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No.690 厚労省、後期高齢者の医療費2割負担対象の “所得線引き”5案を提示
2020年12月15日
■年収155万円~240万円5つの所得基準を仮定に「2割負担を導入する所得ライン」を検討
厚生労働省は11月19日開かれた社会保障審議会医療保険部会で、75歳以上後期高齢者の自己2割負担について、「機械的な選択肢」として「介護保険の2割負担の対象者と同等」など、対象を規定する本人年収155万円以上から年収240万円以上まで5つの所得基準(図3 所得基準として考えられる機械的な選択肢)と、急激な負担増を抑制するための2025年までの経過措置として、「長期にわたる外来受診について急激な負担増を抑制するため、2割負担となる者の外来受診の負担増加額について、最大の場合(月9000円)の半分である4500円までにする」配慮措置を提示した(図4 配慮措置の考え方(案)②)
厚労省は、今回示した5つの所得基準のうち、(1)の「上位20%の人」(約200万人)に自己負担2割を導入した場合には、61%にあたる122万人で「自己負担が2倍」となり、32%にあたる64万人で「自己負担が2倍未満に増加する」と試算。また(5)の「住民税負担能力ありと認められる人」(約605万人)に自己負担2割を導入した場合には、61%にあたる369万人で「自己負担が2倍」となり、32%にあたる1944万人で「自己負担が2倍未満に増加する」、などと試算している。厚労省をはじめ政府は5つの所得基準を仮定に置き、影響の度合いを試算して今後、この試算結果を踏まえて「2割負担を導入する所得ライン」を検討していくことになりそうだ。
同省では、5案から一つを選ぶことが決まっているのではなく、あくまで「機械的な選択肢だ」と強調。これに対し、部会委員からは、原則2割負担の早急な実施を求める意見、年金生活者にとって医療費は大きな支出であり反対、新型コロナ後の課題と問題の先送りを求める意見など、2割負担対象の“線引き”5案に議論が百出している。
■後期高齢者は若人世帯に比べて自己負担・保険料の負担割合が小さいというデータ
75歳以上の後期高齢者では、医療機関等の窓口負担割合が原則1割(現役並みの所得がある場合には3割)となっている。ただし、世代別の実効負担率を見ると、後期高齢者(75歳以上)では若人(75歳未満)に比べて小さいことから「75歳以上の後期高齢者でも、所得が一定程度ある場合には2割負担を求めてはどうか」との議論が出ている。既に、首相が議長を務める「全世代型社会保障検討会議」が2019年12月19日の中間報告で、「遅くとも2022年度までに75歳以上後期高齢者の窓口負担を2割に引き上げる」方針を明らかにしている。
その際、後期高齢者の所得分布を把握し、「どの程度の所得の人に2割負担を導入すると、どの程度の影響が出るのか」が焦点となった。このため、厚労省は今年2月27日の社保審医療保険部会に、後期高齢者では若人世帯に比べて自己負担・保険料の負担割合が小さいことを示す資料を提出していた(図5 年齢階級別1人当たり医療費、自己負担額及び保険料の比較(年額))。さらに厚労省は、今回の医療保険部会に2割負担対象の“線引き”5案を示した。
後期高齢者の2割負担が議論となっている背景には、わが国人口の大きなシェアを占める「団塊の世代」が2022年から75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年にはすべて後期高齢者になる。そこから2040年度にかけて、高齢者人口そのものは大きく変わらないが、高齢者を支える現役世代の人口が急激に減少する。このため、今後、医療保険財政が極めて脆弱となることから、後期高齢者の2割負担は喫緊の課題となっている。
【事務局のひとりごと】
今月号のもう一つのテーマ、大病院の初診時定額負担の議論と負けず劣らず、なかなか議論の終着点が見えないのが、今テーマ、後期高齢者医療費2割負担所得線引きである。
