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No.616 2006年度入院時食事療養費見直しで病院給食部門の収支悪化厚労省、中医協入院医療等の調査・評価分科会にデータ
2017年11月15日
■2006年度の入院時食事療養費見直しにより食事療養費の総額は大幅に減少
2006年度に入院時食事療養費・生活療養費の見直しが行われた以降、食事療養費の総額は約2割と大幅に減少。一方で、委託費や食材費などの費用が増加し、病院の給食部門の収支は大幅に悪化している。そのようなデータ(「入院時の食事療養に係る給付に関する調査」速報)が、厚生労働省より10月18日開かれた中医協「入院医療等の調査・評価分科会」に提出された。2018年度の次期診療報酬改定でどのような対応が行われるのか、今後の入院医療分科会や中央社会保険医療協議会の議論が注目される。
入院患者に提供される食事の費用は、厚生労働大臣が一定の基準に基づいて「食事療養費」を算出し、ここから患者負担(平均的な家計の食費から導いた標準負担額)を除いた分が「入院時食事療養費」(65歳以上の療養病床入院患者では「入院時生活療養費」。以下、両者を合わせて「入院時食事療養費」等と表記)として医療保険から医療機関に支払われる。「入院時食事療養費」等は、2006年度(平成18年度)の診療報酬改定でそれまでの「1日単位」から「1食単位」に見直された。午後に入院する患者や、午前中に退院する患者などもいるため、必ずしも3食すべてを必要としない患者がいることから、「1食単位」に見直された。医療費適正化の一環として、細かな算定が行われたと言える。また、2006年度の診療報酬改定では、常勤の管理栄養士配置や適時・適温の食事提供などを要件とする「特別管理加算」が「入院時食事療養費」等に吸収。その後、2012年度改定では、常勤管理栄養士による栄養管理を評価する「栄養管理実施加算」が入院基本料に包括されるなど、「入院時食事療養費」等を巡る環境は厳しくなっている(図2「入院時食事療養費制度」発足以来の食事療養費等の変遷)。
さらに、腎臓病や糖尿病の患者に対して医師の処方せんに基づいて特別食を提供することを評価する「特別食加算」についても、2006年度改定で従前の「1日単位」から「1食単位」に細分化するとともに、加算の引き下げ(1日につき350点→1食につき76円・1日に換算すると228円)も行われた。
■給食を全面委託する病院の収支が特に悪化
中医協「入院医療等の調査・評価分科会」に提出された「入院時の食事療養に係る給付に関する調査」のうち、「入院時食事療養の収支等に関する実態調査」結果によると、前回の2004年調査に比べ、①食事療養費総額は2006年度改定後に約2割(17.7%)減少し、その後、横ばい、②特別食加算の合計額は2006年度改定後に約5割(50.2%)減少し、その後、横ばいであることが分かった。
また、厚労省は病院の給食部門の収支を2004年(平成16年)と2017年(平成29年)で比較。慢性期病院を含む一般病院の患者1日当たりの平均収入額は全面委託が1793円、一部委託が1774円、完全直営が1769円で、いずれも2004年調査に比べ減少。全面委託の減少幅が170円と最も大きかった。その結果、患者1人1日当たりの収支は大幅に悪化し、特に「給食を業者に全面委託している」病院において、悪化の度合いが厳しいことが明らかになった。2006年度の「入院時食事療養費」等の見直しによって収入が減少する一方で、人件費の高騰などによる委託費の増加、消費増税、給食用材料費の増加などによる影響が大きい(図3 給食部門の支出・収支(一般病院(慢性期病院も含む))。
消費税率が2014年度に8%に引き上げられ、医療機関の負担する控除対象外消費税(いわゆる損税)も拡大することから、全医療機関が算定できる入院基本料や初再診料などで特別の診療報酬プラス改定が行われた。しかし、患者負担などは消費税非課税のため、医療機関が物品購入などで支払う消費税はそのまま医療機関の負担となり、給食用材料費の消費税分の補填ができていない。中医協で2018年度改定に向けて見直しが検討されることになるが、「入院時食事療養費」の引き上げを行うのか、他の診療報酬項目で補填するのか、今後の議論に注目される。
関係者のコメント
<厚労省:「収入減少の要因は、食事療養費本体と特別食加算の収入低下」>
