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561号 地域包括ケア病棟への転換が活発化 ー新設1年間で届け出数は、1170施設・3万1700床にー
2015年08月15日■地域包括ケア病棟の届け出病床が3万床超え
2014年度診療報酬改定で一般病棟7対1入院基本料(7対1)の施設基準が厳格化されて、1年半近く。新基準を満たせない病院では、一部病棟を地域包括ケア病棟に転換し、経営に活路を見出そうとする動きが活発化している。
厚生労働省が6月10日の中医協総会に報告したデータでは、地域包括ケア病棟の今年4月時点の届け出施設数が約1170施設に上り、届け出病床数は3万1700床に達したことを明らかになっている。これは、昨年10月時点の約920施設・2万4600床に比べ、施設数は約250施設増、初めて1000施設を突破した(図3)。
特に、7対1・10対1一般病棟入院基本料と亜急性期入院医療管理料からの転換が9割以上を占めている。届け出を行った医療機関の病床規模については、100~200床の医療機関が過半数を占める一方、200床以上の医療機関も一定程度存在している(図4)。
地域包括ケア病棟は、「急性期からの患者の受け入れ」「在宅等からの患者の緊急時の受け入れ」「在宅への復帰支援」のおもに3つの機能を担う(図5)。
一般病床と療養病床、どちらからも届け出ができ、200床未満の病院に限り、地域包括ケア入院医療管理料として病床単位で届け出が可能となる。
入院期間は60日以内でリハビリは1日2単位以上、地域包括ケア病棟入院料1を算定するには在宅復帰率70%、1人当たりの居室面積が6.4㎡以上という要件が加わる。入院早期からの充実したリハビリや退院調整が不可欠で、円滑な退院に向けて訪問診療や訪問看護などの在宅部門の強化、連携が求められる。
■施設基準厳格化の影響で7対1病床からの転換が目立つ
2014年度改定以前は、「亜急性期病棟」が急性期からの患者を受け入れていたが、病床機能の分化、連携を進めるために、2014年度診療報酬改定では、施設基準等の厳格化により、7対1入院基本料算定施設がふるいにかけられた。亜急性期病棟の診療報酬上の評価は昨年9月末で廃止となり、その受け皿としてこの時の改定で新設されたのが、地域包括ケア病棟。
厳格化の影響で7対1病床数は減少し始め、2014年10月には約1万4000床減の36万6200床になった。今年6月10日に厚労省が発表した調査では、7対1病床はさらに減少し、今年4月時点で36万3900床となった。厳格化の中で、病院側が「最も厳しい」と考えているのが、「重症度、医療・看護必要度」の見直しのようだ。
厚労省は「7対1病院が、他にどのような入院料を届け出ているか」を病床規模別に調査しているが、特定機能病院や500床以上の大病院では「特定集中治療室管理用」や「救命救急入院料」が多く、200床未満の中小病院では「地域包括ケア病棟」「回復期リハ病棟」「療養病床」などが多くなっている。ただし、大病院の中にも「地域包括ケア病棟」「回復期リハ病棟」を届け出ている所もある。
【日医執行部】
日医執行部は「大病院は高度急性期や急性期に特化すべき」と地域包括ケア病棟への転換に批判的:中医協総会で鈴木日本医師会常任理事は、「病床稼働率維持のために地域包括ケア病棟などに転換することは、適正な地域連携を阻害する。稼働率維持はダウンサイジングで対応すべきだ」と大病院の地域包括ケア病棟への転換に批判的だ。
≪事例≫ 地域包括ケア病棟に転換した一般病院は…
○7対1から転換で年1億増収見込みの一般病院も
京都市内の236床の一般病院は、2病棟(104床)を地域包括ケア病棟に転換。同院は、今まで無理して「7対1」を維持してきたが、思い切って一部病床を地域包括ケア病棟に転換。これまで重症患者の占める割合が小さいこともあり、年間1億円以上の増収につながる見込みだ。
○地域包括ケア病棟への転換により、患者に合わせた最適な治療やリハビリが可能に
和歌山県の一般病床(一般入院棟)300床を有する国保総合病院は、休床中57床を除く243床を急性期病床として利用していたが、2015年5月から一般病棟50床を地域包括ケア病棟に転換。従来は症状が回復すれば退院を促し、通院で経過観察にあたっていたが、地域包括ケア病棟が開設されたことで最長で60日間入院を継続できるため、患者に合わせた最適な治療やリハビリなどが受けられることになった。病院側は「急性期と回復期を区分することで患者さんや家族にも退院が近いと、目に見える形でわかりやすくなった」とコメントしている。
【入院患者の声】
県内の別の病院から転院してきました。入院した際に、「地域包括ケア病棟」って一体何だろうと心配しました。しかし、「帰れる場所・帰りたい場所」「家に連れて帰りたい意向」を確認し、在宅後の細かいケアの管理をしてくれる退院支援専門の看護師さんがいるので、安心しました。
<秋田県のある総合病院地域包括ケア病棟の高齢入院患者の声>
事務局のひとりごと
