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No.714 2022年度診療報酬改定で「ヤングケアラー」支援で報酬加算、中医協で厚労省が提案
2021年12月15日
◇「2022年度診療報酬改定で「ヤングケアラー」支援で報酬加算、中医協で厚労省が提案」から読みとれるもの
・現行の「入退院支援加算」を拡充して、診療報酬を加算
・中学2年生の5.7%、高校2年生の4.1%が「世話をしている家族がいる」と回答
・政府2022年度予算、ヤングケアラー支援で新規施策
■現行の「入退院支援加算」拡充、病院がヤングケアラーの支援した場合に加算
2022年度診療報酬改定を議論している中医協は11月12日開いた総会で、病気や障害のある家族を世話する18歳未満の「ヤングケアラー」を巡り病院が福祉や介護、教育機関と連携して支援につなげた場合、現行の「入退院支援加算」を拡充して、診療報酬を加算することを厚労省が提案した。
現行診療報酬には、入院患者の退院後の生活環境を整えるため、病院が地域の福祉機関などと連携して支援に取り組んだ場合に、病院の診療報酬を加算する仕組みがある(図2 入退院支援の評価(イメージ))。
入退院支援の対象となる患者は、「悪性腫瘍、認知症又は誤嚥性肺炎等の急性呼吸器感染症のいずれか」「緊急入院」「要介護認定が未申請」「虐待を受けている又はその疑いがある」「生活困窮者」「入院前に比べADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要」「排泄に介助を要する」「同居者の有無に関わらず、必要な養育又は介護を十分に提供できる状況にない」「退院後に医療処置が必要」「入退院を繰り返している」。このうち、「虐待を受けている又はその疑いがある」「生活困窮者」「同居者の有無に関わらず、必要な養育又は介護を十分に提供できる状況にない」を対象患者に、病院が入院患者の家族にヤングケアラーがいることを見つけ、ヤングケアラーに重い介護の負担がかからないような支援につながる取り組みをした場合に加算対象とすることなどを想定している。
■中学2年生の5.7%、高校2年生の4.1%が「ヤングケアラー」、約6割が相談相手なし
ヤングケアラーとは、「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っていることにより、子ども自身がやりたいことができないなど、子ども自身の権利が守られていないと思われる子ども」をいう(図3 ヤングケアラーとは)。
厚労省が2021年4月に公表した調査によると、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%が「世話をしている家族がいる」と回答(図4 中高生調査結果①世話をしている家族の有無)。このうち6割超が誰にも相談したことがないとしており、孤立しやすい傾向がある。
今年5月に厚生労働省・文部科学省の副大臣を共同議長とする「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム報告」によると、①ヤングケアラーは、家庭内のデリケートな問題であることなどから表面化しにくい構造。福祉、介護、医療、学校等、関係機関におけるヤングケアラーに関する研修等は十分でなく、地方自治体での現状把握も不十分。②ヤングケアラーに対する支援策、支援につなぐための窓口が明確でなく、また、福祉機関の専門職等から「介護力」と見なされ、サービスの利用調整が行われるケースがある。③ヤングケアラーの社会的認知度が低く、支援が必要な子どもがいても、子ども自身や周囲の大人が気付くことができない-との現状を指摘。福祉、介護、医療、教育等、関係機関が連携し、ヤングケアラーを早期に発見して適切な支援につなげるため、今後取り組むべき施策として「早期発見・把握」「支援策の推進」「社会的認知度の向上」を示した。
これを受け厚労省は、ヤングケアラーの支援に関して2022年度予算案概算要求で、①ヤングケアラー支援体制強化事業の創設(新規)、②ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業の創設(新規)、③子育て世帯訪問支援モデル事業の創設(新規)、④ヤングケアラーに関する社会的認知度の向上(拡充)を計上。
さらに、2022年度診療報酬改定のうち、入退院支援について、「ヤングケアラーについては、早期発見や、適切な支援へつなげることが必要であり、関係機関の連携が重要とされていることから、退院困難な要因を有している患者を抽出し、地域の関係者と協力する仕組みを評価している入退院支援加算において、どのように考えるか」と、課題と論点として取り上げることになった。