今回の調査結果から、厚生労働省は収入減少の要因として、「食事療養費本体の収入と特別食加算の収入の低下、特別管理加算の廃止による影響が大きい」とコメントしている。
【全面委託】
<市立病院の事務長:「病院財務改善のため全面委託したが、今後に不安を感じる」>
市の病院会計の悪化に伴い給食の全面委託に踏み切った四国地方の市立病院事務長。「給食部門では、管理栄養士による外来・入院指導の拡大による診療報酬の増収対策、一方で各病棟での配茶業務の廃止、調理員の減員など経費削減に取り組んできたが、それでも給食自営のためのコストがかかり、昨年、全面委託に踏み切った。今回の中医協調査から全面委託の病院の収支が悪化していることが分かり、不安だ。今のところ当院では給食部門は収支トントンだが、全面委託したことが良かったのか、今後に不安を感じる」と述べている。
【全面委託】
<市立病院の院長:「1日約50種類、500床の入院患者に食事を提供するには、全面委託に頼らざるを得ない」>
東北地方の市立病院長。「当院では1日約50種類の食事を患者さんに提供している。これが、完全自営で給食を提供すると、食材費、人件費などに膨大なコストがかかる。全面委託だからこそ、500床の入院患者の病態にあった食事が提供できると思う」と語る。
【完全自営】
<地方の民間病院長:「人件費等コストが低いからこそ完全自営ができる」>
北陸地方の400床の民間病院長。「私のところは、自前で給食センターを設置し、グループの医療法人や福祉法人が運営する各施設に専用車で配食している。都会に比べて地方では、材料費、人件費など給食施設を運営するコストが、格段に低いことから、完全自営できるのではないか」などと述べている。
事務局のひとりごと
筆者は食べることが好きである。人と話して盛り上がると、ついつい食べ物の話になってしまう。そして話している人のお勧めの店を教えてもらい、店のレパートリーを増やすのが楽しみだ。先日の情報によれば、ある百貨店の南側に、予約3ヶ月待ちの食堂があるという。その店の「から揚げ」は絶品なのだとか。もちろん他のメニューも素晴らしいらしい。話しているだけで垂涎ものだ。調べて見ると「○べログ」で4.1である。横にいた飲食店経営者によれば、「そんな点数、よほどのことがないと取れない!どうやって取れるのか?」
そんな話を聞けば行ってみずにいられない(※3)。
お腹に入れられさえしたら良い、と考えておられる方には大変申し訳ないのだが、食事とは人間にとっての、楽しみの一つなのだと考える。病院で入院しておられる患者さんにとっても、三度の食事は、おそらく何よりの楽しみだ、と言っても過言ではないだろう。
今回のテーマは病院給食部門の収支が悪化という、食いしん坊の筆者にとっては放っておけない話題である。
病院給食の提供事業者からのコメントを紹介したい。
今回の調査結果のうち委託費用を見ると、全面委託の場合は、前回調査より+143円増(1,206円⇒1,349円)となっており、率にして11.9%の増です。前回調査時の平成16年度最低賃金(全国加重平均)は665円、平成28年度は823円で率にして23.8%の増となっており、原価の半分を人件費が占める現状から言えば、委託費の増加は賃金動向を踏まえたものとなっていると言えます。一方、完全直営は部門費用の増が少ない結果となっていますが、元々の部門人員の給与水準が高く、最低賃金引上げの影響を受けにくかったことが原因ではないでしょうか。
厚生労働大臣が話されたように「賃金動向など踏まえ」て 入院時食事療養費のあり方も議論、決定されるものと思いますが、我々委託事業者との契約単価は病院側の収入である入院時食事療養費の額から算出しているものではありません。外食分野からの参入もあって激しい競争下で厳密なコスト積算に基づき算出している為です。直接の影響は無いと言えますが、診療報酬改定で大幅な本体引き下げとなって、病院経営にマイナス影響が出るような状況になりますと委託費の値下げ要請は強まり、価格重視による品質を犠牲とするような風潮が出ることを懸念して止みません。働き方改革等も背景とする人件費の高騰や人手不足による影響を非常に受けやすい業界である点はご理解いただきたいと思います。
