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No.584 揺れる新専門医制度、2017年度の全面実施見送りへ  病院団体・医師会が医師不足など地域医療への影響を懸念

2016年07月15日

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■医師不足等を招くとして、制度発足1年前になり全面実施が見送りに

 一般社団法人日本専門医機構が主導し、2017年度からスタートする新専門医制度が暗礁に乗り上げている。新専門医制度は当初、日本専門医機構がイニシアティブを取り、第三者の立場で認定する仕組みを予定していたが(図2 専門医の養成開始に向けたプロセス(案))、2017年度は 試行”で実施し、全面実施が見送られることになった。

 

 

 新専門医制度は、2013年に公表された厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」の最終報告を受け、日本専門医機構や学会などの関係団体が、2017年4月の新専門医制度開始に向けて仕組み作りを進めてきた。新専門医制度に関する検討は、専門医の質の標準化を目指して1990年に22学会の代表からなる学会認定医制協議会(日本専門医機構の前身)が設置されて以来、これまで長い時間をかけて進められてきた。専門研修プログラムの審査・認定や専門医の認定・更新を担う第三者機関として日本専門医機構が設立された際には、日本医学会と日本医師会、全国医学部長病院長会議が構成員である「社員」となり、その後、四病院団体協議会や公益財団法人医療研修推進財団、公益財団法人医学教育振興財団も加わった。

 

 ほとんどの医療関連団体が手を組んで新専門医制度のあり方を検討してきたが、制度発足1年前になって暗礁に乗り上げた原因の1つが、「現状の仕組みでは医師の偏在を助長する恐れがある」などとして、病院団体が開始延期を求めたことだ。新専門医制度では大学病院が「基幹施設」となり、中小病院などと組んだ「施設群」を作り研修プログラムを運営することになっているが、この仕組みを導入すると専門領域の研修を受ける研修医(専攻医)と指導医が基幹施設に集中し、中小病院の医師不足を招くとの懸念があるとみられる。

 

■混乱するなか、塩崎厚生労働大臣が「異例」の大臣談話

 制度開始が迫っているにもかかわらず議論が停滞する状況を見かねた厚生労働省は、関係団体に検討を委ねていたそれまでの姿勢を転換。社会保障審議会医療部会の中に新制度に関する検討の場である「専門医養成の在り方に関する専門委員会」を立ち上げ、委員長(自治医科大学学長の永井良三氏)とともに、2017年度は希望する学会に限って「試行的」に新制度を導入する案を提示した。

 

 さらに、日本医師会と四病院団体協議会が6月7日緊急記者会見を開き、日本専門医機構及び基本診療領域を担う学会に対して、「新たな専門医の仕組みへの懸念について」と題する「要望」を出したことを明らかにした。「要望」では、①新たな専門医の仕組みを2017「年度から拙速に行うのではなく、地域医療を崩壊させることのないよう、一度立ち止まって、検討の場を設け、指導医を含む医師及び研修医の偏在の深刻化が起こらないかどうか集中的な精査を早急に行う、②日本専門医機構について、地域医療を担う医療関係者や医療を受ける患者の意見が十分に反映されるよう、ガバナンスや運営について抜本的に見直すこと-とするもの。

 これを受け、塩崎厚生労働大臣は同日、「新たな専門医の仕組みの構築に当たっては、全国どこにあっても患者、国民が質の高い医療を受けられるようにするという制度本来の目的のため、医療関係者、日本専門医機構及び各学会がお互いの立場を超えて協力し合い、プロフェッショナルオートノミーの理念の下、地域医療の担い手、地方自治体はもとより、患者や国民の声をしっかり踏まえながら、同時に研修医を含む医師の不安も払しょくしつつ、我が国の将来の医療を担う患者、国民のニーズに応えることができる医師の養成に貢献される」ことを求める異例の大臣談話を出していた。

 

 新専門医制度が混乱する中、日本専門医機構は6月27日に開いた第4回社員総会で、6月21日に開かれた同機構の「役員候補者選考委員会」が推薦した24人の理事候補を承認、新理事が決定した。任期は2年。理事会を7月4日に開催し、24人の理事の中から、互選で理事長1人、副理事長2人を決定する。現機構の理事長の池田康夫氏、副理事長の有賀徹氏と小西郁生氏の計3人はいずれも退任する。社員総会後、新専門医制度でイニシアティブを取ることを表明していた日本医師会の横倉義武会長は、「新専門医制度は、地域医療に混乱を来す懸念があったので、その点をきちんと修正しながら進めることができる理事が選ばれた」と説明している。

 

 専門医機構が認定する専門医は「医療の質を保証」し「国民に認知される公的資格」であり「患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」であるとし、それを認定する「新専門医制度の仕組みは、プロフェッショナルオートノミー(医師の専門職としての自律)を基盤として設計されるべき」としている。「国民の認知される新専門医」とはほど遠い医師同士の論争が交わされているようだ。

関係者のコメント

 

<横倉日医会長:「地域医療を崩壊させないことが重要」>
 横倉義武日本医師会長は6月25日の日本医師会代議員会の所信表明の中で、新専門医制度の問題にも言及。「プロフェッショナルオートノミーを持って国民に安心を約束する取り組みであるものの、地域医療を崩壊させないことが重要だ」と強調した。

 

<西澤全日本病院協会長:「中小・地方の病院から「医師を引き揚げられる」という話がかなり舞い込んできた」>

 中小病院の会員を抱える全日本病院協会の西澤寛俊会長は6月7日の日本医師会と四病院団体協議会との緊急記者会見で、「基本的に専門医制度は必要」と考え、推進してきた。ただ、最近になって、会員の中小、地方の病院から『医師を引き揚げられる』という話がかなり舞い込んできた。地域医療の崩壊につながり、新専門医制度の趣旨とも相反する。地域医療を守る方向になっていただきたいということで要望書を出した」と発言。

