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No.611 介護給付費分科会で介護医療院の報酬議論スタート。介護療養病床からの転換を最優先に
2017年09月15日
■ 介護療養病床からの転換を最優先、その一方で介護保険財政悪化懸念する意見も
2018年度から新設される介護医療院について、報酬や人員配置・構造設備に関する基準設定の議論が始まった。8月4日に開かれた厚生労働省社会保障審議会・介護給費分科会では、平成30 年度介護報酬改定(特定施設入居者生活介護、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院)について論議された。このうち、介護医療院については、「介護療養病床からの転換を最優先にすべき」との意見が多くの委員から出た一方、「医療療養病床からの転換によって、介護保険財政が厳しくなり、保険料水準の高騰につながる」ことを懸念する意見も出された。
介護療養病床の設置根拠が2018年3月で切れることを受け、政府は改正介護保険法により、「医療機能」「介護機能」「生活機能」の3つの機能を兼ね備えた新たな介護保険施設「介護医療院」の創設を決定し、来年4月から2類型の「介護医療院」が稼働する。1つは「重篤な身体疾患を有する者」や「身体合併症を有する認知症高齢者」を主な入所者とする【介護医療院I】で、もう1つが「比較的容体の安定した者」を主な入所者とする【介護医療院Ⅱ】(図1)。
注目されるのは、(1)報酬水準、(2)人員配置、(3)構造設備、(4)転換促進策の4点。(1)報酬水準については、2017年末の2018年度予算案編成過程で決まる介護報酬改定率とも大きく関わることから、現時点では、具体的には「〇〇単位とすべき」との議論には発展していないが、4日の介護給付費分科会で、介護医療院の創設を検討している関係団体の委員から、「介護医療院Iは、現行の療養機能強化型A・B相当に、介護医療院Ⅱは、介護老人保健施設相当(一定の加算を基本報酬に組み込む)とすべき」との相場観が示された。
また、(2)人員配置については、介護医療院の制度設計を検討した社会保障審議会・療養病床の在り方等に関する特別部会で、①介護医療院Iは「介護療養病床相当」、②介護医療院Ⅱは「介護老人保健施設相当以上」との考え方が示されている。これに対して、「介護医療院Ⅱの人員配置は、より手厚い転換型老人保健施設(介護療養型老人保健施設)相当にすべき」との意見が出された。
(3)構造設備については、療養病床の在り方等に関する特別部会で、「居室面積は老健施設相当(1床当たり8.0平米)」といった考え方が出されたが、介護給費分科会の多くの委員からは、「円滑な転換を進めるために、既存の介護療養などが転換する場合には建て替えなどまでは『6.4平米の多床室』を認めるべき」との指摘が相次いだ。
(4)の転換支援では、「介護療養病床からの転換を促進するため、地域医療介護総合確保基金の活用など支援策の継続・充実」を求める点で委員間の意見は一致したようだが、「介護療養以外からの転換」については若干意見が異なっている。介護保険事業(支援)計画の枠内であれば新設も可能だが、「第7期介護保険事業(支援)計画中(2018~2020年度)は介護療養病床からの転換を優先すべき」との意見が出された一方、「医療療養病床からの転換も可能とすべき」との意見も出ている。介護療養病床から介護医療院への転換は「介護保険制度内」だが、医療療養病床などからの転換は、「医療保険から介護保険への転換」、つまり「医療費の一部が介護費に移る」ことを意味することから、「介護保険財政が厳しくなる」「介護保険料の引き上げが必要になる」ことが懸念される。特に、早期転換を図るため介護医療院の報酬を高く設定し、そこに医療療養病床からの転換が進めば、この影響はさらに大きくなる。
■ 厚労省、「介護医療院は、介護療養病床、医療療養病床などからの転換は総量規制に含めず、新設は総量規制」との通知
厚労省は8月10日、「第7期介護保険事業 (支援) 計画における療養病床、介護医療院等の取扱いに関する基本的考え方について」の通知を発出し、介護医療院について、介護療養病床や医療療養病床などからの転換は、いわゆる総量規制の対象に含めないが、新設については総量規制の対象に含めることを明らかにした。