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毎年受診している健康診断の結果を見るにつけ、体のあちこちにガタが出始めていることを実感しつつも、まだ「健康(?)」と言える(言いたい)筆者も、これまでの人生の中で入院を経験したことがある。左足にギプスをしていたため、入院当時、松葉杖の生活を余儀なくされていた(退院後もしばらくだが)。必然的にベッドの上での生活が多くなり、ふくらはぎの筋肉はめっきり細くなった。その時の入院生活の楽しみは、入院前に買い込んだ本の読破、テレビ鑑賞、そして食事である。ただ、食事が終わると、箸を洗いに行ったりしなければならず、痛い足をかばいながら病棟の廊下を、松葉杖をつきながら箸を持って歩く、という不自由な状況も生んでしまったので、楽しいばかりではなかった気もする。当時は6人部屋に入院しており、中には手にギプスを嵌めていた同居者もいたので、その方にとっては、食べることも一苦労だったに違いない。向いには今で言うところの「認知症」のおじいさんもいた。筆者の顔をみて、昔体験されたであろう、戦時中の上官と勘違いし、敬礼されもした。その方が一食 食べるだけでも看護師さんとの格闘だ。
話がそれてしまったが、そんなこんなでも入院患者にとってのメインイベントである食事がこの議論の末、財源論だけで片付けられ、マイナスになってしまうとなれば大変である。
先の予約3ヶ月待ち食堂も、大将が全精力をかたむけて入魂の一皿を作っておられるのだろうが、ただし、価格は店の裁量で決定できる。
一方、病院の給食では、大病院であればあるほど、大量に、しかも同時のタイミングで適時適温の食事提供が毎日、3食なされなければならないわけだ。その現場に従事されておられる方々にも頭の下がる思いだ。1食あたり640円でそれを実現しなければならないわけだ(※4)。
こんなコメントを紹介したい。
○財務省と予算折衝の厚労省担当者
「病院給食を提供すればするほど赤字が増える構造となっていることは十分に認識。 財務省は理解してくれない」
財務省と予算折衝をする厚労省の担当者。「2006年度の改定以降、入院時食事療養費の合計額は約2割減少。特別食加算の合計額は約5割も減少している。一方で、提供回数はいずれも2倍以上増えており、人件費の増加や食材費の高騰に伴って収支が厳しくなっている。病院給食を提供すればするほど赤字が増える構造となっていることは十分に認識している。病院給食は、治療の一環であることを財務省側に再三説明しているが、なかなか理解してくれない」と実情を語る。
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最後に、患者の声を紹介して締め括りとしたい。
○退院間近の患者
「退院後の食事管理が心配。国は病院の食療養費にもっとお金をかけるべきだ」
退院間近で在宅での食事に不安感じる患者。「国は病院の食療養費にもっとお金をかけるべきだ。限られた予算の中で、豊富なメニューで温かい食事を提供してもらって有り難い。病院給食は治療の一環という話を聞くが、退院して自宅で療養した時に、入院していた頃の栄養を考慮した食事が摂れるかどうか心配だ」。
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そう言えば、筆者も入院していた当時、病院給食を食べていた頃は、トイレに行くのも億劫だったが、不思議とお通じは良かった記憶がある(昼時の方、すみません)。
退院して好きなものばかりを食べるようになった瞬間、そうはいかなかった気がする(たんぱく質や炭水化物ばかり取ってしまったからなのだろうが・・・反省)。飽食と言われながら、国民の総摂取カロリーは先進国で最低といわれる我が国で(和食だということもあるのだろうが)、前出の患者さんの叫び声は切実である。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※3)・・・いろいろ情報を集めていくと、その店はカウンター8席しかないらしい。つまり、大将がその味の品質を確実に保証できる範囲での料理提供なのだそうだ。4.1という評価もうなずける。因みに筆者はまだ予約は取れていない。やはりその店を知った人に連れて行ってもらった方が安心だ。いつかチャンスをものにしたいものだ。今後も情報収集につとめたい。
<筆者>
(※4)・・・あくまで何の加算もない場合。
<WMN事務局>
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