負担増の議論は非常に進まない。【図‐3】所得基準として考える機械的な選択肢 をよく見ると、どの層も基本的には年金収入がどのグレードか、ということだけでクラス分けされている。機械的な仮定の話だからそうなのだろう。ただ、今さら引っ張り出すのは気が引けるが、「一億総活躍社会」ではなかったのか。働ける方は最期まで「働け」ということではなかったか。働くなら収入は年金だけではないだろう。といっても2025年の75歳以上の高齢者(現在70歳の方)が、現役世代と同様の働き方をなさるとも思えないし…様々な思いがよぎる。
今テーマの編集にあたり、編集協力をお願いしているヘルスケアNOW様に、年収別で パートタイマー、年収150万円以上、200万円台、300万円台、400万円台、500万円台 など、患者のコメントが取れると非常にありがたいので何とかなりませんか?と打診したのだが、当然のことながら「他人の年収は分からない。年収別のコメント取りについては無理。」とのご回答をいただいた。
2割負担対象の線引き5案に「議論百出」なのだろうが、いったい、世間の本音とは、真実とは何なのか?非常に考えさせられる。
コメントを紹介したい。
〇厚生労働大臣:しっかりと負担できるような階層にお願いをしていくことが重要なポイント
12月4日の閣議後記者会見で田村憲久厚生労働大臣は、「若い人の保険料が上がっている状況の中で、上がり方を何とか抑えていかなければならない。負担能力に応じて、しっかりと負担できるような階層にお願いをしていくことが重要なポイントだ」と述べた。
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もう一つのテーマ同様、高齢者層VS若年齢層の様相を呈している。「ストックとフロー」とよく言われるが、この議論は「フロー」にのみ焦点が絞られがちだ。若い人の蓄え、高齢者の蓄え、若い人の収入と支出、高齢者の収入と支出、いろいろな視点が必要だろう。なのに議論は機械的な収入と目される「年金収入」だけで行われている。今号が更新されている15日には、与党内でも調整がついているのだろうか。年収240万円以上の人(公明党)の選択肢は影響最小限で200万人が対象、年収170万円以上の人(自民党)は、520万人が対象でその2.5倍とされている。この数字って、ある程度の根拠はあるとは思うが、「フロー」にばかり目がいってしまい、本当に事実に基づいた議論になっているのか?それが筆者の疑問である。
エコノミストからのコメントを紹介したい。
〇エコノミスト:所得水準だけでなく資産額の基準も考慮すべき
確かに高齢者に支払い能力に応じて負担増加を求めていくことは、ますます重要となる。ただしその際に、所得基準だけでなく、資産額の基準も考慮に入れていくことが必要となるのではないか。所得基準だけでは、高齢者の支払い能力から大きく乖離していることも少なくないだろう。
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そうそう。筆者はそれが言いたかった。
医療提供側からのコメントを紹介したい。
【医師】
〇日医会長:さらなる受診控えを生じさせかねない施策
政府は11月24日、全世代型社会保障検討会議を開き、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる所得基準などを巡って、日本医師会、四病院団体協議会、健康保険組合連合会などからヒアリングを実施した。日医の中川俊男会長は「後期高齢者は一人当たりの医療費が高いので、年収に対する自己負担割合は高い。感染症で受診控えが懸念される中、さらなる受診控えを生じさせかねない施策を取って追い打ちをかけるべきではない」と2割負担の対象拡大をけん制した。
〇開業医:受付外来の窓口が混乱する。外来診療については75歳以上一律1割でよい
受付外来の窓口が混乱する。少なくとも外来診療については75歳以上一律1割でよい。コロナの影響などで後期高齢者の外来受診回数が激減しており、所得によらず外来窓口負担を1割としたところで問題なし。
〇勤務医:生活保護や1割負担(高齢者)で使える薬の種類や量に一定の制限をかけても良い
