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No.676 2021年度介護報酬改定に向け、厚労省・介護給付費分科会で議論がスタート
2020年05月15日
■4つの横断的項目示し、介護報酬改定に向けた議論がスタート
今年4月、2020年度診療報酬改定が行われたが、3年に一度の2021年度介護報酬改定に向けた議論もスタートした。「令和3年度介護報酬改定に向けた今後の検討会の進め方」をテーマに、厚労省・社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会が3月16日開かれ、2021年度介護報酬改定に向けた議論がスタートした。
秋ごろまでを第1ラウンドとして共通事項・個別事項をそれぞれ議論して事業者団体からヒアリングを行い、秋以降の第2ラウンドでは具体的な方向性を議論。2020年末に2021年度予算編成過程における改定率決定を受けて、2021年早々に新単位数や各種基準に関する諮問・答申が行われる見通しだ(図4 介護報酬改定に向けたスケジュール(案))。
この日の介護給付費分科会で厚労省老健局は、介護保険を取り巻く状況やこれまでの経緯などを説明した上で、(1)地域包括ケアシステムの推進、(2)自立支援・重度化防止の推進、(3)介護人材の確保・介護現場の革新、(4)制度の安定性・持続可能性の確保-の4つの横断的項目を当面の議題とする「介護報酬改定における主な論点(案)」(図5 介護報酬改定における主な論点(案))を示し、各委員の意見を求めた。
委員からは、「2040年を見据えた新たなステージに向けた議論、抜本的な仕組みの議論が必要である」「2018年度介護報酬改定では、加算・減算が追加されて複雑な報酬体系になったため、事業者や保険者にとってわかりにくくなった」「これまでの20年とは違う介護保険制度を考えなければならない」など、論点の(4)制度の安定性・持続可能性の確保に関係して制度全体の見直しに関する意見が出された。
■改定論議の焦点の1つ、介護人材の確保・介護現場の革新
厚労省が論点として示した4つの横断的項目は、2018年度介護報酬改定と同じものだが、委員からは、「2000年度の介護保険制度スタートから20年近くが経過した。これまでの『2025年度に向けたサービス量の拡充』を目指す改定とは、様相が異なるものになるのではないか」といった指摘が出された。この指摘の背景には、「2025年度の先、2040年度まで高齢者を支える現役世代が減少していき、介護保険財政の基盤が脆くなることはもちろんのこと、サービス提供体制の確保がさらに難しくなっていく」という危機感がある。このため、論点の「(3)介護人材の確保・介護現場の革新」を報酬面でいかにサポートしていくかが焦点の1つとなる。
介護人材確保・定着に関しては、介護職員の給与増などを目的とする2012年度改定で創設された「介護職員処遇改善加算」(従前の介護職員処遇改善交付金を引き継ぐもの)、消費税増税に伴う2019年度改定で創設された「特定処遇改善加算」があるが、2021年度改定でもその効果を検証した上で、加算の拡充や改善を検討することになりそうだ。
また、「介護現場においてもタスク・シフティングが重要である」との意見がある。例えば、介護福祉士等は有資格者でなければならない業務に特化し、周辺業務はボランティアや介護助手にタスク・シフトしていく考えだ。
■要介護度改善をアウトカム評価する「ADL維持等加算」の効果を検証
前回2018年度介護報酬改定(図6 平成30年度介護報酬改定の概要)では、質の高いリハビリテーション推進の観点からアウトカム評価が行われた。具体的には、介護予防訪問リハビリテーションについて、リハビリテーションマネジメント加算の要件としてデータ収集事業に参加することが要件となり、また、要支援状態の維持や改善率を評価する事業所評価加算が新設された。さらに、特定施設入居生活介護において、外部のリハビリテーション専門職との連携が生活機能向上連携加算として加算が創設されるなど、様々なリハビリテーションにおけるアウトカム評価が拡充された。
今回厚労省が示した4つの横断的項目の「(2)自立支援・重度化防止の推進」では要介護度の改善が焦点となる。介護報酬が要介護度別に設定されていることから、要介護度の改善により事業所・施設の収益が下がってしまう。また在宅サービスにおいては区分支給限度額が設定されていることから、要介護度の改善により、利用者・家族にとっては「1カ月当たりに利用可能なサービス量」が減少してしまう。このため、要介護度の改善に積極的でない事業者・施設や利用者・家族が少なくないという問題が生じる。
