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No.632 地域差みられる地域医療構想調整会議の議論。厚労省、2018年度病床機能報告制度を見直し。
2018年07月15日
■2018年度病床機能報告から「実態のない急性期病棟」にメス
2017年3月末に全都道府県において地域医療構想が策定され、その達成に向けて「いかに地域医療構想調整会議で実のある議論を進めるか」という段階に入っている。厚生労働省は定期的に(4半期に一度)、構想区域(ほとんどが二次医療圏単位)の調整会議の開催状況などをチェックしているが、地域によって調整会議の進捗状況等に大きなバラつきが明らかになっている。
6月6日開かれた社会保障審議会医療部会では、2017年度末時点の「地域医療構想」達成に向けた全国341構想区域の地域医療構想調整会議における議論の進捗状況が報告された。調整会議の開催は1067回、②調整会議以外の意見交換会等の開催は228回、③2016年度病床機能報告が未報告の医療機関数は151区域・455施設で、うち未報告医療機関のあり方について議論した構想区域は33区域に過ぎず、④非稼働病棟を有する医療機関数は285区域・1158施設、うち非稼働病棟のあり方について議論した構想区域は66区域にとどまり、⑤新公立病院改革プランと公的医療機関等2025プランの議論の状況は、新公立病院改革プランは対象823病院中、816病院が策定し、調整会議で議論を開始したのは650病院、⑥2025プランについては、対象834病院中813病院が策定し、議論を開始したのは617病院など、地域によって調整会議の議論に温度差が見られる(図2 「地域医療構想」の達成に向けた一層の取組)。
このため、6月15日開かれた厚労省の「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織である「地域医療構想ワーキンググループ」の会合では、地域医療構想調整会議の議論を活性化し、病床機能報告制度の精緻化を図るため、①都道府県単位の調整会議を設置し、県内の各地域調整会議の議長全員の参画を求めることを推奨する、②各都道府県で医療機能を考えるに当たっての目安・指標(定量的基準)を、医療関係者と協議して導入することを求める、③高度急性期・急性期機能を全く果たしていない医療機関は高度急性期・急性期として病床機能報告することを認めないなどメスを入れる、④各医療機関に「2025年度の病床機能」に関する報告を求めるなどの見直しを行うなど、「2018年度病床機能報告の見直しに向けた議論の整理(案)」について座長一任で了承。親組織の「医療計画の見直し等に関する検討会」、さらに社会保障審議会医療部会の了承を経て、省令改正を行う考えだ。
これにより、2018年度病床機能報告から、高度急性期と急性期については、手術や救急医療の実績など定量的な基準を導入し、該当しない場合、高度急性期または急性期として原則報告できないようにする。また、現行の病床機能報告では、現時点での病床機能と、「6年後の病床機能の予定」を報告しているが、2018年度からは「2025年の病床機能の予定」を報告するよう改める。
■地域医療構想の実現の焦点、「病院の再編・統合」
2018年度から「2025年の病床機能の予定」を報告するよう改めるのは、経済財政諮問会議の「経済財政運営の基本方針2017(骨太の方針2017)」で、「個別の病院名や転換する病床数等の具体的対応方針の速やかな策定に向けて、2年間程度で集中的な検討を促進する」ことが求められたからである。
さらに、6月15日の臨時閣議で決定された「骨太の方針2018」では、地域医療構想の実現に向け、①「個別の病院名」「転換する病床数」等の具体的対応方針について、2018年度中の策定を促進する、②公立・公的医療機関について、地域の医療需要等を踏まえつつ、「民間医療機関では担うことができない高度急性期・急性期医療や不採算部門、過疎地等の医療提供」等に重点化するよう医療機能を見直し、これを達成するための「再編・統合」論議を進める、③自主的な機能分化・連携が進まない場合には、「都道府県知事の権限」について検討を進める、④ 病床機能の転換や介護医療院への移行などが着実に進むよう、「地域医療介護総合確保基金」「急性期病床や療養病床に係る入院基本料の見直し」による病床再編の効果などを検証し、必要な対応を検討する、⑤ 病床のダウンサイジング支援の追加的方策を検討する-ことが記載され、病床機能の分化・連携に向けた踏み込んだ提言が示された。
