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No.642 地域医療支援病院って何?厚労省検討会で承認要件の見直しで論議
2018年12月15日
■地域医療支援病院は1997年の医療法改正で創設、全国2次医療圏で586病院
医師偏在対策などを盛り込んだ改正医療法に定められた「医師少数区域等を支援する機能」を持つ地域医療支援病院の要件をどのように設定するか、さらに地域医療支援病院全般について「在宅医療を支援する機能」などについてどのように考えるかなど、地域医療支援病院のあり方について論議する厚生労働省の「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」がほぼ1年ぶりに再開した。同省としては、2019年夏頃に要件の見直し内容を取りまとめたい意向だが、検討会の構成員からは地域医療支援病院のあり方、制度の廃止も含めて抜本的な議論が必要との声もあり、取りまとめに当たり議論の行方が注目される。
地域医療支援病院制度は、「地域で必要な医療を確保し、地域の医療機関の連携等を図る観点から、かかりつけ医等を支援する医療機関」として1997年の第3次医療法改正で創設された。主な機能は、①紹介患者に対する医療の提供(かかりつけ医等への患者の逆紹介も含む)②医療機器の共同利用の実施③救急医療の提供④地域の医療従事者に対する研修の実施-の4つの役割・機能が求められ、それぞれが承認要件となっている(図2 地域医療支援病院制度の概要)。
つまり、「診療所等で対応できない重症の患者を地域医療支援病院に紹介し、一定の治療を終えた後にはかかりつけの診療所に逆紹介してもらう」「すべての診療所で高額な医療機器を整備することは難しいため、地域医療支援病院に機器を整備し、地域の診療所医師も共同利用可能とすること」などが、地域医療支援病院に期待されている。診療報酬上の評価として、入院初日に限り、「地域医療支援病院入院診療加算1000点」が加算され(図3 診療報酬による評価)、2019年9月時点で全国の2次医療圏の586病院が地域医療支援病院の承認を受けている。
■厚労省、地域医療支援病院を医師少数区域支援の「類型」として提案
地域医療支援病院の各機能への取り組み状況には、「差がある」との指摘があるとともに、地域医療構想の実現に向けた「機能の変化」が生じている可能性もある。
検討会では、「二次医療圏のあり方や地域医療構想等の医療制度の変化を踏まえて検討すべき」「地域によって地域医療支援病院が集中しているのは問題」「近年、公的医療機関として地域医療支援病院として承認されている医療機関は、民間の医療機関と競合しているのではないか」「周囲に診療所がなければ紹介率、逆紹介率を上げることは困難」「介護と医療を総合的に実施する地域に密着する病院が地域にとって必要ではないか」「地域医療支援病院の役割は地域医療構想調整会議で議論すべきであり、全国一律の基準を設定することに違和感がある」「不足している診療機能や必要な支援は地域ごとに異なり、地域で必要とされる医療の提供を地域医療支援病院の承認要件に追加する仕組みや、更新制も含め、時代の変化に対応した地域医療支援病院のあり方の見直しも必要ではないか」「4つの機能を1セットで持っていることを要件化していることの意味を問い直すべき」など、地域医療支援病院のあり方を見直すべきとの意見が出された。
また、地域医療支援病院には「在宅医療を行う医療機関の支援」も期待される。超高齢社会に向け、「要介護度が高くなっても、地域での生活継続を可能とする」という地域包括ケアシステムの構築が急がれているが、「急変時には連携先の病院に入院し、適切な医療が受けられる」という安心感が、患者の在宅療養維持にとって極めて重要になる。しかし、「在宅医療支援」は地域医療支援病院の承認要件となっていないこともあり、「十分にはなされていない可能性がある」との指摘がある。実際に、2014年度の診療報酬改定で創設された「在宅療養後方支援病院」の届け出状況を見ると、586の地域医療支援病院中、96病院・16.4%にとどまっている。
さらに、医療提供体制に関しては、機能分化や連携強化などと並び「医師の偏在の是正」が重要な課題となっており、是正策として、改正医療法では、「医師少数区域等で一定期間勤務することで地域医療への知見を持った医師」を厚生労働大臣が認定し(認定医師)、一定の病院では「認定医師であることを管理者・院長の要件」とするといった仕組みが設けられた。この仕組みに関して議論してきた厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」では、対象病院として地域医療支援病院を想定し、医師派遣、プライマリケアの研修・指導などの機能を要件として提示している。
