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No.667 2020年度改定で地域包括ケア病棟の要件を見直し 200床以上病院の地ケア病棟は自院の一般病棟からの転棟に上限設定
2020年01月15日
■2020年度改定で地域包括ケア病棟入院料の要件を見直し
2020年度診療報酬改定の入院料を巡る論議の焦点の一つが、2014年度診療報酬改定で創設された地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の要件見直しである。
中医協の論議では、「地域包括ケア病棟が3つの役割(図1参照)をバランスよく担うことは重要」「特に規模の大きな医療機関については、自院の一般病床からの転棟に一定の制限を設けることは妥当ではないか」「自宅等からの患者の受け入れは実態を踏まえて基準を引き上げるべきではないか」「病院からの訪問看護や同一敷地内の訪問看護ステーションの要件は満たすことが難しい」「約3割の患者にリハビリテーションを実施していないことは必ずしも不適切ではないが、ADLの評価結果に基づき必要性を判断し、結果を患者に丁寧に説明することは必要」「入退院支援部門の設置は、特に規模の小さい医療機関は人員要件を満たすことが難しいため配慮が必要。一方で、本来は部門の設置のみならず、入退院支援のプロセスの実施を求めていくべきではないか」などの意見が出された。
これを受け、2020年度改定では、①200床以上病院の地域包括ケア病棟について「自院の一般病棟(急性期病棟)から受け入れ患者」は一定の制限を設ける、②200床未満病院の地域包括ケア病棟について、sub-acute受け入れ実績の評価指標を見直す、③400床以上の病床規模の大きな病院が地域包括ケア病棟を設置する場合、「1病棟のみ設置」要件の上に、「地域医療構想調整会議に意見を求める」要件を追加する、④DPC病棟からの転棟患者ではDPC点数を期間Ⅱ(平均在院日数)まで算定する-といった方向で見直しが行われることになった。
■厚労省調査で大規模病院の地域包括ケア病棟、自院のpost-acute患者受け入れに偏りが
地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料は、(1)急性期治療を経過した患者の受け入れ(いわゆるpost-acute)機能、(2)在宅等で療養を行っている患者等の受け入れ(3)在宅復帰支援-の3つの医療機能を併せ持つ病棟・病室を評価する特定入院料として2014年度診療報酬改定で創設された(図1 地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の見直し~地域包括ケア病棟の役割)。
しかし、大規模病院の地域包括ケア病棟は、地域包括ケア病棟の役割(1)のpost-acute機能に偏りすぎているとの批判がある。厚労省が行った調査でも、①63.8%の病院で自院の急性期病棟からの転棟先として利用している、②地域包括ケア病棟入棟患者の100%が「自院の急性期病棟からの転棟患者」という病棟が相当程度あることが明らかになっている(図2 地域包括ケア病棟・病室の利用に係る趣旨)(図3 入棟前の場所が一般病床の患者の占める割合)
また、400床以上の大規模病院では、地域包括ケア病棟は1病棟のみ設置可能という制限が設けられている。これは、「急性期一般1(旧7対1)の重症患者割合(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合。看護必要度では30%以上)を満たすために、一部の病棟を地域包括ケア病棟に転換し、看護必要度を満たさなくなった患者をそちらに転棟させる」という動きが過度に行わないよう設けられた制限である。
この制限を加えた上に、特に400床以上の大規模病院が地域包括ケア病棟を設置する場合には、「地域医療構想調整会議に意見を求める」ことを要件とすることを検討する。地域医療機関の機能分化や統合再編などを議論する地域医療構想調整会議で、「急性期病棟から地域包括ケア病棟への転棟」も機能分化に関する議論に供されることになる。
さらに、「地域包括ケア病棟の役割(1)のpost-acuteに偏りすぎる大規模病院」を助長していると指摘される仕組みの「一般病棟(DPC病棟)から地域包括ケア病棟への転棟」ルールについて、DPCの期間Ⅱ(診断群分類ごとの平均在院日数)まで「DPC点数を継続算定する」という仕組みの導入を検討する。