 

<来春から新専門研修を予定する若手医師:われわれ医師は「持ち駒」ではない!>

 医師のキャリア形成にとって、専門医制度は重要な柱。医師会や病院団体の「医師不足を招く」「地域医療の崩壊」という意見は、何かわれわれ医師を「持ち駒」にしているようで気にくわない。学会によって来年4月から対応も異なっており、事態を早く収拾して欲しい。

 

<病院で働く看護師の声「看護師のキャリアアップに比べ、医師は恵まれている」>

 「キャリアアップのために看護師は自らお金を払って学会、セミナー等に行き、認定看護師など資格取得を行っている。病院からの補助がでるのは一部の病院だけ。一方で、医師は専門医になるのにも国や病院からの厚い補助があり、恵まれている。同じ医療人なのに、どうもしっくりいかない」。

 

<地方自治体関係者「地方に若手医師がバランスよく配置される仕組みに」>

 新たな専門医制度に対して、公立病院の関係者からの批判が相次いでいる。関西広域連合は4月17日、地域医療を担う公立病院が基幹施設となり、研修医の採用や派遣を行いやすくすることなどを求める意見書をまとめたほか、自治体病院議員連盟は同日、塩崎恭久厚生労働相に対して、延期を含めた慎重な検討を要望する決議を行った。都道府県知事や市町村長でつくる「全国自治体病院開設者協議会」と、公立病院の病院長らによる「全国自治体病院協議会」は4月17日、連名で国に要望書を提出し、地方に若手医師がバランスよく配置される仕組みに改めるよう求めている。

 

<マスメディアの論調:「混乱が続くようなら、政府が介入するのもやむを得ない」>

 大手新聞の一部では、「これだけ関係者の間で意見が対立するのは、患者も不安」「混乱が続くようなら政府が介入するのもやむを得ない」との論調があるようだ。

 

事務局のひとりごと

 

________________________________________ 

「○○君(※1)、ちょっといいかな?」

‐上司から別室に呼ばれる○○君‐

 「何でしょうか?」

‐身構える○○君、海外転勤の話か?‐

「○○君は、英語は喋れるのかな?」

  ‐やっぱり!落ち着け落ち着け… ‐

 「いいえ、滅相もない!実は私は高校時代から英語が大の苦手でして…。海外はとてもとても…」‐助かった…。胸をなでおろす○○君‐

 「そうか…。いやそう言ってくれると思った。喜んでくれたまえ。」

‐??? 戸惑う○○君‐

「いや実はね、当社がアメリカ以外の海外進出を計画しているのは聞いているね?君にはその第一号として、北京に行ってもらおうと思っているんだ。北京なら英語が話せなくても大丈夫だろうし、心配していたが杞憂だった。安心したよ。君には期待しているんだ。もちろん了解してくれるよね?頑張ってくれよ!!」

「・・・・。」

‐ 茫然とする○○君 ‐

________________________________________

 

 コミカルなサラリーマンドラマに出てきそうなシーンだが、医師の話について触れてみたい。医局に入局した医師はその医局の教授の意向でいろいろな病院に出向いていくことになる。病院の医師の人事は、病院にあるというより、医局(教授)にあるため、医師は病院経営層の言うことよりも、医局(教授)の方針の方が優先順位の絶対的第一位だ。

 本文中にあった来春から新専門研修予定の若手医師の『我々は「持ち駒」ではない!』という言葉は、医師個々人においては確かにその通りの偽らざる気持ちだろう。

 これまた本文中にあった塩崎厚生労働大臣の談話「新たな専門医の仕組みの構築に当たっては、全国どこにあっても患者、国民が質の高い医療を受けられるようにするという制度本来の目的のため、医療関係者、日本専門医機構及び各学会がお互いの立場を超えて協力し合い、プロフェッショナルオートノミーの理念の下、地域医療の担い手、地方自治体はもとより、患者や国民の声をしっかり踏まえながら、同時に研修医を含む医師の不安も払しょくしつつ、我が国の将来の医療を担う患者、国民のニーズに応えることができる医師の養成に貢献される」ことを求めたという。

 

 これが実現できればまさに完璧なコメントだ。完璧すぎて、結局何をどうして解決していいのかわからない。逃げ道がない。素晴らしいことの羅列で、返す言葉もない。その収入が社会保障費を財源とする、公職的な存在である医師とはいえ、一人の人間だということを忘れてはいないか?これでは「総論賛成、各論反対」の典型的な結果を招くのではないだろうか。解決より2025年がやってくる方が早い気がする。小職自身、「一票の格差」問題に強い問題意識をもっているという訳ではないが(各々諸事情もあるだろうから)、「落としどころ」を探りながら徐々に是正されている状態でもまだよい方だとも感じているのだが…。

何もかもこれまでと同条件の状態で全体最適を目指すなど、理想論にしか聞こえない。「限界集落」、「医療過疎」、都心部で提供できる医療とは全く異なる問題と正面から向き合い、国民に真摯に問うていくだけでも、わずかでも光明が見いだせそうな気がする

 

 先の○○君は、それでも北京に赴任してくれることだろう。大切なのは、○○君が日本に帰って来られる道筋をきちんと示してあげることだ。もちろん、「住めば都」なので今度は○○君が日本に帰りたくない、などと思ってしまうことになるのかもしれないが…。

 

 日本の医療提供体制の道筋はこの先、果たしてしっかり示されていくのだろうか?もちろん、有識者やお役人が作った工程表は存在しているのだけは間違いないのだが…。


<ワタキューメディカルニュース事務局>

 

 

(※1)……文中の○○君には思い思いの人の名前をあてはめてご想像ください。

<WMN事務局>

 

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