2025年における医療ニーズに適切に対応するために、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の機能ごとの必要病床数などを定めた地域医療構想の実現に向けて、各構想区域(主に2次医療圏)で地域医療構想調整会議が開かれ、病院・病床の機能分化・連携の推進に向けた議論が進められている。「地域医療構想の実現」について、一部には「過剰な急性期病床を削減し、不足する回復期に機能転換する」という単純な構図と捉える向きもあるが、地域によって疾病構造・人口動態・地理的状況・医療資源は各々であり、一律の議論はできない。「医療資源が豊富、かつ急性期病床が過剰」な地域では、前者のように「急性期から回復期への転換」が中心課題になると思われるが、「医療資源が不足しており、地域の医療ニーズに応えるために、急性期を含めて医療提供体制の強化を行わなければならない」地域や、「同じ機能を持つ病院が複数あるが、人口の減少などが進み、資源の集約化が必要となる」地域などでは、分散した資源(医師、看護師などのマンパワーを含む)を集約するために、「病院の再編・統合」が重要な選択肢の1つとなる。
地域医療構想ワーキンググループの会議では、「病院の再編・統合」について、茨城県、徳島県、奈良県、新潟県などの事例報告が行われた。
このうち、茨城県では、二次医療圏の筑西・下妻医療圏で、公立の2つの急性期病院と、1つの民間病院を再編・統合し、「2つの公立病院」(1病院は地方独立行政法人化、1病院は再編に参加した民間病院が指定管理者)に再編・統合(公立の県西総合病院、公立の筑西市民病院、民間の山王病院→「公立の茨城県西部メディカルセンター」「公立のさくらがわ地域医療センター」)し(2018年10月開院予定)、二次救急医療まで完結できることが期待されている。また、鹿行医療圏では、2つの公的病院(済生会と労災)を再編・統合し、「本部病院」(350床)と「分院」(10床)として、本部病院に資源・機能を集約すること(神栖済生会病院、神栖労災病院→「神栖済生会病院の本院と分院」)が決まっている(図3 茨城県の再編・統合事例)。
2018年度病床機能報告から、「高度急性期と急性期については、手術や救急医療の実績など定量的な基準を導入し、該当しない場合、高度急性期または急性期として原則報告できない」ことになり、自主的な機能分化・連携が進まない場合には、骨太の方針2018で示されたように「都道府県知事の権限」で病院の再編・統合が進められることになる可能性が高くなる。病院の再編・統合が、公立・公的病院以外にも広がる可能性は高まっていきそうだ。
関係者のコメント
<厚労省地域医療計画課長:「都道府県で議論が進むよう様々な予算確保に取り組む」>
地域医療構想ワーキンググループの会合で、構想区域単位による地域医療構想調整会議の調整では限界があり、都道府県が支援する体制が必要ではないかとの意見に対し、厚労省医政局地域医療計画課の佐々木 健課長は、「都道府県で論議が進むよう、地域医療介護総合確保基金など様々な予算の確保に取り組んでいきたい」と答えた。
事務局のひとりごと
子どもに習慣づけをさせるのはなかなかに難しい。現在小学生である筆者の子どもたちはなかなか言うことを聞かない。
「帰ったらうがい、手洗い、すぐに着替えて宿題しようね」
これが言わなくてもやってくれたら嬉しいのだが、そうは行かない。
帰る。カバンをそこらへんに投げ置き、手も洗わず、着替えもしないままソファに寝そべる。絵本を見る。テレビを見る。宿題もしなければ時間割りの準備もしない・・・。
毎日キーキー言う家内。家内に電話で当たられる父親(筆者)。
「北風と太陽」という話がある。有名な話なので説明は省くが、筆者はことある毎に家内に話す。
「いつも“北風”だと、子どもたちは反発するだけやで。たまには“太陽”で優しく行かんと。なだめて、すかして、もちあげて、時にはビシっと。あの手の手を使いながら習慣づけるように持っていかな あかんのと違うかな?」
