ワタキューメディカル
ニュース

No.575 介護施設等の従事者による虐待が35%増加 厚労省の2014年度高齢者虐待調査で明らかに

2016年03月15日

→メディカルニュース今月の見出しページへもどる

 

 

■ 養護者による虐待は横ばいだが、要介護施設従事者による虐待は増加

 連日ニュースで取り上げられ、社会問題化している介護施設従事者よるに高齢者虐待。厚生労働省が2月3日に公表した「平成25年度(2014年度)高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法令に基づく対応状況等に関する調査結果」(高齢者虐待調査)でも、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)や介護老人保健施設、介護療養型医療施設などで従事者による高齢者虐待が2014年度には300件認められ、前年度に比べて35.7%も増加していることが明らかになった(図 養介護施設従事者による高齢者虐待件数/養護者による高齢者虐待件数)。虐待の内容は、身体的虐待が最も多く63.8%、次いで心理的虐待が43.1%、経済的虐待が16.9%と続き、認知症のある高齢者では、身体的虐待を受ける割合が特に高いことが分かった。

 

 

 

 介護施設や養護施設では、高齢者に対する虐待があっても、高齢者自身が訴えることができず、分かりにくいことから、厚労省は2006年に施行された高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)に基づき、毎年度、虐待の実態などを調査するとともに、改善に向けた指導などを行っている。調査対象は、全国の1741市町村と47都道府県で、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、有料老人ホーム、地域包括支援センター、介護保険法の居宅サービス、地域密着型サービス―など養介護施設での虐待のほか、家族など養護者による虐待を集計。

 2014年度は、「養介護施設の従事者による虐待がある」との相談・通報が1120件(前年度比16.4%増)寄せられ、うち300件が高齢者虐待と判断。虐待と判断された件数は前年度に比べ35.7%も増加した。また、「養護者による虐待がある」との相談・通報は2万5791件(同1.9%増)寄せられており、うち1万5739件(同0.1%増)が高齢者虐待と判断された。養護者による虐待件数は横ばいだが、要介護施設従事者による虐待件数は増加傾向にあり、早急な改善が求められるが、相談・通報がきちんと行われるようになった結果、「これまで見えなかった部分が明らかになった」とも言える。

 

 

■認知症のある介護施設入所者、身体的虐待のケースが増加

 2014年度に養介護施設従業者からの虐待があったと認められた300件のうち、被虐待者が691人特定できた。この691人に対しどのような虐待が行われたのかを見ると、身体的虐待が最も多く441人(63.8%)、次いで心理的虐待298人(43.1%)、介護等放棄59人(8.5%)、性的虐待18人(2.6%)となっている。また、入所系施設(特養ホームなど)における従事者からの虐待では、認知症高齢者(認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ)では身体的虐待が72.1%と特に高いことが分かった図 入所系施設の被虐待高齢者の認知症との関係)。身体的虐待は、認知症なしや自立の高齢者では40.9%、自立度Ⅱの高齢者では50.7%にとどまっている。

 さらに、入所系施設における従事者からの虐待と、被虐待者の要介護度との関係では、「要介護度が低いほど身体的虐待が少ない」「経済的虐待は要介護度が低いほど多い」「心理的虐待は要介護度との関係は薄い」ことなどが分った。

 厚労省では、養介護施設の種類と、虐待の種類との関係について、①介護保険3施設(特養ホーム、介護老健施設、介護療養)では、「心理的虐待」が含まれるケースが他の施設よりも低い、②認知症対応型共同生活介護(グループホーム)・小規模多機能型居宅介護等では、「身体的虐待」が含まれるケースが他の施設種別よりも低く、「介護等放棄」が含まれるケースが高い、③居宅系の事業所では、「身体的虐待」及び「心理的虐待」が含まれるケースが他の施設種別よりも高く、「介護等放棄」が含まれるケースが低い-などと分析している。

 

 

関係者のコメント

 

