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No.693 日本医学会連合、健康危機管理と疾病予防の常設組織「Japan CDC(仮称)」創設を提言
2021年02月15日
■健康危機管理と疾病予防を目指すJapan CDC(仮称)創設を提言
医学分野136学会の連合体である日本医学会連合(門田守人会長)は1月16日オンラインで開いた記者会見で、米国の疾病管理・予防センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)を参考に、健康危機管理と疾病予防目指す常設組織「Japan CDC(仮称)」創設に関する提言を公表した。
提言は、第2次Japan CDC(仮称)創設に関する委員会(委員長:磯 博康大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授)がまとめた。①健康危機管理と疾病予防を目指した政策提言のための情報分析と活用並びに人材支援組織の創設、②情報の一元化による国、自治体、アカデミア、国民の間での必要な情報の共有と活用、③情報・試料・検体の活用によるアカデミアでのエビデンス創出の促進、④国、都道府県、市町村・政令市・特別区の平時からの連携・協働の強化、⑤健康危機管理に対応した保健医療体制の抜本的見直し、⑥平時の人材育成と緊急時の動員によるサージキャパシティの確保-6つの柱からなる。
提言では、「第1波と第2波の制圧には、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症専門家会議、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会、厚労省のアドバイザリーボードの活動が貢献してきたものの、第3波以降は感染者数が増加の一途をたどり、予断を許さない」などと指摘。医学会連合は直面する課題への対応として、分科会等と機動的なネットワークを構築し、共に健康危機に対応していく方針を表明した。
日本医学会連合は、過去に2009年の新型インフルエンザ、2011年の東日本大震災後の原発事故などの健康危機管理を踏まえ、2012年12月にJapan CDC(仮称)創設に関する委員会(第1次)が「日本疾病予防情報センター(Japan CDC)創設に向けての提案」をまとめていた。しかし、その後、大きく準備が進行したとは言えないことから、今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を機会に、再びJapan CDC(仮称)創設に関する委員会を立ち上げ、検討を重ね提言をまとめたもの。
■米国のCDCとはどのような組織か?
Japan CDC(仮称)の参考となる米国の疾病管理・予防センター(CDC)とは、どのような組織なのか?
米国ジョージア州アトランタにあるCDCは、連邦政府の保健社会福祉省(Department of Health and Human Services: DHHS)の下部機関である。国内外における人々の健康と安全の保護を主導する立場にある連邦機関であり、健康に関する種々の決定の根拠となる信頼できる情報の提供と、強力なパートナーシップを通じた健康の増進の任にあたっている。疾病の予防と管理に関する活動、公衆(環境)衛生に関する活動、さらに健康増進および教育活動など、米国民の健康増進を目的とした各種活動の開発と実施において、CDCは国の中心的存在となっている。
CDCの活動内容は、調査・研究、情報発信・助言、緊急対応、検疫・隔離、人材育成がある。このうち、COVID-19のような緊急対応のため、Emergency Operations Center(EOC)を常設し、専門家の派遣、現場への物資や機器の配送の調整、レスポンス活動のサーベイランス、州及び地方の公衆衛生部分にリソース提供を行う。また、科学的なガイドライン作成、連邦政府・州政府への情報提供、州の要請に応じたサポート、現場での助言、データ収集補助・データ解析も担っている。
CDCには、感染性疾患関連、非感染性疾患関連(母子保健、環境保健、傷害予防)、産業保健関連、公衆衛生サービスと実践科学(マイノリティの保健、国際保健、危機対応、コミュニティ)、公衆衛生科学とサーベイランス関連などの主要部署(センター)があり、それぞれの専門分野で独立して活動する一方、それぞれの持つ資源と専門知識を組み合わせて分野横断的な課題と特定の健康への脅威に対処している(図1 CDC組織図 ホームページより)。
感染性疾患関連の部署(図1の右下)には、National Center for Immunization and Respiratory Diseases(NCIRD)、National Center for Emerging and Zoonotic Infectious Diseases(NCEZID)、National Center for HIV/AIDS, Viral Hepatitis, STD, and TB Prevention(NCHHSTP)があり、COVID-19に関するメイン部署であるNCIRDは、呼吸器疾患、予防接種サービスに当たる。職員数は約8500人で、CDCの年間予算は、2020年には76.9億ドル(約7974億円)で、感染症対策と危機対応が全体の50%を占める。
「Japan CDC(仮称)」に関する組織のあり方については、今後、医学会連合の中で協議していくが、国との調整も必要となる。政府は2021年度予算案で国立国際医療研究センターの体制強化や国立感染症研究所との連携強化を打ち出している。その中に入るかなど、今後課題は多い。日本医学会連合は、政府と連携しつつ、中立的なアカデミアの立場でエビデンスを発信したい考えだ。