市町村と都道府県は3年を1期とした介護保険事業計画・介護保険事業支援計画を定め、この中で、各種介護保険サービスの整備量などを見込む。この整備量に基づき、3年間の介護保険料が設定される。サービスの整備量を多くすれば、利用者に十分な介護サービスが提供できる一方、保険料の高騰につながってしまう。このため厚労省は、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護専用型特定施設、認知症高齢者グループホームなどについて、「必要利用定員総数・必要入所定員数」という上限を設け、超過した整備申請(開設申請など)は「介護保険の指定を市町村や都道府県が拒否できる」(総量規制)。
今回の通知では、介護療養病床、医療療養病床、介護老人保健施設が介護医療院に転換する場合、その利用者数・入所者数の増加は「必要利用定員総数・必要入所定員数」に含まれず、総量規制による指定拒否は生じないことを明確にしたもの。
関係者のコメント
<猪口全日病会長:「介護医療院については、病院団体を中心に協議する場が必要」>
全日本病院協会(猪口雄二会長)は8月19日の常任理事会で、会内組織として「介護医療院協議会」(仮称)を設置し、9月から活動を開始することを決めた。
全日病会長就任にあたり猪口会長は、「介護医療院の施設基準や報酬体系は、介護給付費分科会で決まることになるが、そもそも介護医療院の対象は、介護療養病床であり、医療療養病床。そのあり方については、病院団体を中心に協議する場が必要であると主張したい」(7月15日号全日病ニュース)と述べており、今回の介護医療院協議会の設置につながった。
<日慢協が介護報酬改定で要望:「重介護で重症な患者・利用者の評価を」>
日本慢性期医療協会は「平成30年度介護報酬改定に向けた」要望書をまとめ、8月11日、厚労省の鈴木康裕医務技監、濱谷浩樹老健局長、鈴木健彦老人保健課長宛に提出した。要望書は、訪問サービス、通所サービス、施設サービス、地域密着サービス、居宅介護支援など介護保険サービスの形態ごとに要望をまとめたもの。介護報酬全体を通じて、「様々な合併症を持つ方や重度の認知症、ADLレベルの低い方など重介護で重症な患者・利用者が増加している現状を踏まえ、重症者の定義づけとその枠組みに応じた適切な報酬体系が望まれる」と要望。また、介護医療院の新設を踏まえ、看護配置が手薄な医療療養病床(25対1)などから転換した場合、「介護職員処遇改善加算」の対象となるよう求めている。
<介護経営コンサルタント:「マイナス改定予想される介護報酬。非営利ホールディングスカンパニー型法人制度に伴い競争力が脆弱な小規模介護事業所は厳しい経営環境に」>
長年、訪問看護・訪問介護の現場に携わってきた介護経営コンサルタントは、「前回平成27年度(2015年度)介護報酬改定は2.27%と9年ぶり大幅なマイナス改定となり、訪問介護、通所介護事業所の4割が赤字経営に陥った。2018年度の同時改定でもマイナス改定が予測される。特に同時改定を契機に、医療法人が介護サービスも統合し経営の効率化を進める、いわゆる「非営利ホールディングスカンパニー型法人制度」(図2 2015年医療法改正で創設)が進展することが予想される。新たに介護事業所など株式会社への出資が可能となり、地場産業ともいえる介護事業所の経営に少なからず影響を及ぼす。介護報酬がマイナス改定になれば、競争力が脆弱な小規模の介護事業所にとって2018年度同時改定は、厳しい経営環境となりそうだ」などと語る。
<東全老健会長:「療養型老健から新しい類型へ移行の道は必ず確保を」>
介護医療院は療養病床だけでなく、介護療養型老人保健施設からの転換も認められる。そもそも療養型老健も、介護医療院と同じく療養病床の受け皿として2008年度に創設され、「転換型老健」などとも呼ばれる。しかし、療養病床からの転換は進まず、療養型老健のベッド数はおよそ7000床ほどに留まる。「療養病床の受け皿としては、人員配置の報酬も不十分で、医療療養病床に戻ったところも多かった」との指摘もある。
厚労省の「療養病床の在り方等に関する特別部会」で、介護療養型老人保健施設の転換の可否について全国老人保健施設協会会長の東憲太郎委員は、「介護療養病床からの移行組の中には、老健の在宅支援の役割を果たせず苦しんでいる施設もある。療養型老健から新しい類型(介護医療院)へ移行の道は必ず確保してほしい」と強く主張している。 。
事務局のひとりごと
WMNアーカイブスから懐かしい記事を見つけた。2008年3月当時、グループ解説員から頂戴したコメントだ。療養病床再編の中で、介護療養病床が廃止になるとされた当時、その受け皿として厚労省が用意した新型老健、「療養型老健」についての解説だ。