これは、①「DPC点数<地域包括ケア病棟入院医療管理料」となった時点で、「DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟が集中」している一方で、②「DPC点数>地域包括ケア病棟入院医療管理料」となっている診断群分類では、こうした集中が見られず「平均在院日数の時点での転棟」が多くなっていることが明らかになっている(図4 DPC対象病院からの転棟について)。点数の高低のみに着目し、「自院の急性期病棟(DPC病棟)に入院していた患者を地域包括ケア病棟で受け入れる」ことを促進していると指摘を受けた改正と言える。
■実態に即した地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の見直し
200床未満の地域包括ケア病棟のうち、地域包括ケア病棟の役割(2)のsub-acute機能実績が高い病棟では、点数の高い「地域包括ケア病棟入院料1・3」を取得できる。厚労省の調査では、「自宅等からの入院患者・緊急入院受け入れは基準値をはるかに超える実績を持つ病院が多い」「在宅医療等の提供については、実現が極めて難しい項目がある一方で、容易にクリアできる項目もある」ことなどが明らかになった。そこで、地域包括ケアに係る実績等要件の内容(項目や基準値)を実態に合わせて見直すことになった(図5 地域包括ケアに係る実績について)。
地域包括ケアシステムの実現を目指し2014年度診療報酬改定で創設された地域包括ケア病棟。その後の改定でも、地域包括ケア病棟の促進を踏まえた点数改定が行われてきたが、2020年度診療報酬改定ではより実態に即したメリハリのついた改定が行われる。
【事務局のひとりごと】
読者諸氏におかれては、令和に改元されてから2年目、オリンピックイヤーでもある2020年の輝かしい新年をどのように迎えられただろうか。長期故に業務の都合で年末年始も何日か仕事をされた方もおられることだろう。ひとえに感謝申し上げたい。
診療報酬の改定率も、薬価はともかくとして、本体部分のプラスと、医師の働き方改革部分へのプラスと、「人への投資」が行われようとするメッセージが報道され、医療関係者におかれてはひとまず、ほっと胸をなでおろす年末年始となったのではなかろうか。
働き方改革の波で コンビニエンスストアが元日休業 などといった報道や、日の巡りの関係で長期間だったこともあり、普段とは趣の異なる気分を感じはしたのだが、そうはいっても季節感があまり感じられないお正月、我が家では子ども相手に双六に明け暮れた。よくもまあ、あれだけ“振出しに戻る”や“1回休み”がたくさんあるのを選んだものだ。30分経っても振出しから次のブロックに進めない。子どもたちはそれだけでケラケラ笑って楽しいのだろうが、大人の筆者としては、ただのサイコロ運だけのゲーム展開では今一つ面白くない。同じボードゲームにしても、モノポリーとか、かなり譲って人生ゲームとか、もっと戦略性のある方が楽しいはずだ。ただの運ゲームならば、坊主めくりの方がよほど楽しいではないか。
そういった勝負事となると、必ず子どもたちの誰かが、負けだした途端に唇を尖らせて、「やっぱり嫌やったんや」、「(勝ちそうな方に対し)ずるい!!」、「もう1回最初からやり直そう」、など、身もふたもないことをいう。そういった子どもの心情の機微や性格を知るのも、普段あまり一緒にいることができないので楽しいものではあるのだが…。そこで今回のテーマ、地域包括ケア病棟の要件見直しである。
地域包括ケア病棟・病床数は、株式会社日本アルトマーク社によるデータ、2019年6月時点までの算定病院数と、これまでWMNで調べてきたデータによると、以下のようになる。
2014年:2015年:2018年:2019年
920施設:1,170施設:2,309施設:2,424施設
24,600床:31,700床:79,179床:84,813床
着実に増えてきているのは御覧の通りだ。
どの医療機関も、生き残りをかけて、同じ労力でも少しでも収入を増やそうとするのは、不正でなければ、医業経営とは医療行為であると同時に経営でもあるのだから、それはある意味自然な行為なのではないだろうか。
“地域包括ケア病棟入院医療管理料”にしても間違いなくDPC/PDPSによる報酬と転棟先での報酬との比較を意識するはずだし、そう考えてメリットがあるからこそ病床転換を行う医療機関が出てくるわけだ。もともと数が多いとされる一般病棟を地域包括ケア病棟に誘導し、その数を減らそうとする意志も働きながらの、おのずとそう仕向けようとする点数設定になっていたのだろうと筆者は認識している。地域包括ケア病棟が登場した際、厚労省による説明では、一般急性期医療から在宅復帰を支援する医療に至るまで、地域包括ケア病棟は報酬的にもマルメで安定しており、地域にとって非常に使い勝手のよい病棟だとして謳われていたのではないかと記憶している。
2回の診療報酬改定を経て、時とともに要件の見直し論が出てくるのも、重症度・看護必要度同様、当然といえば当然だが、「もう一度ゼロからやり直し」の議論にならないのは、我が子たちの双六と違い、大人の対応だ。というか、むしろそれ故に、議論は困難を極めるとも言えるのではないか。