これらの議論を踏まえ厚労省は、「医師少数区域等の医療機関へ医師を派遣する(代診医の派遣を含む)」「地域の医療機関へ24時間の技術的助言を行う」「プライマリケアの研修・指導を行う」などの機能を持つ地域医療支援病院を、「地域医療支援病院」の類型として提案した。
今後、検討会では、①在宅医療を提供しているかかりつけ医などを後方から支援する機能の明確化、②地域医療構想調整会議の協議を踏まえ、地域ごとに独自の機能要件を追加、③医師少数区域の支援機能を持つ地域医療支援病院の類型を設定すること-の3点をもとに論議が進められる。
【事務局のひとりごと】
〽 青くたそがれた頃
恋に気がついた夜
薬師丸ひろ子のヒット曲、「ステキな恋の忘れ方」の歌い出しだ。似たようなフレーズだったので思い出した。
〽 上手な医療のかかり方
上手に医療にかかるための5つのポイント(案)
〇病気やけがはまず#8000(子ども)や#7119(救急)へ電話を。
夜間や休日にお子さんの急な病気やけがで心配になったら、子ども医療電話相談(#8000)へ電話してください。救急受診が必要かどうかは、救急安心センター(#7119)で適切なアドバイスを受けられます。
〇医師と話すときは、自分の聞きたいことを紙に書きだして整理し、ためらわないで聞きましょう。
医師に全てを任せるのでなく、わからないことがあれば遠慮せず聞きましょう。医師は問題解決のために一緒に考えるパートナーです。
〇薬のことで質問があればまず薬剤師に相談しましょう。
忙しい医師に聞きにくいことでも、日頃の体調管理は看護師に、薬のことは薬剤師に聞くなど、それぞれの専門職の役割を知り、チーム医療のサポートを上手に受けましょう。
〇抗生物質は風邪には効きません。
薬には副作用があり、本当に必要なときに飲むものです。風邪で抗生物質をもらいに医療機関に行くことは控えましょう。薬は、沢山飲んだり不適切な使い方をすると副作用も起きやすくなります。
〇慢性の症状(数週間以上前からの同じ程度の症状)であれば日中にかかりつけ医を受診しましょう。
診療時間外の夜間や休日に受診しても、緊急性の高い疾患でなければ、短い診察時間で、1日分のお薬しかもらえませんし、全ての診療科の専門医がいるわけでもありません。自己負担も高くなります。
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膨張する社会保障給付費抑制には、一人ひとりの医療リテラシーを向上させることなくして達成はあり得ない。「上手な医療のかかり方」の検討会でまとめられつつある、それが先述の5つのポイント(案)である。小児救急・コンビニ受診や抗生物質の問題(AMR)など、社会問題化している項目が平易な言葉で訴えかけられている。地域医療が崩壊しないためにも、是非とも心がけたい内容だ。
筆者の住んでいる地方都市における、現在訪問診療を受けている患者は8,800人/日であるという。訪問診療のニーズとしては14,000人/日もあるという。カバー率に換算すると、62.8%だ。ところが、現在でも不足がちな訪問診療の体制であるが、これから10年もするとニーズは23,000人/日にも膨れ上がるという。あと10年後となると、筆者は還暦が近くなる。人生100年時代なので、まだまだ現役でいる必要があるのだろうが、もしも、訪問診療を必要とする身になったとしたらどうか?我が家に訪問してくれる医者をめぐって争奪戦が起きるのではないか(介護をしてくださる方も同様、いやそれ以上の奪い合いになるだろう)?
できればそのような身にならぬよう、日々の予防と健康維持と増進に努める必要性を感じる。
さて、今回はそんな訪問診療を含めた在宅医療や、地域のかかりつけ医を支援するための「地域医療支援病院」に関するテーマだ。
“「地域医療支援病院って何?」って何?”というタイトルを見出しにつけさせてもらったが、今頃そんな議論が出てくるというのは一体どうしたことか?本文をご覧いただけると、なかなか現場の実情にマッチしていない現状が見えてくる。1997年、今から約20年も前に定められた存在がこの状況であるので、今月号の別テーマ「オンライン診療」が普及しないというのはたかだか1年にも満たない中でも無理はないのかもしれない。先ほどの在宅療養後方支援病院となると、586の地域医療支援病院中、96病院・16.4%の届出なのだという。
コメントを紹介したい。
○厚労省:「在宅医療を提供する医療機関から緊急入院患者を受け入れる地域医療支援病院は限定的」
厚労省検討会で担当事務局は、在宅医療を提供する医療機関と連携して、希望する患者に対して緊急入院を受け入れている地域医療支援病院は限定的であると指摘している。
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在宅医療との連携は、なかなか進んでいないようだ。
一方で地域医療支援病院の届出を行っている医療機関はどう考えておられるのだろうか?