海外のように、負担なし(生活保護)や1割負担(高齢者)で使える薬の種類や量に一定の制限をかけても良いと思う。必要以上に使う人や適切に管理できない人には悪いが負担をしてもらわないと社会が回らないし必要な人に薬が届けられなくなる。生活保護、公費利用者の場合後発品の拒否が多いし、外用剤の種類、量も多いケースも多い。自己負担がないと「タダ」感覚になるので負担は必要。
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小売店等でレジ袋が有料化された後、読者諸氏の行動はどのように変容されただろうか。ちなみに小職は、ルール変更後は、2枚(3円×2 →6円)のみ買った。あとはつねに持ち歩いている、くたくたのポリ袋を使うか、商品を手に持ち歩く。お金が惜しいのではない。小さなポリ袋は、確かに持ち歩き時は必要だが、いったん持ち場についたとたん無用の長物となり、あとは取っておくか捨てるか だ。そうなることが馬鹿らしいので「袋は要りません」と言ってしまっている。
後ろの人からの冷たい視線を浴びながら、手袋を外して財布からポイントカードを出し、支払いはスマホを出して〇〇Pay、手持ちのレジ袋を出し、商品を入れる間もなく支払い完了、するとレシートが来るのでそれを財布に。ポイントカードも財布に。財布を内ポケットに入れ、そこからもらった割り箸をポケットに入れ、商品は手に持つ。両手がふさがってとても不便だ。どうしても もたもたせざるを得ない。明らかに昔よりレジでの遣り取りの一人当たり時間は増えている筈である。これまで資源の再利用によって作られていたポリ袋は、需要が激減した筈だ。その事業者にとっては、大打撃の一年だっだことだろう。
横道にそれたが、「タダ」感覚で資源を無駄遣いしてしまいがちなのは、一般社会でも、医療でも同様だと感じる。ポリ袋一つでこれだけ社会は変容するのだから、自己負担割合が増えたら、ポリ袋同様に、「(医療は)要りません」となってしまうのだろうか。
看護師からはこんなコメントだ。
〇日看協会長:2040年に向け療養環境の整備、ナースプラクティショナー仮称制度の創設を
11月9日開かれた自民党の人生100年時代戦略本部の今後の医療制度改革に関する医療団体に対するヒアリングで、日本看護協会の福井トシ子会長は、「これからの医療提供体制では、疾病予防や重症化予防の推進が重要になる。地域における看護活動として、疾病予防や重症化予防を推進するため、2040年に向かって療養環境の整備を行うための検討の場を設置していただきたい。特にナースプラクティショナー仮称制度の創設について、議論を早急に開始していただきたい」と述べた。
〇高齢者は「とりあえず」が多く。医療費増加の一因では
高齢者のお世話をして感じるのは、「とりあえず」が多く。医療費増加の一因となっていると思う。「とりあえずの受診」「とりあえずの湿布」「とりあえずの痛み止め」「とりあえずの睡眠薬」など。「とりあえず」受診や処方を減らすことが大切だと思う。
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負担増となれば、受診抑制、そこから「予防」の考え方につながるわけだ。そしてナースプラクティショナー、この議論は本格化するのだろうか。別の機会があればテーマとして取り上げてみたい。
議論の渦中にいらっしゃる団塊の世代からのコメントを紹介したい。
〇「団塊の世代をターゲットとした嫌な制度改革。経済成長を牽引した世代にリスペクトを」
2割負担は、一斉に後期高齢者となる我々、団塊の世代をターゲットとした嫌な制度改革だ。団塊の世代は、良くも悪くも、日本の経済成長を牽引した世代であり、リスペクトして欲しい。
〇「2割負担で、我々団塊の世代の高齢者の自殺は増える」
厚労省の調査によると、自殺者の約4割は高齢者。2割負担など老後の経済的負担は増大し、我々団塊の世代の高齢者の自殺は増えると思う。「団塊の世代」から「自殺者の団塊の世代」になることを危惧している。
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いや、まさに高度成長を遂げた我が国の最大の功労者の年代でいらっしゃいます。そこに感謝していることは、間違いありません(間違いないはずです)。リスペクトは忘れておりません。