こうした弊害を是正するため、2018年度介護報酬改定では、要介護度の改善を経済的に支援する「ADL維持等加算」が創設された。通所介護・地域密着型通所介護において、「要介護度の改善が見込まれる軽度者のみを選別する」(クリームスキミング)ことが生じないように配慮した上で、利用者のADL維持・改善実績に応じた加算の算定を可能とする画期的な「アウトカム評価」が行われた(図7 通所介護・地域密着型通所介護②心身機能に係るアウトカム評価の創設)。2021年度介護報酬改定では、この「ADL維持等加算」の効果(要介護度の維持・改善)を検証した上で、必要な見直しを検討していくことになりそうだ。
2018年度介護報酬改定では通所・訪問リハビリテーションの質の評価としてVISIT(通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集等事業)が推進された。今後は介護保険総合データベース(介護DB:要介護認定情報、介護保険レセプト情報を格納する、2018年度より全保険者からデータを収集)とVISITを補完するデータベースとして、科学的介護データベース「CHASE」が2020年度から稼働する。これらデータベースが一体的に稼働することにより、より詳細なアウトカム分析が可能となり、2021年度介護報酬改定に反映されるものとみられる。
【事務局のひとりごと】
2019年1月号 No.643 2019年は、医師の働き方改革「元年」になるか?でご紹介させていただいたが、下記は2017年小学生の「将来なりたい職業」ランキングだ(日本FP協会による)(No.643)。
<男子> <女子>
1位:サッカー選手・監督など 1位:看護師
2位:野球選手・監督など 2位:パティシエール
3位:医師 3位:医師
4位:ゲーム制作関連 3位:保育士
5位:建築士 5位:ファッション関連(デザイナーなど)
6位:ユーチューバー 6位:獣医
7位:バスケットボール選手・コーチ 7位:薬剤師
8位:大工 8位:美容師
8位:警察官・警察関連 9位:教師
10位:科学者・研究者 10位:漫画家
時を経て2020年4月1日に発表された「小学生の将来なりたい職業ランキング2019」によれば以下の通りだ。
<男子> <女子>
1位:サッカー選手・監督など 1位:看護師
2位:野球選手・監督など 2位:獣医
3位:医師 3位:保育士
3位:会社員・事務員 4位:医師
5位:ゲーム制作関連 5位:美容師
6位:大工 6位:パティシエール
7位:建築士 7位:薬剤師
8位:警察官・警察関連 8位:教師
9位:料理人・シェフなど 9位:作家・小説家
10位:科学者・研究者 10位:ファッション関連(デザイナーなど)
このランキングは将来の夢(なりたい職業)をテーマとした作文によって成り立っているそうだ。大きな変化は見られないものの、2年たつと登場メンバーも若干異なる。男子ではユーチューバーはランク外、代わりに(?)会社員・事務員がランクインした(しかも3位)。世のサラリーマン諸氏としては「よくぞ言ってくれた。なかなかやりがいがあるもんなんだぞ」などとなるのかもしれないが、会社員・事務員をテーマにした小学生は勇気があると思う。というか、どこに“夢”を感じたのだろうか。作文を読んでいないので分からないが、親の現実を見て考えるのか、はたまた受験競争社会の目指す社会人像としての会社員ならうなずけなくもない、などと考えてしまう。急にランクインしたのは筆者にとっては驚きだったが、実は10位以下には常に何票か持っていた職業なのだろう。上位のサッカー選手や野球選手など、なれる人はほんの一握り、それこそ“夢”に終わってしまいかねない職業だ。もしかすると、小学生なりに現実を直視して真剣に考えた結果なのかもしれない。
女子の部では堂々一位の看護師だ。医療分野は人気が高い職業だが、ここに介護関連の職業がランクインすることはあるのだろうか。仮にそうなるとすれば、介護分野の職業の魅力を、業界あげてどのように発信していくべきなのだろうか。看護職も尊くて大変な仕事だが、介護職だって大変な仕事だ。昨今、医療と介護の垣根をなくす、シームレスな連携、医療でも介護でもない、「地域包括ケア」という言葉で表現されているが、それでも看護は医療に近い分野、介護は生活に近い分野である。人間、医療より生活の方がはるかに身近なのだ。その生活を支えようという職種が介護職なのである。今回のテーマはその介護の報酬、介護報酬改定に向けてスタートした議論についてである。
コメントを紹介したい。
○老人保健課長:「2021年度介護報酬改定では、効率的な現場運用のための工夫、介護予防・フレイル対策などが焦点」
都内で開催されたセミナーで講演した厚労省老健局の真鍋馨老人保健課長は、後期高齢者が大幅に増える2025年、生産年齢人口の減少が顕著となる2040年を見据えて、2021年度介護報酬改定では、効率的な現場運用のための工夫、介護予防・フレイル対策などが焦点になると述べた。