【事務局のひとりごと】
2021年12月1日(水) 日本経済新聞の記事(関西版では46頁/48頁)によると、大阪府立高生対象に実態調査を行った結果、「17人に1人」はヤングケアラー、という結果が出たそうだ。この記事が出た当日、報道番組でも、衝撃的な数字として取り上げられていた。
悲劇のドラマの主人公で、架空の人物なのであれば、多くの人々の共感を得る人気俳優が生まれそうなものだが、この数字はドラマではない。現実なのである。
以前取り上げたが、今や、生徒の「7人に1人」は貧困家庭ともいわれている。「1億総中流」などといわれていた日本で、こちらの方がもっと衝撃的な数字なのだが、教育格差は将来の所得格差を生み、結果一層格差が拡大し…という負のスパイラル。こちらも深刻な問題なのだが、しかし、これは筆者の私見だが、このヤングケアラーも「7人に1人」の「1人」に入っている可能性が、大いに考えられるのである。
本文中の【図-3】ヤングケアラーとは をご覧になっただろうか。
身につまされる思いである。しかも、今月号の別テーマで挙げた、働き詰めの研修医も、自らが置かれた環境に何の疑問を抱くことなく仕事に追われ、自らを客観的に見ることができにくい状態なのだろうが、それでも年齢的には社会人だ。ヤングケアラーは大学生、高校生、はたまた中学生、もしかすると小学生だ。もっと自らの置かれた環境が、本来の若人が「あるべき姿」とどれだけ異なっているかなど、考える由もないだろう。
コメントを紹介したい。
〇医師:精神科医で学校医「イギリスのヤングケアラー支援策に学ぶ」
「ヤングケアラー」という言葉はイギリスが発祥で、18歳未満が「ヤングケアラー」、18~24歳くらいまでが「ヤングアダルトケアラー」と分類される。イギリスでは自閉症、アルコール中毒などの問題を抱えている労働者階級が多く、かねてから彼らが子どもたちに与える悪影響が問題視されていた。このような背景から、イギリスでは1980年代後半より国を挙げてヤングケアラーの支援に取り組んできた。1995年には家族介護者に対する支援策である「ケアラー法」が制定された。その後2014年の法改正時にはヤングケアラーに対する支援策も盛り込まれ、教育や就労支援、財政面での援助などが強化。
現在、イギリスの学校では、放課後にヤングケアラーの生徒たちが集まり、情報交換など交流を図るプログラムが実践されている。その場には、NPOなどの支援団体、学校の担当教員、地域ボランティアといった大人たちも参画し、ヤングケアラーたちをサポートしている。同じような境遇の仲間を見つけることで、勇気づけられ、自分自身がヤングケアラーであることに誇りを持てるような土壌づくりがなされている。
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非常に不勉強で恐縮の至りだ。日本で「ヤングケアラー」という言葉が言われ出したのはつい最近のような気がするが、それだけイギリスに比べて家庭環境が良い国だったのか?あるいは我慢強い国民性ゆえか、クローズアップされないまま現在に至ってしまったのか?筆者が思うに、両方の中間がその理由ではないか。根拠はないがそんな気がする。
次はこんなコメントだ。
〇ケアラー議連事務局長:一億総介護時代、在宅サービス、施設サービス、ケアラー
支援という3本が揃わないとケアラーさんはもたない
自民党ケアラー議員連盟事務局長の、野中 厚衆院議員は、「2025年には団塊の世代も後期高齢者になり、一億総介護時代になる。すべての人が施設に入るのは難しいので、結果的に在宅介護にならざるを得ない。家族は24時間付き合わなければならず、介護者に対する社会的な認知とか支援が必要だと思う。在宅サービス、施設サービス、ケアラー支援という3本が揃わないとケアラーさんはもたないと考える」と述べている。
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「一億総介護時代」。こちらも新しい言葉だが、2025年なんてもう目前である。「すべての人が施設に入るのは難しい」、確かにそれもそうだ。お互いがお互いをケアする時代。「ヤング」・「アダルト」どころでなく、「シニアケアラー」も、当然いる時代に突入だ。
文科省からはこんなコメントだ。
〇2022年度予算要求で「スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーによる
教育相談体制の充実」