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<<介護療養型老健の報酬>>
厚労省は3月3日、社会保障審議会で療養病床から転換する介護療養型老健の施設基準案と介護報酬案を示し、了承された。
以下、筆者の感想をのべる。
<1.施設基準の緩和での特記すべき点>
①病院と転換型老健併設の場合での動線等(出入口、EV、階段、廊下等)の共用が可。
②療養室の内法面積6.4㎡(大規模修繕を行うまでの期間)で可。
上記2つの緩和策で改修費用を一切掛けず転換が可能となった。
<2.介護報酬でのポイント>
①要介護度によって報酬を大きく変化させた。
従来型老健(多床室)との比較において、要介護1でのUPはわずか1単位、要介護2では35単位UP、要介護3~5は各56単位のUP。つまり介護療養型老健での(医療療養型では医療区分1と同じように)要介護1・2は採算が合わないことを意味している。(筆者の原価計算では看護職員等や薬剤費等の経費増で従来型に比べ30~40単位のUPが必要になると予想。) → ここでも地域連携(出口)が重要。
厚労省は平成26年度までに老健・特養の要介護度4・5の入所者比率を70%以上と計画していることへの布石である。
②30床~60床の介護療養型老健(多床室)の経営は可能か
従来の老健の損益分岐点は60床前後と言われてきた。したがって80床以上が老健の健全経営に欠かせないとされている(29床以下は人員基準等の緩和があるので経営可能と思われる)。
今回の介護療養型老健の介護報酬での損益分岐点が何床ぐらいなのか、大雑把な検証を試みた。結果としては、要介護度や加算の取り方及び設備投資額等で変化するが、従来型の老健との損益分岐点との差異はあまり見られなかった。
したがって30床以上60床~70床以下で加算算定があまり取れなくて且つ平均要介護度が低い介護療養型老健の転換は慎重にシミュレーションして決定しなければならない。
<当時のコメントをそのまま記載>
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WMNで何度かとり上げさせていただいたテーマである「介護医療院」。いよいよその報酬部分に関わる議論がスタートした。本文中にもあるように、まだ決まってはいないものの、介護給付費分科会で報酬水準、人員配置、設備構造、転換支援策が議論され、報酬水準については「相場観」が示されたという。決定するまでにまだ時間がかかるのだろうが、予算編成も視野に入れれば、厚労省においては当然何らかの仮置き数字で試算していると考えても不自然ではないだろう。もちろん、現段階でそれを目にすることは残念ながら叶わないのだろうが・・・。しかし、本文中にあったような方向性なのだから、基本室料が医療並みに跳ね上がる、なんてことはないのだろう。療養型老健が生まれた背景当時の解説を引っ張り出したのは、実際に起きた事象から将来を予測してみよう、という思いからであった。
ところで、医療と介護、在宅への「シームレス」な連携とは、これまで患者、利用者が地域包括ケア体制の中で適切なケアを受けるために構築されるという、あくまで「人の流れ」と解釈する向きが多かったと筆者は考える(ていた)。
ことここに至り「介護人材不足」が殊更叫ばれるようになり、また、それを背景として起こっている(と思われる)事件が多く起こっている(報道されている)中、患者の流れだけシームレスにするのではなく、もしかすると財源もシームレスに移転しなければならないのではないか?本文中の転換支援策の部分の記述を見てふとそう思った。
他の業種の年収に比して介護職の収入が低い、とされており、人件費相当の点数が2回連続改定で設定されたわけだが(※1)、そもそもそんな手当てではなく、一挙に看護師並みにするくらいの必要があるのではないか?去る8月、あるセミナーでクリニックの人材確保をテーマとする講義を受講したのだが、講師曰く、現在の学生(将来就職を見据えている人材)で、「介護系に行きたい」と考えている学生は激減しているのだそうだ。数十人中で1~2名程度とのこと。今や新卒の就職活動は超売り手市場。就職氷河期とされていた1990年代や2010年代前半とは正反対の様相だ。そんな中で簡単に「優秀な介護人材」など、ただ待っているだけでは集まるべくもない。これからAIの台頭、進化に伴い、労働者の仕事がそれに置き換わっていくとされているが、それは全ての業務というわけでなく、殆どが文系ホワイトカラーの業務に偏っているのだ(しかもルーチン化しやすい業務)。