の幸野庄司理事は、「フォーミュラリーの推進が、後発医薬品の使用促進につながる。なぜ日本の学会が作るガイドラインには、フォーミュラリーという考え方が入らないのか。行政が何らかの形で関与できないのか。地域フォーミュラリーは、保険者も参加することによって、全国展開していくことが必要ではないか」などと指摘。フォーミュラリー導入によって生活習慣病の治療薬だけで数千億円単位の薬剤費抑制につながるという試算を示した。

 

○日医常任理事:「医療機関あるいは地域レベルで採用薬の検討の場が必要だ」と述べる一方、「診療報酬で対応することではない」

 フォーミュラリー導入を巡る中医協の論議で、松本吉郎日医常任理事は、「病院では、学会のガイドラインなどの医学的知見を踏まえて、採用薬を会議で決定している。最近では、病院薬剤師が医薬品情報を整理して採用薬会議に臨んでいるのは、望ましい。またフォーミュラリーを地域の拠点医療機関が公開することで、診療所が拠点病院の採用薬を参考にすることなどができる。地域で協力し、一括購入することがあるかもしれない」と述べ、医療機関あるいは地域レベルで採用薬の検討の場が必要だと述べる一方で、「診療報酬で対応することではない」とクギを刺した。

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 病院は一般からは閉ざされた存在かもしれないが、病院に出入りする業者はもちろん結構ある。中でも製薬メーカーのMRはその人数において相当数に上るだろう。それもこれも、自社商品が少しでも多く処方されんがための営業活動である。

 

 本文中にあったが、フォーミュラリー化されている薬剤で代表的なものは以下の通りだ。

 

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の経口剤…胃酸の分泌を抑える 

 適応病名 逆流性食道炎、胃潰瘍、ピロリ菌除菌の補助

 先発品:パリエット、オメプラール、タケプロン など

 

 HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)…高コレステロール血症(LDLコレステロール:悪玉コレステロール)を低下させ、動脈硬化などを予防

 適応病名 脂質異常症(高脂血症)

 先発品:メバロチン、リピトール、リポバス、クレストール、リバロ など

 

 H2遮断薬…消化性潰瘍の治療に用いられる

 適応病名は 胃潰瘍、十二指腸潰瘍 等

 先発品:カイロック、タガメット、ガスター、アシノン、アルタット など

 

 対象患者数も多そうな処方薬にフォーミュラリーを導入することが、最も効果が表れるのだろうから、必然的にメジャーな病名、メジャーな薬品名ということになる。それぞれ後発品はたくさん出ているから、コスト面だけでなく、あらゆる観点から総合的に判断され、リストに収載されるのだろうが、これは狭き門である。

 

 MRや、後発医薬品メーカーからのコメントを紹介したい。

○「フォーミュラリーは、新薬メーカーMRにとっては死活問題」

 フォーミュラリー導入は、我々新薬メーカーのMRにとって死活問題となる。がん専門のMRは、フォーミュラリーに関する知識が高いが、生活習慣病治療薬中心に営業活動しているMRはフォーミュラリーに関する知識があまりないのではないか。本格的にフォーミュラリーが導入されると、MRが年間700億円から900億円の売上げのある薬価の高いPPIやARB(※3)の購入を働きかけても、DPC導入病院からは全く目をかけてくれなくなる。抗がん剤も次々と後発品が承認されており、がん治療薬専門のMRも安心ではない。

 

 後発医薬品メーカーからはこんな声だ。

○「フォーミュラリー導入で基準品に採用されれば、シェア拡大のチャンスの一方、淘汰されるリスクも」

 フォーミュラリー導入によって、ジェネリックメーカーが自社製品を基準品として採用してもらうことができれば、一気にシェア拡大につながる可能性も秘める。逆に言えば、フォーミュラリーに入り込めなければ、淘汰されるリスクが高まる。選ばれる企業となるためには、製品のカバー率や安定供給は欠かせない。ジェネリックメーカーの再編・統合にまで発展する可能性がある。

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 全ての薬品がそうなるかは分からないが、市場性の高い薬品は、当然競争も激化し、これまでとは全く異なった営業スタイルが求められることになるだろう。メーカーにとっても、ピンチがチャンスなのか、ピンチがピンチなのか、いずれにしても、当事者にとってはぞっとしない話だ。であるからこその、この議論なのだろう。

 

 医師からのコメントを紹介したい。

○「フォーミュラリー導入で適切な医薬品を効率よく選択できる。その結果、診療に専念できる」

 医師は標準治療・診療ガイドラインに基づき日常診療を行っている。フォーミュラリーには、ガイドライン等に基づき臨床的に最も適切な選択肢が含まれ、適切な医薬品を効率よく選択できる。その結果、診療に多くの時間を割くことができ、質の高い医療の提供につながると思う。

 