もはや家内とのこの遣り取りは、チェスや将棋でいうところの「千日手」である。結論は出ない。子どもたちの「やる気スイッチ」がどこにあるのか、これを探すのが親にとっての壮大なテーマである。
今回のテーマは地域医療構想についてである。
膨大で一目瞭然なデータを示しつつも、「地域差」、「バラつき」、と、柔らかな表現で指摘され、でも結局は地域で医療に携わる関係者自らが、自らの手で構想していくことを促す「地域医療構想調整会議」。つまるところ地域の自主性に委ねているわけだ。進みそうで進まない。
であるから、県単位で診療報酬の1点単価を変更してよい(下げる)、などという議論も当然出てくる。調整することの努力をしない県は、財源がなければ1点単価を下げれば結果として財源論の一つの解決策を示すことができる、そんなことを言わんばかりの流れである(※2)。
本文をご一読いただければ分かることだが、「骨太の方針2018」では、病床機能の分化・連携に向け、踏み込んだ提言が示された。確かにその通りである。ただ、その通りであるが、これは「北風政策」なのだろうか?はたまた「太陽政策」なのだろうか?(※3)
6月22日付の厚労省医政局地域医療計画課通知(医政地発0622第2号)で、「都道府県単位の調整会議」の設置を要請し、さらに都道府県が推薦して厚労省が選出する「地域医療構想アドバイザー」なる役割も登場するのだそうだ。
「いよいよ待ったなし、やりなさい!」といったところか。少なくともこれまでよりは「北風感」が感じられる。
どちらにしても、一体どうなったら厚労省の願う地域の「やる気スイッチ」が入るのだろうか?そしてその結論はいつ出るのだろうか?
コメントを紹介したい。
○武田医政局長:「地域医療構想推進で一番良くないのは、何も変わらないこと」
6月28日開かれた第68回日本病院学会・特別講演で、厚労省の武田俊彦医政局長は、医師確保対策、地域医療構想、医師の働き方改革は相互に密接に関係する問題であると指摘。地域医療構想について、「もともと必ずやらなければいけないことについて、国として枠組み、財源、ツールを用意した」とした上で、「一番良くないのは、何も変わらない、何もしないということだ」と指摘した。その結果、「経営が悪化し、医師が来なくなり、患者の満足度が低下してしまう。改革を進めれば、経営的、医療機能や医師の確保でもいい影響が出てくる」と述べた。
さらに、地域医療構想への取り組みには、都道府県によって開きがあることも問題視し、「調整会議での議論には、病床機能報告に基づくデータが前提となるが、報告していない病院があり、その督促ができていない県がある」ことをあげた。さらに地域医療構想の実現に当たっては、「調整会議での議論だけでなく、地域医療連携推進法人なども活用しながら進めることを求めたほか、医師確保計画も併せて策定、実施することになる」と説明した。
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どこかの壁に掛けてあった。「現状維持 即是脱落」。厚労省はつまるところ、こういうことを言いたいのだろうか?国と県、本部と拠点、いろいろな組織の中で、枠組みを作る側の意見はこのようになるのだろう。受け手がそれを額面どおりに認識しているかといえばそうではない(のだろう)。だから、地域医療構想はなかなか進展しないのだろう。
○逸見全自病会長:「地域医療構想は不足している医療機能の手当てが目的だが、病床の削減の方策に向かっているように見える」
5月16日に開かれた厚労省の「医療計画の見直し等に関する検討会」の「地域医療構想に関するワーキンググループ」の会合で、全国自治体病院協議会の逸見公雄会長(現在、名誉会長)は、「地域医療構想は、不足している医療機能の手当てが目的である」と指摘、会合で厚労省が提示した資料について、「病床の削減の方策に向かっているように見えるものがあり、違和感を覚える」と問題視した。
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受け手としてはこう考えるのも至極当然であるだろう。
なかなか進展しないこの状況に、「地域医療構想支援アドバイザー」なる存在が登場するらしい。
○地域医療構想アドバイザーは、「地元大学医学部の公衆衛生学研究者」から?