○あるコンサルタント:「2021年度改定は、診療報酬と同時改定となる2024年度改定に向けたエッセンスが散りばめられた中身に」
2021年度介護報酬改定からデイサービス淘汰の時代が始まる。診療報酬との同時改定となる2024年度介護報酬改定が介護保険制度の大改革となり、特に通所介護改革の本命本丸となる。従って2021年度の改定は、2024年度の大改革に向けたエッセンスが散りばめられた中身となるのではないか。経営への短期的な影響はそう大きくないかもしれないが、次を見据えてそのエッセンスを読み解くことが非常に重要である。
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次回の改定では、本文にもあったが科学的介護データベースの稼働によって導き出された分析結果が反映されるそうだ。施設ごとの取り組みが様々なデイサービス。その分析結果がもたらす改革は、果たしてどのようなエビデンスに基づいた内容となるのだろうか。
2019年に創設された「特定処遇加算」についても動向は気になるところだ。
○特定処遇改善加算をきっかけに、優秀な職員の取りあいが激化
特定処遇改善加算で施設のリーダー級の介護福祉士3名の年収を500万円にしたが、そのうち、20年勤務のベテラン1名が近県の事業所に年収600万円でヘットハンティングされた。特定処遇改善加算をきっかけに、優秀な職員の取りあいが激化したようだ。
○加算が足りず、「持ち出し」法人は35.4%
特別処遇改善加算の配分対象となる職員は、①リーダー級グループ(経験・技能のある介護職員②その他の介護士グループ③介護士以外の職種グループの3つに分類される。厚労省が考えていた加算の基本ルールは、①のリーダー級グループの賃上げ額を、②や③と比べて2倍以上にするというものだった。合わせて、③介護士以外の職種グループの賃上げ額は、②その他の介護グループの2分の1を上回らないようにする。しかし、実際のところ現場では、この配分基準をどう設定するかが難しいと感じているようだ。このため、福祉医療機構が2019年11月に行った調査では、事業所によって法人持ち出しの実施を検討しており、特定処遇改善加算でカバーできない職種間の賃金改善差を別途で埋める予定のある法人が35.4%に達した。
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特定処遇加算を導入した施設では、導入当初から予想された問題が起こっているようだ。
では導入を果たせていない(しようとしていない)施設はどうだろうか。
○特定処遇改善加算取得のための手続きが煩雑
特定処遇改善加算を取得するには、事業所が「介護職員等特定処遇改善計画書」を作成し、自治体(都道府県知事または市町村長)に届け出る必要がある。
また加算を取得した事業所は、加算分の支給を受けた後、自治体に「介護職員等特定処遇改善実績報告書」を提出する必要がある。職員の賃金額や改善額などの資料については、提出の必要はないものの、求められれば提出できる状態にしておかなければならないなど、手続きが煩雑である。我々のような小規模事業所では手続き、職員の賃金額や改善額などの資料管理に割くスタッフの確保が大変だ。
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そのご意見はごもっともなのだが、仮にこれがコロナ禍で、施設運営の死活にかかわる問題だったとしたらどうだろうか。今回のコロナ禍は、先にも述べているように、いろいろなハードルを下げたからなのかもしれないが、結構乗り越えることができたこともある。せっかく収入の増える加算は、是非とも活用していただければと感じるところだ。
と言いつつも、この加算にはかねてから言われていた問題に、先ほどは施設側のコメントであったが、今度は個人のコメントをご紹介する。
○本来、特定処遇加算の対象者であるリーダー級の職員はもらっていない
グループホームの管理者をしているが、実際は普通の介護士と一緒で業務に入っている。管理職は加算の対象ではないと言われ、同世代の管理職が「数人加算をもらっている職員より働かないといけない。馬鹿らしい」と言って退職した。これでは管理職に就こうとする優秀なスタッフがいなくなる。「特別処遇改善加算の狙いは、リーダー級の職員の処遇改善」と厚労省は説明しているのだが‥‥。
○施設を通さず直接本人が貰える仕組みを
介護スタッフの処遇改善のためには、給与アップではなく、直接本人が金融機関に行けば貰えるようにすれば良い。わざわざ施設を通すからピンはねされる。直接本人給付にすれば問題ないはずだ。