コメントを紹介したい。
○保険局医療課長:「地域包括ケア病棟の3機能をバランスよく果たすような診療報酬改定を」
中医協の論議の中で保険局の森光医療課長は、地域包括ケア病棟の3つの機能(急性期を経過した患者の受け入れ/在宅で療養を行っている患者等の受け入れ/在宅復帰支援)をバランスよく果たしてもらうため、①「入棟元が自院の一般病床」の患者割合が特に高い地域包括ケア病棟への対応、②DPC病棟から地域包括ケア病棟へ転棟した場合の取り扱い-の2点について中医協に検討を要請した。①の「入棟元が自院の一般病床」の患者割合が特に高い地域包括ケア病棟については、ペナルティを設ける(低い点数を設定するなど)が考えられる。
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「入棟元が自院の一般病床」(①)ばかりの患者で病棟を埋めようとするのは、“ペナルティ”と称されている以上、我が子流に言えば、これは“ずるい”ということになるのだろうか。
地域包括ケア病棟を持つ病院からのコメントを紹介したい。
○「地ケア病棟は、ときどき入院ほぼ在宅の要。地域包括ケアシステム構築と地域医療構想の整合性を図る要の病棟」
2019年4月に一般社団法人化した地域包括ケア病棟協会会長の仲井培雄・芳珠記念病院理事長は、地域包括ケア病棟の役割について、「ときどき入院ほぼ在宅の要、地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の策定の両制度の整合性を図る要の病棟として、理想の2025年の医療提供体制構築に向けて貢献したい」と述べている。
○「7対1というお金のかかる病棟から地ケア病棟に移すことは意義があることではないか」
中医協・入院医療等の調査・評価分科会の論議の中で、支払側委員が「自院の(急性期)病棟からの転棟先として利用するのは、この病棟を置いた趣旨からすると、いかがなものか」と疑問を呈したのに対して、牧野憲一・旭川赤十字病院院長は、「自院の急性期病棟からの転棟先としての利用が本当に悪いのか。7対1という大変お金(診療報酬)のかかる病棟から、そうでない所(地域包括ケア病棟)に移すことは意義があることではないか」と反論した。
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牧野院長の仰りたいことはその通り、とも言えないこともない。「DPC点数>地域包括ケア病棟入院医療管理料」の時にそれをやっておられるのであれば、「ルールでダメとされていないのに悪いことなのか?」という、そんなお考えが思いとしておありなのではないだろうか。
今度はこんなコメントだ。
○「急性期至上主義から抜けきれず、地ケア病棟への転換は困難」
急性期病院間の競争が激化している地域の民間病院長。経営的観点から地域包括ケア病棟への転換をしなければならない。しかし、「地域包括ケア病棟への転換は、急性期病院からの撤退」「当院は急性期だという急性期至上主義」が職員に染みついている。転換したら、急性期志向の医師や看護師は辞めたいとまで言っている。
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「急性期医療」。現在の医療の中で、技術的にも点数的にも最も高い、とされているはずの医療だが、“絵に描いたような患者”で全てのベッドが埋まっている病院など、一体どれだけあるというのだ?“超高齢社会”と言われている以上、実際の患者像としてよくあるのは、イメージとしての急性期患者ではない患者がたくさんいる社会なのではないだろうか?“絵に描いたような患者”と書いたが、急性期を目指す医療人の「絵」と「現実」のギャップこそが「急性期至上主義」のままでは立ち行かなくなる病院が多くなる背景にあるのではないか。
ここで医業経営コンサルタントからのコメントを紹介したい。
○「病院が本来の地ケア病棟の役割を打ち出していくとともに、急性期部分の診療報酬の見直しも必要」
病院によっては、自院で急性期を終えた患者のポストアキュートを地域包括ケア病棟の主体にせざるを得ず、回復期リハビリ病棟と同等の機能になっている。もともと地域包括ケア病棟には、『病院完結から地域完結へ』という狙いがあるが、結果として連携が減り、病院完結型の医療になりかねない。病院側が本来の地域包括ケア病棟の役割をもっと積極的に打ち出していくと同時に、急性期部分の診療報酬の見直しも必要である。
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確かに、現在の地域包括ケア病棟をめぐる議論は「地域完結」という本来の狙いからは程遠くなってしまった感がある。