○地域医療支援病院の承認を受けた市立病院長:「患者の囲い込みを禁じる方針を進めている」
公立の地域医療支援病院は、患者の囲い込みをしているという批判を聞く。当院の紹介率は、初診患者数のうち、診療所や他病院から紹介された割合が50%、同病院から診療所や他病院への紹介も70%をそれぞれ超えた。医師グループが開業医を定期的に訪問し、信頼関係を深めてきた。患者の囲い込みを禁じる方針を進め、紹介を受けた患者は必ず返していくということを徹底している。
○地域医療支援病院の承認を受けた民間病院事務長:「300床の病院で約750万円の増収となり、経営メリットが大きい」
地域医療支援病院には、地域医療支援病院入院加算(1000点)が1人につき入院初日に1回加算できることから、300床の民間病院である当院では、平均在院日数を12日とすると今までと同じ診療行為を行っても、約750万円の増収となり(年間9000万円)、民間病院にとって経営上メリットが大きい。
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このコメントだけを見れば上手くいっているようにも見える。
では、連携先である医療機関のコメントはどうか?
○診療所長:「地域医療支援病院は逆紹介をしてくれない」
地域医療支援病院の役割に「紹介患者に対する医療の提供」があり、承認要件に「① 紹介率80%を上回っていること②紹介率が65%を超え、かつ、逆紹介率が40%を超えること③紹介率が50%を超え、かつ、逆紹介率が70%を超えること」があるが、実際は、当院がある地域医療支援病院の市民病院では、患者を紹介してもなかなか患者を戻して(逆紹介)くれない。
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こちらも一事象であるのだろうが、そういう現実もあるのだろう。もしかすると“自治体病院”というところに大きな要因がある可能性もある。
地域医療支援病院認証を目指す医療機関からのコメントを紹介したい。
○「医療スタッフの確保を目的に地域医療支援病院の承認を目指す」
地域医療支援病院の承認を受けることは、地域の中核病院として位置づけされるくらいの規模と設備、診療科や部署の幅が広くたくさんのスタッフが従事する病院と評価される。当院は、スタッフ確保の上で地域医療支援病院の承認を受けることはメリットが大きいと判断し、承認を目指している。
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医療機関の経営において、病床稼働率(≠病床利用率)、紹介率、逆紹介率などの数値は重要な指標である。地域医療支援病院の承認を受けるには、特に紹介率と逆紹介率が重要で、逆紹介率は最低でも40%以上が求められる。但し、40%程度だと、先の、「逆紹介してくれない」というコメントにつながる可能性が大きいと考えられる(【図-2】地域医療支援病院制度の概要 参照)。
看護師からのコメントを紹介したい。
○「地域医療支援病院の機能に、地域の医療機関や訪問看護ステーションへの看護師派遣を」
地域医療支援病院において看護師が果たす役割が十分に示されていない。地域医療支援病院に求められる機能に、「地域医療機関や訪問看護ステーションなどへの看護師派遣」を位置づけて欲しい。
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在宅医療の担い手として大きな役割をもつ訪問看護の立場からの要望だ。日看協の後押しにつながっていく意見となるかが課題だ。
算定を目指そうという医療機関がある一方で、この議論が再開されたもう一つの背景、「あり方」の見直しにつながるコメントも紹介したい。
○日医副会長:「地域医療支援病院は一定の役割を終えた」
厚労省検討会の議論で、地域医療支援病院の4つの機能要件を全て満さないものの、一定の役割を果たしている病院が少なくないことを踏まえ、中川俊男日本医師会副会長は、「地域医療支援病院は一定の役割を終えたと感じている。診療報酬ともリンクさせた議論をしていく必要がある」と提案した。
○日病会長:「地域医療の課題は、病病連携。根本的に地域医療支援のあり方を検討する必要」
同じく検討会の議論で相澤孝夫日本病院会長は、「地域では、従来は病診連携(病院とかかりつけ医との連携)が重要な課題であったことから、地域医療支援病院は比較的大規模なものと考えられた。しかし、病院の機能分化・連携が進む中で、地域医療の課題は、病病連携(急性期病院と回復期・慢性期病院との連携)や高齢者への医療提供にシフトしてきている。これを踏まえて、抜本的に地域医療支援病院のあり方を検討する必要がある」などと指摘した。
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誕生から20年。当初想定していた未来像と、現在の実際に果たしてどれだけのギャップがあったか。仮にギャップがあれば見直しの議論につながっていくのも当然か。
今年もあっという間に年末を迎えることとなった(あっという間かどうかは、個々人の感覚に違いがあるので何ともいえないが)。来年もワタキューメディカルニュースのご愛読をお願いしつつ、今年最後の更新を終了したい。
薬師丸ひろ子は、件の歌で最後に締めくくる。
〽 今はなにもかも忘れるように眠らせて
眠らせて
“眠ること”はステキな忘れ方なのだそうだ。“上手な医療のかかり方”はくれぐれもお忘れなきよう・・・。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
(※4)・・・ステキな恋の忘れ方(歌:薬師丸ひろ子 作詞/作曲 井上陽水)
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