患者からのコメントを年代別にいただいた。
〇現役サラリーマン:「タンス貯金が数兆円ある日本。お金を持っていて、医療機関の受診が多い高齢者からもっと医療費を取るべき」
40代の現役サラリーマン。高齢化社会がさらに進み、またタンス貯金が数兆円ある日本では、賃金が少なく医療機関の受診が多くない若者から取るよりも、お金を持っていて、医療機関の受診が多い高齢者からもっと医療費を取るべきだと思う。
〇定年迎えた高齢者:「医療保険料を累進課税のようにするのは明らかにおかしい」
65歳で定年を迎えた年金生活者。医療保険料を累進課税のようにするのは明らかにおかしい。最も公平なのは喫煙者や肥満者の保険料を高くするリスクに応じた保険料である。少なくとも所得で保険料を決めるべきではない。
〇80歳台で複数の医療機関に受診:「負担が倍になると、どこかを削らないといけない」
1割負担だから、あちこち悪いところ、内科、外科、整形外科いろいろ行けるが、それが倍になったら、どこかを削らないといけない。年金だけで暮らしているので、とても痛い。
〇後期高齢者:「長生きをしたいのも、自己負担があってしかるべき」
75歳の後期高齢者。超高齢社会に突入した今、85歳以上は、窓口負担は3割にしても良いと思う。長生きをしたいのも、自己負担があってしかるべき。
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高齢者層VS若年齢層の様相 と何度か書いてきたが、そのようでもあるし、必ずしもそうでもない。百人百様なのだと思う。であるので、機械的な選択肢 で議論するのは如何か。それを政治が本気になって議論し、意見を闘わせ、その結果紙面をにぎわせる。確かにそうなのだろうが、モデルケース というのは架空の存在ではないかなあ、「あるべき論」や「〇〇だろう」という一般論だけでは、我が国の諸問題を解決するには至らないのではないか?ここのところ、筆者はそれを非常に感じている。
2020年もあと半月ほどを残す年の瀬となった。今年を振り返ってみてもあまり良い想い出は浮かんでこない、そんな方が多かった一年ではなかったか。今年は台風による天災は、思いのほか少なかったように思えるが、なんといっても「コロナ禍」に尽きる。
12月14日 14:00に(例年は12月12日)、京都は清水寺で「今年の漢字」が発表される。筆者がこの号を編集している10日時点で予想してみた。結果によっては全く意味のないひとりごとになってしまっている可能性があるが、それは、まあ、ひとりごとなのでご寛恕いただきたい。
「禍」…コロナ禍にちなんで。
「鬼」…大人気アニメにちなんで。
「密」…これを避けることが肝要。
「巣」…巣ごもり消費は上向き。
「給」…多くの給付金で物議をかもした。予想はされていたが犯罪も。
本当は「輪」「和」など、東京オリンピックにちなんだ漢字であって欲しかったが、昨年末から一気に世界の様相が変わってしまった。これまでにないスピード感でワクチンが開発され、欧州ではすでに接種が始まった。世界中で抗体をつけた人々による社会は、コロナ禍前の状態に戻るのか、はたまた、ステージが変わった世界となるのか。
おそらく、とても静かな年の瀬に、迫りくる新年が人類にとってよい年になることを願って締めくくりとしたい。一年間ありがとうございました。
今月号編集校了後、与党内で今テーマに関して合意の動きがあったので付記したい。
結局、『2割負担の線引きとなる年収は、年間200万円』になった。75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる制度改革に関して、菅義偉首相と公明党の山口那津男代表のトップ会談が12月9日行われ、年間200万円以上とすることで大筋合意した。約370万人が対象となり、政府は制度改革を盛り込んだ最終報告を全世代型社会保障検討会議でまとめ、閣議決定する。
<ヘルスケアNow>
<ワタキューメディカルニュース事務局>
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