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手厳しいコメントである。世の中間管理職の悲哀の縮図がここにも表れているのだろう。今はコロナ禍の対応で、立案した霞が関が不夜城になってしまい、言葉の力としては霞んでしまったかにみえる「働き方改革」は、それでも進んでいる。中間管理職的立場の人材が、組織内でどう育つのか、そのためには組織が何を整備すべきなのか、そういったことを考えさせるコメントだ。
もう一つ、現在「最前線で、命懸けで闘っておられる」医療従事者に向け、自治体が基金を起ち上げ、手当として財源を活用してもらおうという取り組みが出てきた。もしかすると、例えば英国のNHSにおけるトラスト病院の、ファンデーション・トラスト病院のような、国民のキリスト教的価値観をベースとしたと思われる共済的な資本のあり方が(※3)、財源論が問題となっている我国の社会保障費に対する処方箋となり得るかもしれない。診療報酬や介護報酬をプラスにせずとも、医療・介護従事者に、国民の思いがこもった財源が直接届く。これもコロナ禍が投じた一石なのかもしれない。
財源が届かなければいけない人材として、忘れてはならない存在もある。こんなコメントも紹介したい。
○末端の介護助手は全く関係ない話
勤続12年目だが、非常勤でなおかつ無資格という介護助手の身分のためか処遇改善で給与がアップしていない。常勤は年収440万最低賃金としてもらっている。むしろ非常勤の方が真面目に働いているのに。介護人材の処遇改善は、末端の介護助手は全く関係ない話だ。
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医療機関における看護助手へのタスク・シフティングの話と構図は同じである。先ほど財源を直接従事者本人に、のような話を出させていただいたが、ややもすると、日本の慣習としては存在していない“チップ”という考え方につながらなくもない、という気もしてきた。なかなか悩ましい問題である。
最後にこんなコメントを紹介して締め括りとしたい。
○新型コロナウイルス感染症を契機に、介護現場で働くスタッフの方の人材確保にもっと目を向けるべき
新型コロナウイルス感染症では医療関係者のご苦労が注目されているが、介護現場でも感染拡大で影響が大きい。厚労省の4月28日の調査では全国の高齢者向け通所介護(デイサービス)やショートステイのうち858ヵ所が休業したという。1週間前より1.7倍に増加した。感染防止のための自主的な休業ばかりでなく、「人手不足」のため、休業せざるを得ない事業所も多いという。医療に比べ、介護分野は中小事業者が多く、経済的基盤が脆弱である。新型コロナウイルス感染症を契機に、介護現場で働くスタッフの人材確保にもっと目を向けるべきだ。
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山頂から海へと流れている水が、皆満足な状態で過不足なく、しかもきれいな状態で海にまで流れ出していく・・・ 口で言うのは簡単だが、こんな状態をつくるために、我々は一体何をすべきなのだろうか。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※3)…国民保健サービス(こくみんほけんサービス、英語: National Health Service, NHS)とは、イギリスの国営医療サービス事業をさし、患者の医療ニーズに対して公平なサービスを提供することを目的に1948年に設立され、現在も運営されている。NHSにはイギリス国家予算の25.2%が投じられている。
公費負担医療によるユニバーサルヘルスケアに位置づけられ、利用者の健康リスクや経済的な支払い能力にかかわらず、臨床的必要性に応じて利用可能であり、自己負担金額は無料か極めて少額である。また、外国人も合法的にイギリスに滞在していると認定を受けられれば、NHSのサービスを利用することができる。
<ウィキペディアより>
「トラスト病院」…地域内のNHS Trust と呼ばれる公的病院群
「ファンデーション・トラスト病院」…業績が優秀なNHS Trust には、大幅な自由度が保障されたFoundation Trustが存在する。
この病院の資本的部分に、返済の必要のない地域住民による寄付金的な財源を組み込むことができる。
日本では病院債などがそれに近いかもしれないが、手続き上非常に起債すること自体が難しく、あまり活用されていない。
さらに、我国には宗教観はもちろんあるが、ドネーション(寄付行為)に関する考え方が万人にまで浸透しているかと言えば、それは難しい。ふるさと納税のような、見返りを求める寄付行為は最近の流行りである。
<ネット情報(太字)にWMN事務局が加筆>
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