<介護ジャーナリスト「若年男性の介護従事者による虐待が厚労省調査でも明らかに」>

 今回の調査結果で注目されるのは、介護従事者全体に占める男性の割合が21.9%であるのに比して、虐待者に占める男性の割合が59.3%(192人)と、男性の割合が高いという点だ。また虐待者の男女別年齢についてみてみると、介護従事者に占める「30歳未満」の男性割合が19.6%、女性に割合が8.7%であるのに比して、虐待者に占める「30歳未満」の男子の割合が34.4%、女性の割合が17.3%であり、虐待者は男女ともに「30歳未満」の若年層の割合が高いことがうかがえる。今回の川崎市の介護付き有料老人ホームで転落死させた容疑者も23歳の男性。奇しくも、厚労省の調査で指摘された男性の若年層の介護者による虐待が問題となっていることが明らかになった。
 介護現場の人材不足は深刻で、2015年12月の介護サービスの有効求人倍率は3.08倍で全職種平均の1.21倍を大きく上回る。理由として待遇の不十分さが指摘され、介護職員の平均賃金は2014年で月額約22万円と、全産業平均より11万円ほど低い。
 このような過酷な介護現場に勤める若者は、極端な言い方かもしれないが、「高齢者の介護に使命感を持った若者か」もしくは、「職が見つからず、“消去法”で介護職を選んだ若者」。使命感、倫理観を持った若者をどう育てるか、とても重い課題だ。

 

 

<入所系施設運営事業者のコメント>

 近年、増加する高齢者入居施設において、介護スタッフによる虐待が増加している要因は大きく二つあると考えられる。1.適正なスタッフ数が確保できていない。2.入居者の身体状況とスタッフの介護力が見合ってない。(必要なサービスの質と量に対し、慢性的に提供力が不足している状況)

 介護報酬改定やホテルコストの原価上昇など、入居施設の経営環境は厳しい状況に置かれている(初期投資額や経営計画が適切であったか我々事業者側に問われる部分も多い)中で、効率化の名の下にスタッフ一人一人の負担が増加傾向にある。今までの対応ができなくなる事に対し、心を痛めているスタッフもいる。 

 住み慣れた地域で住み続けるためには、施設入居という選択肢は必要である。だからこそ、横ばいである在宅介護の虐待に対し施設での虐待が増えるという住む場所に比例した増加現象は起こしてはならない。

 虐待という不幸な結果に導かないためにも、運営者は、真摯にサービスを提供している(提供したいと思っている)スタッフの目線に立ち、スタッフへとの日頃のコミュニケーションやヒアリングを通じ、意見や問題点の発見と、それを全員で解決していくという体制を構築していく必要がある。

 

 

<ご高齢者の声「施設のスタッフを信頼するしかない」>

 施設の方々との信頼関係があってからこそ、施設で安心して過ごすことができる。しかし、認知症が悪化し、自分で判断もできなくなれば、虐待を受けても外に訴えることは難しい。施設のスタッフを信頼するしかない…。

事務局のひとりごと

『(子どもが)自分をにらんだので(ガンを飛ばしてきたので)ムカッと来て「かかと落とし」をした。』

 こんなニュースが少し前に流れた。ぞっとした。そしてハッとした。

———————————————————————————————————————-

 まだ筆者の子どもが生まれて2~3ヶ月の頃、2~3時間おきに目を覚まし、「オムツ替えて!」とか「ミルクが欲しい!」とか(言っているのだろうと推測)、とにかく泣いてわめいて訴える(泣くことしかできないので当然のことではあるのだが)。

まずは就寝前に子どもを寝静まらせ、仕事の疲れ(?)で、ようやく深い眠りつけたはずのところ、妻にたたき起こされる。「子どもがこれだけ泣いているのに、あなたよく寝てられるわね(実際は関西弁:大阪系)。」と言って「私は一日中やっているんだから。オムツとミルクやっておいて(関西弁)。」と言いながら自分は眠りにつく。

 眠たさと、明日も早いのに! というイライラとが入り混じりながらオムツを替える。一応はおとなしくなるのだが、このままでは終わらない。まだ起きているからだ。「ミルク」と「ゲップ」、「ゆらゆら」をしないと寝てくれない(※2)。熱湯でミルクを溶き、氷水で温度を人肌に調節。うとうとして冷やしすぎた。また湯せん。こちらの時間がかかっているのでまた泣き出す。やっとの思いで抱っこして、ミルクで口を塞いで黙らせる。体を揺らしながら嬉しそうにミルクを飲んでいる子どもの顔を見て、だんだん腹が立ってきた。頭を思わず軽くしばいてしまった。せっかくここまで来たのに(自分が悪いのだが)、さらに泣きわめく我が子。心の中で謝りながらもイライラはさらに募る…。