○「処方権は、医師法で認められた医師の権利」

 古い意識の医師かもしれないが、私は、患者を診察して薬物治療の要否や処方薬を決めるのは、医師法で認められた医師の権利であり、医師の処方に基づき調剤するのが薬剤師の役割であると思っている。診療の最終責任を持つのが医師であり、フォーミュラリー導入の論議は、医師の処方権を侵害するような気がする。

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 賛成、反対、双方ともごもっともである。読者におかれてはどのようにお感じになっただろうか。

 

 病院経営層からはこんなコメントだ。

○「フォーミュラリー導入でバイオ後続品を採用。510万円の経済的な効果」

 地方の国立大学病院の薬剤部長。フォーミュラリー導入により、購入する医薬品の品目数が減ることで個々の品目の購入量は増加する。それにより発注や検品作業の効率化につながることや、不良在庫による期限切れの防止にも役立つ。フォーミュラリーの策定に当たっては経済性も考慮されることから、ジェネリック医薬品・バイオシミラー(バイオ後続品)の積極的採用によって病院の医薬品購入費を減らす効果がある。

 モノクローナル抗体抗がん剤のリツキシマブのバイオシミラーを採用するに当たり、使用する診療科と薬剤部で協議。適応のある疾患に対してバイオシミラーを第一選択とし、対応できない疾患や特別な理由がある場合は先行バイオ医薬品を使用することとした。その結果、4か月間に39人中38人にバイオシミラーを使用し、全員に先行バイオ医薬品を使用した場合(1,787万円)と比べて510万円程度の経済的な効果が得られた。

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 こちらはフォーミュラリー導入の大きな目的を達成した意見であり、数々の障害を乗り越えて導入されたのだろう。多くの利害関係者のことを思うと、絶対的に正しいことだったのか、判然としないが、少なくとも、「経済的効果」を第一の主眼として考慮した場合成果が出た、といえるだろう。

 

 「数々の障害を乗り越え」、と書いてはみたが、実際にどれほどの障害があったかは分からないし、案外スムースに事が運んだのかもしれない。そう思ったのはこんなコメントを読んだからだ。

 

○日本海ヘルスケアネット:「院内、地域フォーミュラリーに強制力はない。今のところは緩やかな推奨」

 地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」の代表理事で地域独立行政法人山形県・酒田市病院機構の栗谷義樹理事長は、「院内フォーミュラリー、地域フォーミュラリーとも強制力はない。今のところは緩やかな推奨という程度」とする一方で、それでも医薬品費の削減効果は大きく、日本海総合病院単独だけで、PPI、ARB、スタチンの3薬剤の月間購入額は、運用前の約1,160万円から運用後の約855万円に減少し、削減率は26%に達していると学会等で報告している。

 

○医師の確保・育成を目的に設立した備北メディカルネットワーク:「日本海ヘルスケアネットを参考に地域フォーミュラリー導入も検討したい」

 2017年4月に地域医療連携推進法人の第一号の認定を受けた備北メディカルネットワーク(広島県三次市などの病院で構成)は、中国地方の山間地の備北医療圏にあり、医師の確保・育成を主目的に地域医療連携推進法人を設立した。代表理事の中西敏夫・前市立三次中央病院長は、医薬品の共同購入の仕組みはないが、「日本海ヘルスケアネットが取り組んでいる地域フォーミュラリーは大変参考になる。是非、備北メディカルネットワークでも導入したい」との考えだ。

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 想像だけでは分からないものだ。いくつもの成功事例を示していくことで、組織体は変革を起こしていくのだ。そのためにも成功事例を発信し続けること、共感を得るための働き掛けを怠らないこと、そんな当たり前のようなことをきちんと実践していくことができるかどうかが、成否の分かれ目となるのだろう。

 

 そうなれば、やはりメーカーの淘汰は進んでいくということでもある。平成から令和となり、初めての年末年始を迎えることになるが、製薬メーカーにとっては、心穏やかならざるこれからの議論となるかもしれない…。

 

<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

(※2) …会社に帰って上司に報告すれば、当然だが「気合が足りないんじゃないのか?」、「何やってんだ!それを何とかするのが営業だろうが。うちの商品がほっといて定番に入るくらいなら営業なんか要らんやろ?だから高い給料払って大卒取ってんだろうが。」、「お前、ちゃんとバイヤーと人間関係できているのか?」などなど容赦のない指導…。

 当然だが他社の新商品が良かったから…、というのは(決して間違いではないのだろうが)、言い訳に過ぎず、負け戦の時は返す言葉もない。「CMも放映されないようなこんな新商品群で、一体どうやって大手に勝てっていうのよ」と心の中で何度もつぶやき、やるせない気持ちになる。ただ、そういう時もあれば、もちろん、予想以上の成果の時もある。といっても、昨年対比で±2、3アイテムといったところか。CVSや量販店の棚替えの時期、消費者にとっては華やかに映る売場の裏舞台では、こうした営業の、一人一人の物語が山ほどあることだろう。今もそんな思いをしている営業マンのご苦労は如何ばかりだろうか。

<筆者>

 

(※3) …ARB(アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬)、降圧薬。

<WMN事務局>

 

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