今後、意見を求める先となるであろう、地域医療構想調整会議のメンバーからのコメントもいただいた。
○「公的病院の地域包括ケア病棟の設置により、患者の囲い込みが進む」
地域医療構想調整会議のメンバーで日本海側のある県の民間病院長。当県で地域包括ケア病棟の設置に一番先に手をあげたのが、済生会病院である。気になるのが、済生会病院の地域包括ケア病棟設置によって、「患者の囲い込み」が進んでいることである。済生会病院のように、地域包括ケア病棟の3機能(急性期医療を経過した患者の受け入れ/在宅で療養を行っている患者等の受け入れ/在宅復帰支援)を効率的に展開できるスタッフを抱えることができる大病院の地域包括ケア病棟は“最強の地ケア病棟”となる。大病院の地域包括ケア病棟の設置に当たっては、調整会議の意見を聴くことは絶対必要だ。
○「高齢や長期入院が予想されるなどの理由で、在宅復帰率が問われる地ケア病棟では受入れを断るケースが多々ある」
東京都区西南部医療圏(目黒区、世田谷区、渋谷区)の地域医療構想調整会議での地域包括ケア病棟を巡る議論の一部から。「救急患者や急変した在宅患者は、高齢や長期入院が予想されるなどの理由で、在宅復帰率が問われる地域包括ケア病棟では受入れを断るケースが多々ある。サブアキュートで運用する場合は患者を選ばないと在宅復帰率が維持できないため、受入れの増は容易ではない」。
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「地域完結」から「病院完結」へというのでは、地域医療連携を推進してきた厚労省としてはたまらないのだろう。
医師はどうお考えだろうか。
○「診療科別病棟編成の病院では医師の回診が大変」
地域包括ケア病棟で診療している勤務医。今は慣れてきたが、当院のような診療科別病棟編成の病院では医師の回診が大変である。入職時に、地域包括ケア病棟が当院に必要なのか我々医師にきちんと説明して欲しかった。
○「かかりつけ医の高齢患者の紹介先は、“ほぼ在宅、時々入院”の地域の地ケア病棟」
かかりつけ医が診ている高齢者が肺炎や栄養不良などで入院加療が必要になった時、地域の開業医はどこに紹介すればいいのだろうか。まず、設備の整った高度急性期病院を考えるが、よほど普段から連携関係を構築していないと直ぐに入院は難しいのが現実ではないか。また、DPC病院では高齢者の入院を嫌がるところもある。「ほぼ在宅、時々入院」の入院先とは、救急対応やレスパイトケアや緩和ケアに対応してくれる地域の地域包括ケア病棟であると思う。
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地域にとって“使い勝手の良い病棟”というのは、連携を意識しているのであれば間違いではないということか。
看護師はどうだろうか。
○「地ケア病棟は多診療科患者の混合病棟。内科系看護しか行ってこなかった看護師には外科系看護は不安」
地域包括ケア病棟は多くの診療科の患者が入院する混合病棟になり、ポストアキュート(急性期後)機能では転棟患者が多くなる。今まで内科系患者の看護キャリアしかない看護師には、外科系患者の看護経験が少なく不安である。
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医師だけでなく、看護師も専門化してきているわけだ。そういった専門性(自分の得意分野と考えている分野)だけでなく、幅広い知識と経験が、これからの時代は多く求められることになるのか。医療技術の向上(専門性)と時代とのギャップである。
最後はこんなコメントで締めくくりたい。
○「いきなりの地域包括ケア病棟への転棟で戸惑った」
病院の都合でいきなり、地域包括ケア病棟というどのような治療をしてくれる病棟なのか分からず、転棟され、戸惑った。本来、入院時に急性期症状を脱して症状が落ち着いたら転棟があることを十分に説明(インフォームドコンセント)して欲しかった。
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“医療”と“介護”の垣根を意識させないために、他のケアも含めて「地域包括ケア」という名称が誕生したわけだが、確かに“医療”や“介護”を意識させないことには成功したように見える。しかし今度は漠然としすぎて何を言いたいのかも分からなくなっているのかもしれない。
“患者の視点”が言われて久しいが、名称や議論は、専門家が多くて“患者の視点”が欠如してしまっているのではないだろうか。
これから徐々に短冊(個別具体的なルール)が明らかになる、3月中旬の答申まで目が離せない、重要なテーマの一つだろう。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
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