 今となっては、子どもが夜中に起きてきても「怖くて一人でトイレに行けない」など言われて起されても、可愛らしくて微笑ましい。眠いながらも一緒にトイレについて行ってやる…。

———————————————————————————————————————-

 子育ての場面で、似たようなご経験はおありだろうか。

 ニュースを見た時、自らの経験を思い出してハッとしてしまった。より弱い立場で手を出せない存在に一瞬とはいえ、ムッとしたのは筆者だって一緒である。ただ筆者とニュースで報道された人と異なるのは「手加減」していたかどうかだ。報道されていた人のことを「なんという奴だ…」などと、自分は当然のように一般論を振りかざして批判できるのだろうか…。

 

 先の話はその先に間違いなく成長が見込める、さらに言えば「自分の子ども」の世話の話だ。ところで今回のテーマで採り上げられた、虐待された高齢者の方々はどうだろうか。これまでいろいろな人生を重ねられた大先輩であるが、子どもと違って大人は力もあれば体重もある。いやいやされれば結構な力で抵抗されることだろう。たたかれることだってあるかもしれない。大人の体重を支えるのは全身運動だ。子どもをだっこするのとわけが違う。言葉も喋ることができる。泣くだけとは違い、罵られることだってあるかもしれない。下の世話だって匂い・量ともに子どもの比ではない。その上身体機能や生活機能が改善することの見込みは、これから成長していくことがほぼ確実な乳幼児と比べればはるかに低い

 

 もちろん、そういった高齢者のことをよく理解し、その上でどう寄り添いながらケアをしていくかを考え、それを生業としているのが介護事業者であり、「介護のプロ」という見られ方をするのはある意味当然だ。

 たしかに当然と言えば当然ではあるのだが、昨今の人手不足。他の施設に比較して虐待事例の多いのが居宅系の事業所だそうだ。居宅系事業所は、「病院から在宅へ」という掛け声のもと、地域包括ケアシステムにおける重要な住まいとして位置付けられているはずだ。民間事業者による運営が多いのも特徴と言えば特徴だ。

 本文中の介護ジャーナリストによるコメント。

 『このような過酷な介護現場に勤める若者は、極端な言い方かもしれないが、「高齢者の介護に使命感を持った若者か」もしくは、「職が見つからず、“消去法”で介護職を選んだ若者」。使命感、倫理観を持った若者をどう育てるか、とても重い課題だ。』

 結構、的を得たコメントに思える。

 

 先月、有料老人ホームの職員による、高齢者への虐待問題が大きく報道された。

 先のジャーナリストのコメントに反して、虐待問題がニュース等で報道された際、逮捕された容疑者の人となりや、「介護のプロ」のはずが、などという(報道関係者からすれば単なる対岸の火事なのか)、もっともらしい言葉で視聴者心理を煽り立てるような構成には、正直、嫌気がさしてしまった。こと人間の尊厳にかかわる問題なので、大きく報道された。その上「ひどい奴だ」と言い易い内容だし、人道的な問題にはあまり反対意見も出にくいので世間受けする。ただ、内容はワイドショーと変わらない(と言ったら失礼か)。そうこうしているうちに「大臣の贈収賄、辞任」、「元プロ野球選手の覚醒剤問題」、「マイナス金利」だなんだかんだ、あっという間に話題はめくるめく

 

 どんな業界でも、組織でも、誰からも褒められるような「こんな人材が欲しい」と思われる人材の層なんて、せいぜい2~3割しかいないのではないか(※3)。あとは周囲の環境次第で良くも悪くも浮動する層、そして何らかの問題があるだろうと目されてしまう層もあるだろう。

 社会的な仕組みとして、高い使命感を持った理想的な人材を本気で集めようとするならば、介護人材について不幸な事件を契機とした「人道論」を語っているだけでは何も変わらないのではないか。