【事務局のひとりごと】
ワールド・ウォーZ(2013年公開 マーク・フォースター監督:ブラッドピット主演)は、人間がゾンビ化し(その起源は不明)、そのゾンビに襲われ、引っかかれたりした人間はゾンビとなり、そのゾンビに襲われた人間もまたゾンビになり…と、爆発的にゾンビが増加(感染)して人類を襲っていく。その動きはまさに地球規模だ。ゾンビ化した人間と、そうでない人間(人類)との壮絶な闘いの映画である(※1)。
「ゾンビ化」が「感染症」という言葉に置き換わると、まさに現在のコロナ禍の様相はワールド・ウォーZと似たような状況だ。
「ワールド・ウォーZ」では、映画の終盤になってもゾンビ化と人類の闘いは終わっておらず、長い闘いになることを予見させる内容だったが、主人公がゾンビ化した人間への対抗策を思いついた時、舞台となっていたのが恐らくBS4(バイオセーフティレベル3~4)並みの疾病研究施設で、世の中のありとあらゆる感染症の病原菌(あるいはウイルス)が保管されていたと記憶している(間違っていたらごめんなさい)。
今回のテーマは、「CDC」、業界内のその権威・ネームバリューにおいては、水戸黄門の印籠並みの威力を発揮する(かどうかは分からないが)、その「米国疾病研究センター」の「日本版創設」についてである。
コメントを紹介したい。
〇武見敬三参院議員:感染症対策の司令塔整備を急げ
自民党の新型コロナウイルス関連肺炎対策本部感染症対策ガバナンス小委員会は昨年10月、感染症有事において「国レベルの安全保障における感染症危機の明確な位置づけ」「感染症危機管理に特化した組織機構の構築等」「医療、公衆衛生、危機対応オペレーション、研究開発の4機能の一体運用」「感染症危機対応のIT化等」「国民と政府の関係とコミュニケーションの強化」「柔軟な制度運用を可能とする法的枠組みと手順の構築」「産官学の連携による医薬品研究開発ファンドの設立」「国立感染症研究所のワクチン業務の見直し」の8点の対応を求める提言をまとめた。
同委員長の武見敬三参院議員は、「大規模な感染症を想定した健康危機管理の体制が整っていない。感染症は中小規模の段階で抑え込むのが原則だが、我が国には米国の疾病対策センター(CDC)やドイツのロベルト・コッホ研究所(※2)のように研究開発からサーベイランス(調査監視)までの拠点機能を備えた施設がない。また、司令塔機能もなかった。新型コロナウイルスの感染が始まった1月、私は内閣官房に対応策を考えるよう求めたが、内閣官房は所管外と判断し、厚生労働省は自分たちだけで対応しようとした。各省の対応がばらばらになりかねず『大変なことになる』と思った」などと、感染症対策の司令塔整備を訴えた。(毎日新聞デジタル版より)
〇田村厚生労働大臣:自民党新型コロナウイルス感染症対策本部長の時に日本版CDC創設を厚労省に提言
昨年11月13日の衆議院厚生労働委員会で田村憲久厚生労働大臣は、自民党新型コロナウイルス感染症対策本部長を務めていた際に、日本版CDC創設を厚労省に提言したことを明らかにした。「臨床も含めて、いろいろな情報、データが集まるようにした上で、治療法、クラスター対策も含めて、いろいろな研究ができるように、成果が出るような、そういう組織が一つ必要であると提言した」ことを紹介した。
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医療提供側からも日本版CDCの創設が求められている。
〇保険医団体:感染症対策の抜本的強化の1つとして日本版CDC創設を要請
保険医で構成する全国保険医団体連合会は2020年12月7日に菅首相、麻生財務大臣、田村厚生労働大臣宛に提出した「新型コロナウイルス感染症拡大から国民の命と健康を守るため、医療・歯科医療、介護・障害者福祉サービスの確保のための緊急要請書」の中で、感染症対策の抜本的強化の1つとして、「国立感染症研究所の機能強化を行うこと。日本版CDC(疾病予防管理センター)を創設し、感染症に対応できる仕組みを構築する」ことを求めた。
〇横倉前日医会長、2013年にJapan CDC創設に向けた協力を厚労相に要請
日本医師会の横倉義武会長(当時)は、2013年5月20日、当時の田村憲久厚生労働大臣と会談し、日本疾病予防情報センター(Japan CDC)創設に向けた協力を求めた。これは、日医の「日本医学会社会部会Japan CDC(仮称)創設に関する委員会」の提案書をもとに行われたもの。提案書では、感染症のみならず、生活習慣病などの疾病予防対策、放射線被ばく状況とその後の健康影響やがん発生リスク、その他健康増進に係るさまざまな健康医療情報を学術的な見地から整理・選択・統合した上で国民に発信し、正しい情報の共有が出来るコミュニケーションの場を早急に創設する必要があるとして、わが国にJapan CDC創設を提案した。
2020年6月の日医会長選挙で横倉義武氏を破り日医会長に就任した中川俊男氏も、日医会長選挙期間中に発表した政策提言の中で、新型コロナウイルス感染症対策として「これまでの対応を検証しつつ次に備えるとともに、日本版CDCの創設に向けた働きかけ」を掲げた。
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というわけで、その存在を知っている人からすれば、当然創設が待ち望まれているのが日本版CDCだ。
ただ、感染症については、地球規模で人類全体の問題だ。であるので、世界のリーダーたるアメリカが、その情報を積極的に開示いただき、(もちろん維持費等において応分の負担を各国が行うなどすれば)世界共有の財産として活用することはできないのか。