厚労省は6月22日、都道府県に通知「地域医療構想調整会議の活性化に向けた方策について」を、6月26日に事務連絡「『地域医療構想アドバイザー』の推薦について」を発出した。地域医療構想アドバイザーの選定要件として、①医療計画・地域医療構想を理解している、②医療政策・病院経営に関する知見を有する、③各種統計や病床機能報告などに基づいたアセスメントを行える、④都道府県医師会等の関係者と連携がとれる、⑤都道府県内に活動拠点を持つ人材-をあげている。都道府県の推薦を受け、厚労省でアドバイザーとして選出し、研修の実施・データ提供などを行う。地域医療構想ワーキングの会議では、例えば「地元大学医学部の公衆衛生学研究者」などがアドバイザー候補としてあげられている。
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果たしてアドバイザーが素晴らしいのか、県のご担当に医療提供体制に精通されている存在がいるのか、自治体によっては、厚労省にとっては「前向きな」取組み事例も見られる。
○奈良県福祉医療部長:「奈良県では、集約化・均てん化すべき医療を考えながら地域医療構想の論議を進めている」
6月6日開かれた社会保障審議会医療部会で、奈良県の林修一郎福祉医療部長は、「医療計画、地域医療構想などは、それぞれ別々の会議体で議論し、県庁内でも所管が異なるため縦割りになる。そこをいかに調整するかが県の腕の見せどころだ。奈良県では、集約化すべき医療と、均てん化すべき医療を考えながら進めている」と述べ、5疾病5事業と地域医療構想の調整は県に委ねられている現状を紹介した。
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こういった成功しそうな事例を全国に配信していくことで、地域医療構想の動きが拡大すれば、厚労省としては狙い通りだろう。その議論の場でファシリテーターとも言うべき存在が、「地域医療構想アドバイザー」である。
最後にこんなコメントを紹介して締め括りとしたい。
○医療コンサルタント:「民間病院が多い日本の医療状況を考えると、地域医療構想アドバイザーは、公衆衛生学のセンセイでは無理かも」
民間病院が多い日本の地域医療状況を考えると、「公衆衛生学のセンセイ」でどうにかならないと思うし、診療報酬をいじるしかできない医療コンサルタントの出る幕じゃないし、各種統計の資料ばかり印刷するシンクタンク系の人でもダメと思う。そもそも医療政策に精通し、病院マネジメントの経験を有し、中立的な立場で制度を理解して、全体最適をできる人材がどれだけ国内にいるのか疑問に感じる。民間病院の経営者からすれば死活問題にもなる問題について机上でしかモノを語れない人がくれば速攻排除されるのではないか。
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良質な地域医療構想アドバイザーの登場が待たれるところである。
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子どもたちが何とかいやいや宿題や課題を終えると、もう“おやすみ”の時間だ(最近かなり遅くなってしまっている。筆者は小学校低学年の時には、8時か、遅くとも9時には寝ていたものだが・・・)。ただ、まだそこは可愛らしい部分もあり、「一緒に寝て」といってくれる。じゃあ寝かしつけてから自分がやらないといけない仕事を片付けようか、と決意して、子どもの横に寝転ぶ。
気づけば朝である・・・。自分の習慣づけも道半ばか・・・。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※2)・・・1点あたり単価(現在10円)を都道府県毎に決定する、という議論は、当然のことながら、医師会側からの意見としては反対が主流だ。言い分も最もなフレーズもある。「1点あたりの単価が下がった県に、他府県の患者が押し寄せることになりかねない。これでは地域のための財源を、他府県の患者が奪うことになりかねない。」
なるほど、自治体の小児医療に対する充当策で人口増を狙ったり、お得な商品でふるさと納税を獲得しようとする動きとあまり変わらないことになるのかもしれない。いや、この場合は患者がその都道府県に引越しでもしない限りは、税収も増えることなく、都道府県の保険財源が使用されていくことにつながりかねない。医師会側の意見にも、うなずける点は多分にある。難しい問題だ。
<WMN 事務局>
(※3)・・・「太陽政策」という表現を使ったものの、これは話の流れからくる比較対象論である。そもそも、小泉改革で打ち出された「骨太の方針」によって、医療機関は大変苦しい状態にある、というのが今もベースにある訳なので、これまでの政策を「太陽政策」である、と言いたいわけではないので悪しからずご了承いただきたい。
<筆者>
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