文部科学省は2021年3月から厚生労働省と「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」を設置し、関係機関が連携してヤングケアラーを把握し、適切な支援につなげるための方策について検討を行い、5月に「報告書」をまとめ、今後取り組むべき施策として、①早期発見・把握、②支援策の推進、③社会的認知度の向上をあげた。
文科省は2022年度予算概算要求で、「スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーによる教育相談体制の充実」98億円(2021年度72億円)を要求。「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」報告書等を踏まえ、相談体制の充実を図る。
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続いて厚労省のコメントも紹介したい。
〇新規に「家族介護者(ケアラー・ヤングケアラー)支援に係る研修等事業」を実施
厚労省は2022年度予算概算要求「地域医療介護総合確保基金を活用した介護従事者の確保」(137億円)の中で、「家族介護者(ケアラー・ヤングケアラー)支援に係る研修等事業」(新規)を実施する。地域包括支援センター職員、高齢部門市町村職員等を対象に、ケアラー等の現状や課題を理解しケアラーやヤングケアラーの発見と支援ニーズの把握、関係機関との連携方策、ケアラーの実際の体験談等をカリキュラムとした研修を行い、ケアラーに対する支援体制の強化を図る。また、ケアラー同士が話し合える高齢者や認知症などの対象別の集いの場等の事例をもとに立ち上げ、運営手法をまとめたマニュアルを作成し、集いの場等の立ち上げを促進する。
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イギリスでいうところの「アダルトケアラー」は、我が国においては「ケアラー」と称されているようだ。
社会的な認知は最近であったが、すでに現場からはこんな声が届いている。
〇訪問看護師:精神疾患の親をケアする子どもの支援
市の 心の健康センター の精神保健福祉士から、重度のうつ状態で生活保護を受給し療養中の母親の病状安定と息子の社会参加の促進を目的に支援して欲しいと紹介を受ける。息子はケア責任を引き受ける中、高校を中退。以降、自宅にひきこもり過ごしていた。訪問看護師として、母親の服薬支援を行うと共に、市と連携し福祉サービスの利用を働きかける一方、息子と相談をしつつ、外出(買い物やコンサートなど)に同行した。その結果、母親の病状が安定し、ホームヘルプサービスにつながった結果、息子のケア負担が軽減され、息子は一人で外出できるようになり、定時制高校に再入学できた。ヤングケアラーへの直接的支援ができる訪問看護以外のサービスの開発、(精神疾患のある)親と子どものための(ピア)サポートグループの実施の必要性を感じた。
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涙が出そうになる。もしも「学校なんか行きたくない」と叫んでいる子どもたちがいるとしたら、この息子さんが再び学校に通える喜びを噛み締めていた(だろう)ことをどう感じるだろうか?
自治体の取り組みを紹介したい。
〇埼玉県で全国初の「ケアラー支援条例」
さまざまな世代や立場で家族などを介護する人(ケアラー)を社会で支援するため、全国で初めての「ケアラー支援条例」が2020年3月に埼玉県議会で成立した。介護者の社会的な孤立防止や「介護する子ども(ヤングケアラー)」への支援などを求める動きが、成立を後押しした。「ケアラー支援条例」では、ケアラーは、高齢や障害、病気などで「援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護、看護」などをする人と定義。「全てのケアラーが個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができるように」することを明記し、県や県民、関係機関が連携しながらケアラーを社会全体で支えていくことや、県が推進計画を作ることなどを定めている。なかでも18歳未満の「ヤングケアラー」に対しては、適切な教育の機会を確保し、自立が図られるよう支援しなければならないとする。担当部署は、県福祉部地域包括ケア課。
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昨年に「全国で初」である。冒頭に日経新聞で取り上げられた大阪府は、「具体的な支援策の検討を進める」段階だ。支援策が全国に行き渡るには、もう少し時間がかかりそうだ。
今月号は学校教師からもコメントをいただいている。今テーマでもいただいた。