 

 収入だけの問題ではないのだろうが「大企業偏重」、「東京一極集中」と言われている現在、就職戦線に立とうとしている学生たちに、「介護、しかも民間企業で」という選択肢は、果たしてあるのだろうか

 「かっこよくて夢のある、高収入、目指すなら介護業界」。中身のないフレーズで申し訳ないが、いろいろな情報が不足し、ただ周りを見渡して仕事に就かんがために活動しなければならないという強迫観念にも似た動きをしている学生たちから、漠然とでもそう思われない限り、介護業界に興味を向けてくれるのを漫然と待つのはあまりにも無力感が残る(※4)。

 ただでさえきら星のごとく存在するリクルート情報。しかもどの企業からも引っ張りだこの、内定をたくさん獲得しそうな学生で溢れかえる業界に介護事業がなるのは、超高齢社会を世界で一番に迎える我が国としての、これは国家的な課題ではないのか

 子どもの夜泣きに悩まされていた頃を思い出しながら、そんなことに思いをめぐらせる。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

(※2)…実際にはその後もミルクを飲んで寝たところを、ゆらゆらしながらそっと着地させる(これが腰に来る)。最後は哺乳びんを洗浄し、電子レンジで消毒してやっと終了だ(但し、子どもが起きなければ)。妻が呑気に寝ている(ように見える)夫を叩き起こしたくなる気持ちも理解できなくはないのだが…。

 

 

(※3)…プロ野球だって1軍登録選手は一握り。その選び抜かれたはずの選手を、われわれ視聴者は、平気でああだこうだと批判するのだ。

 

 

(※4)…もちろん、きちんとした目的意識をもってインターンシップなどに積極的に参加し、企業研究に余念のない学生も存在しているのも間違いない。そういう方々や、さらに周囲の環境に影響されやすい学生が、まず介護事業者にエントリーしようと思ってもらえるようになるための道のりは、こと好景気とされる今のご時世においてはあまりにも長い。


<WMN事務局>

 

ヘルスケアNOW
ワタキューセイモア株式会社

ワタキューメディカルニュースの最新情報をメールで受け取れます。

下記の個人情報の取り扱いについて同意のうえ、登録フォームへお進みください。

■お客様の個人情報の取り扱いについて

1.事業者の名称

ワタキューセイモア株式会社

2.個人情報保護管理者

総務人事本部 本部長

3.個人情報の利用目的

ご入力いただいた個人情報は、WMNメール送信のために利用いたします。

4.個人情報の第三者提供について

法令に基づく場合及び本人ならびに公衆の生命・健康・財産を脅かす可能性がある場合を除き、ご本人の同意を得ることなく他に提供することはありません。

5.個人情報の取り扱いの委託について

取得した個人情報の取り扱いの全部又は一部を委託することがあります。

6.保有個人データの開示等および問い合わせ窓口について

ご本人からの求めにより、当社が保有する保有個人データの開示・利用目的の通知・訂正等・利用停止等・第三者提供の停止又は第三者提供記録の開示等(「開示等」といいます。)に応じます。

開示等に関する窓口は、以下の「個人情報 苦情・相談窓口」をご覧下さい。

7.個人情報を入力するにあたっての注意事項

個人情報の提供は任意ですが、正確な情報をご提供いただけない場合、WMNの送信及び最新情報などのご案内が出来ない場合がありますので、予めご了承下さい。

8.本人が容易に認識できない方法による個人情報の取得

クッキーやウェブビーコン等を用いるなどして、本人が容易に認識できない方法による個人情報の取得は行っておりません。

9.個人情報の安全管理措置について

取得した個人情報の漏洩、滅失または毀損の防止及び是正、その他個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じます。

このサイトは、(Secure Socket Layer)による暗号化措置を講じています。

ワタキューセイモア株式会社

個人情報 苦情・相談窓口(個人情報保護管理者)

〒600-8416 京都市下京区烏丸通高辻下ル薬師前町707 烏丸シティ・コアビル

TEL 075-361-4130 (受付時間 9:00~17:00 但し、土日・祝祭日・年末年始休業日を除く)

FAX 075-361-9060