公立病院が本気になったら、その地域の民間病院の経営は大いに打撃をこうむることになる。これは民間病院の共通見解であるだろう。あくまで一般論であるが…。
公立病院が救急患者受け入れを積極的に行い、病床利用率を高める営業活動を積極的に行うことができれば、ある意味無敵である。公立病院には届出病床数に応じて、地方自治体から特別交付税が交付されていた(※)。公立病院会計で言えば、一般会計繰入と称する医業外収入である。その理由として、公立病院は周産期、小児、救急、へき地、災害 等のいわゆる不採算になりやすい事業をその存立意義として行う必要があり、その赤字部分になると思しき金額を補てんするために交付されるというのが建前だ。であるから、公立病院が予算として交付税抜きでも黒字計画が立てられるなら交付されない。必然的に交付税抜きなら赤字予算を組むのが公立病院ならば当然のことと言えよう。
とするならば、公立病院ではベッドの上に患者が寝ていなくても、事実上、空いたベッドに収入が入ってくるのだ。公立病院の人件費率は民間病院のそれに比して高いと言われている。民間病院は50%台前半が経営を大きく左右する指標とされているが、公立病院によっては50%台後半に近い人件費率となっている。それだけ高い人件費を投入し、患者を受け入れて診療行為に当たれば、入院収入はあっても出ていくお金も当然高い。むしろ何もしない方が、看護師不足への対応をはじめ、様々な管理が必要な状況に比べ、診療行為に伴って発生する差益を稼ぐより、結果として効率よく収入が入ってくる。大げさかもしれないが、こんな考え方の公立病院も昔はあったかもしれない。
(※)…平成28年度から段階的な経過措置があるものの、交付対象が「稼働病床」に変更される
今回の地域医療構想策定における「協議の場」は、極論すれば医療圏ごとの機能に応じた必要病床数を算出し、再設定させ、不要な病床を削減しようというものだ。おそらく、トップを走る病院を除けば、ほとんどの病院における一般病床(急性期病床と思っていたい病床)は理論上減るといって良いだろう。
「亜急性期」と呼ばれていた、急性期に準じる形の入院基本料も、本年9月をもってなくなってしまう。「亜」という言葉が意味するように、医療と言えば急性期、と考えられていたこれまでの医療において、急性期に「準じる」≒後塵を拝す という捉えられ方があったためではないだろうか。あまり算定される病床がなかったが、今回登場の地域包括ケア病棟は、その亜急性期病棟の診療報酬上の評価の受け皿とされている。
この地域包括ケア病棟は、大病院が一般病棟の一部を転換し、急性期後の約60日間程度を自院で入院させることができる受け皿にする動きのパターンと、中小規模の病院がほとんどの病床を転換し、他の急性期病院からの慢性期医療との間に位置する受け皿として広く患者を受け入れる体制(いわゆる連携)のパターンに分かれる。このパターンに大別されることによって同じ地域包括ケア病棟でも入院患者像は異なる。このあたりの問題は、本文内の「日本医師会執行部は大病院の地域包括ケア病棟への転換に批判的なコメント」と若干関連するところだ。
話は公立病院に戻る。稼働していない公立病院の病床が、地域医療構想策定時に病床を返上することを求められ、届出病床が減ることにでもなると、経過措置中ではあるものの、このままでは公立病院としては収入が減ることが目に見えてくる。公立病院としては経営上たまったものではない。すると、稼働していない病床を地域包括ケア病棟に転換し、病床利用率を上げようとする動きは活発化すると予想される。ある意味、前段のように公立病院が患者集めに本気になってしまうことになる。大病院もこれに続くだろう…。するとどうなるか。であるからこその日医執行部のコメントなのだろう。
たとえは悪いが、大学受験で国公立理系での受験を志向していたはずの同級生が、高校3年目に国公立文系に転換し、理系仲間からは「都落ち」と称されライバルが一人減ったと安堵され、一方文系の学生からは強力なライバルが一人増え、自分の偏差値を脅かす存在になってしまうという、そんな受験サバイバル競争に似ている。と言ったら失礼だろうか。
とは言えそれも、全学時代と言われる昨今、選り好みさえしなければ大学に入ること自体、昔ほど困難ではないのでもあるが…。
560号で触れた療養病床再編・削減論は、法律的には結論が出てしまっていることが、各団体の働きや実情も相まって揺り戻しの議論が起こっている状態なのだが、今後は一般病床再編に最も焦点が絞られてくる。
これまでの各号でテーマとして採り上げてきた内容とどれもが密接に関連している。
三角錐の先端をちょん切った円柱を横にして、先の細った先が未来で、面積が大きい方が現在であるとするならば、その先端部分の円周はどれくらいの大きさなのだろう。無理なのかもしれないが、現在の円周とさして変わらない大きさの円を望んでいる存在の多さを思ってしまう。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
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