〇ヤングケアラーがいじめの対象にならないように見守る
ヤングケアラーとして親などのケアをする子どもは、心根の優しい子である。そういう子どもは、友だちから付き合いが悪いなどといじめの対象になりがちだ。いじめの対象にならないよう、日頃から見守る体制、スクールカウンセラーが必要ではないか。
〇コミュニケーション能力の欠如につながる可能性
高校生と言えば勉強や部活に忙しい時期。この時期に家事や家族の介護に追われるようでは、学業に悪影響を及ぼすことは想像に難くない。遅刻や宿題忘れ、欠席ばかりでなく、部活動に参加できなくなることによる体力・健康面の影響や、友だちと遊ぶ時間が奪われコミュニケーション能力の欠如につながる可能性もある。
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本当にそうである。そうであるが、いったいこの問題はどうやったら解決するのだろうか。闇が深い。
学生さんからのコメントを紹介したい。
〇社会福祉学科学生:町議会で「包括的支援体制」の必要性を強調
岡山県美作市の美作大学社会福祉学科4年生が、同市美咲町議員研修会にて、美咲町議員14名に向けて、「ダブルケア」「ヤングケアラー」をテーマに発表と提言を行った。「公的な支援として、SNSなども活用し、子どもたちが相談できる公的な専用窓口を設置する」「町民、事業所、関係機関、教育関係機関の連携により、ヤングケアラーの理解から早期発見・対応に努め、社会的に孤立しないような地域づくり、将来の進路に影響を与えない支援体制の構築が必要」などと述べ、重複した課題に対応するために、様々な分野が連携する仕組みである「包括的支援体制」の必要性を強調した。
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美作市美咲町(みまさかし みさきちょう)の町議員は、この学生の訴えに何を思い、どう行動されるのだろうか。ただ、これは岡山県だけの問題ではなく、日本のどこにあってもおかしくない問題なのだ。
ヤングケアラーご本人のコメントもいただくことができた。
〇認知症祖母のケアで長時間病院に、大学に進学したものの、退学を考えた
Aさんは高校生の時に祖母が認知症になったのをきっかけにケアを始めた。家族は持病のある祖父、祖母、母、Aさんの4人。母子家庭で仕事とケアで忙しい母親を助けようと、お手伝い感覚でケアを始めたそうだ。「おばあちゃん子」として育った。このため、祖母にケアを必要になった時「何とかしてあげたい」と強く感じたという。入院した祖母に付き添っていたAさんは、祖母の身体拘束の同意を病院関係者に求められた。その時は何のことかよくわからなかったが、「点滴が抜けないようにするため」と説明され、同意した。病院側は、家族がいる時だけ拘束を解いてくれた。このため、責任を感じていたAさんは、時間さえあれば病院へ行き、長時間祖母のそばに付き添うようになったという。長時間のケア生活は当然、Aさんの生活にも影響を及ぼした。大学に進学はしたものの、一部の授業は休まざるを得ず、単位や国家資格の取得をあきらめかけたり、退学を考えたりしたこともあったという。その後、祖母が介護施設に移り、Aさんのケアは終了したが、次は「介護ロス」に直面する。ケアする役割が無くなり、自分が「空っぽ」になってしまった。(ヤフー47NEWSより)
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…。
一体どうすればよいのか。
今回のテーマは2022年の診療報酬改定で「ヤングケアラー」支援で診療報酬加算をしてはどうか、という、厚労省が中医協に対して行った論点提示がテーマであったが、病院がヤングケアラーを見つけ、支援につながる取り組みをすると算定できるという建付けだが、病院のお陰をもって何らかの支援を受ける前に、入院の自己負担はその点数分の3割(か?)上がることになるだろう。病院側もデリケートな問題だけに、家庭の問題に踏み込んでよいか非常に迷う可能性もある。ヤングケアラー支援の取り組みは是非ともお願いしたいが、その算定方法については、まだ議論の余地があるのではないか。
殆ど「コロナ禍」の話題一人勝ちで終わってしまおうとする2021年だが、コロナウィルスとの付き合いはどんな形にしても来年も続いていくことになるだろう。それでも来る2022年は、今年よりも良い年であって欲しい。そう願わずにはいられない。
一年間大変お世話になりました。2022年もどうぞよろしくお願いします。
<ワタキューメディカルニュース事務局>
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