医業系コンサルタントのコメントを紹介したい。
〇国防省のマラリア対策部門の後継機関である米国CDCは軍との関係が強い
医師で海外の医療制度に詳しいコンサルタント。CDCは軍隊との関係が強い。米国CDCは、第二次世界大戦後に国防省のマラリア対策部門の後継機関として立ち上がったものだ。現在、強力なCDCを有するのは米国と中国だけだ。そもそも敵軍と対峙することが前提である軍隊には情報開示は求められないのではないか。
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なるほど、そういう側面もある。この分野の研究は国家間競争においてもかなり重要な情報である。世界平和を謳う一方で、国家間での情報戦はつねに行われている。無償での提供など望むべくもないか。「そんなことを言うのは日本人くらいだ『この平和ボケが!!』」と世界中から言われかねない。
米国民からはこんなコメントだ。
〇米国民の予防接種率高める役割担うCDC
米国の予防接種スケジュールは毎年1月にCDCの機関紙であるMMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)を通じて発表される。昨年のスケジュールとの変更点が記載され、そして、一般的推奨が記載される。また、接種漏れがあった場合のキャッチアップ接種のスケジュールも別表として発表される。被接種者向けの簡易で、理解しやすいスケジュールも同時に発表され、接種される側の理解を進める努力がされている。
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情報発信、啓蒙と促進、相互理解。もろもろが上手に作用しなければならないことを痛感する。
例えば英国の「NHS」( National Health Service)は、皆保険という点においては我が国同様だが「GP制」であり、国民はいつでもどこでも望む医療を受けられるわけではないし、我が国以上に問題も多く抱えている。しかし今、ことワクチン接種の報道においては優等生扱いだ(※3)。
看護師からのコメントもいただいた。
○インバウンド推進だけなく、本格的な感染症対策の司令塔整備を
外国人医療にも関わっている病院の看護師。政府はインバウンドを推進するだけで、問題(感染症や治療費未回収)は各施設に丸投げ。今回の事態を痛い教訓として、本格的な感染症対策の司令塔日本版CDCを設立し、縦割り行政を改めてほしい。
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これだけ待ち望まれているにもかかわらず、なぜか創設されない。日本には似たような問題がたくさんある。
例によって財源と人、所管する省庁の問題に起因するのだろうか。
本文によれば年間予算76.9億ドル(約7,974憶円)で、感染症対策と危機対応が全体の50%を占めるのだそうだが、沖縄県の2021年度の当初予算が7,900憶円なのだそうだ。
順不同だが川崎市も同規模だ。
一昨年の消費税増税(8%→10%)時に導入された幼児教育・保育の無償化には3,410億円。2020年4月に始まった高等教育入学金・授業料への支援措置には4,882億円。
記憶に新しい(?)キャッシュレス決済へのポイント還元事業に2,703億円。
マイナンバーカード保有者への買い物ポイント付与(マイナポイント上限5,000円付与)に2,478憶円だ。金額規模で考えると結構な額である。
日本の人口はアメリカの約1/3だから、その比率で言えばマイナポイント還元くらいの金額規模が毎年必要になるという計算だ。この金額は高いのか?安いのか?感染症が国民の生命に危険を及ぼしかねないことはコロナ禍でよく分かった。ただ、コロナ禍の問題は世界中に大きな爪痕を残したとしても、いずれ喉元を過ぎることになるのだろうが、果たして、我が国における感染症対策の司令塔創設の実現や如何に…
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※1)…「パラサイト」という映画で世界的にセンセーショナルな旋風を巻き起こした韓国映画の最近の大ヒット作も、これまた「ゾンビ」がテーマである(新 感染半島ファイナル・ステージ)。SFXを駆使するには、ゾンビは恰好のモチーフなのかもしれない。
<WMN事務局>
(※2)…ロベルト・コッホ研究所(RKI)は、北里柴三郎博士も師事したノーベル生理学・医学賞を受賞した細菌学者ロベルト・コッホによって1891年、王立プロイセン感染症研究所として設立。現在は、ドイツ連邦共和国の中央監視研究機関であり、感染症や非感染性疾患のための連邦政府機関である。RKIの勧告は科学的根拠に基づいており、ドイツ連邦政府、州、地方の保健当局および医療専門家に対する助言的な役割を果たしている。ドイツでは、RKIが感染症などから医療機関のスタッフと患者を守るためのガイドライン(指針)を発行しており、法律に反映されている。
<ヘルスケアNOW>
(※3)…翻って我が国の皆保険は「フリーアクセス」がある。それが故に医療費が増大して財政を圧迫する、という社会保障費財源の問題も孕んでいるのだが、さらにワクチン接種がOECD加盟国の中で遅いとの批判。ドラッグラグの問題でも批判。しかし日本での認可となれば世界中で安全性について「問題なし」とのレッテルも張られるのも「コモンセンス」だ(筆者お気に入りの受け売り)。慎重さとスピード感・大胆さはつねに裏腹である。
<WMN事務局>
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