ブルーカラー系の業務も当然、自動化が進んでいくのだろうが、もしかするとこちらの業務のほうがAIに取って代わられなくて済むかもしれない。看護や介護は、何らかの置き換えがあったとしても、完全な機械化や自動化は難しい業務ではなかろうか。だが、将来は介護人材の不足が叫ばれているにも拘らず、看護師と介護人材の業務の平均年収の差は大きい。そんな現状だ。お金だけで動くものではないのだろうが、介護系人材の年収的地位向上も人材確保のためには必要なことだ。故に医療から介護へのシームレスな財源移転もあながち絵空事とは言えないのではないか、というのが筆者の考えた背景である。であれば、もし医療並みの基本室料が設定されれば、転換もあっという間に進むのではないか?(※2)
もちろん色々な政治団体があり、そう簡単に行くものではないので、医療からの財源移転というよりは、そうしたいのなら介護保険財源を増やす(保険料負担増、税負担増)ということに、やはりなっていくのか。
切実なコメントを紹介したい。
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○介護医療院を検討している中小病院長:「同時改定を契機に介護医療院に転換するか迷っている」
介護医療院は介護施設のベッド数となり、転換によって病院のベッド数が縮小することになる。その一方で、医療機関の外来及び在宅医療の単価は、200床未満になることで算定可能な項目が増え、単価が上がるなど経営面のメリットも大きいようだ。介護療養病床の経過措置期間が6年間延長されるが、それをギリギリまで待って介護医療院に転換したら手遅れという声もある。同時改定を契機に介護医療院に転換するか迷っている。
○四国で医療療養病床を運営する病院長:「転換するかどうか気持ちが揺れ動いている」
介護医療院は介護保険法の本則に定められた新しい施設である。転換したら「病院ではなくなる」ので、移ったら二度と病院には戻れない。「〇〇病院」という名称に愛着を持つ職員が多い。私の県は、慢性期病床は全国的にも過剰な地域であり、介護医療院への転換で経営安定化を図りたいが、「病院の看板は外したくない気持ち」と「制度改革を先取りして前に向きたいという気持ち」の間で揺れ動いている。
○介護療養病床の利用者とその家族:「介護療養病床のような手厚く人を配置した施設は、もうこの国ではぜいたく施設なのか?」
介護療養病床のような手厚く人を配置した施設は、もうこの国ではぜいたく施設なのか?そこでしか生きていけないような虚弱なお年寄りを抱えて国は、財政的に困っているというが、もっと安上がりの施設で我慢しろ、そこで死ねということなのか?厚労省のどなたでもいいのだが、なぜ廃止をしなければいけないのか説明して欲しい。
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筆者が後期高齢者と現在呼称されている年齢に至るまで、あと約30年(2040年代後半)。健康寿命も今より延伸しているかもしれないが、安心して介護を任せられる人材が育っている環境になってくれれば良いのだが・・・(※3)。できればあまりお世話になることなく(迷惑をかけることなく)PPKと逝きたいものだ(※4)。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※1)・・・WMN No.594(2016 12月号)でもとり上げたが「国の制度で守られているだけまだましだ」という意見もある。一方で、民間の給与所得者の平均は約370万円。福祉施設の介護員の月給は2014年の全国平均で約22万円。年収に換算するとそれより低い計算となる(因みに、高齢者の現役世代並みの収入とは約370万円といわれているそうだ。高齢者の高額療養費制度が見直しになる年収のハードルが夫婦計で370万円。)。
<WMN事務局>
(※2)・・・単純すぎる発想でゴメンナサイ。そもそも財源論から生まれた話なので、そんなことをしたら元の木阿弥だ。しかし、そう思わずに入られない。ご批判は筆者まで。
<WMN事務局>
(※3)・・・もしかするととんでもないイノベーションが起きて、AIやロボットによる介護が主流で、介護人材不足をあまり考えなくても良い時代になっているかもしれない。
<WMN事務局>
(※4)・・・ピンピンコロリ。昨日まで元気だったご老人が、ある日ポックリ逝ってしまわれることをそういうらしい。
<WMN事務局>
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